語りかける花たち

角島 泉(かどしまいずみ) 花日記
 ~石川の四季、花の旅、花のアトリエ こすもす日々のこと


雛まつりの茶会

2011年03月06日 | 金沢の四季
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(もしもし何処で見た雛なんですえ。)

いや、実際十六、七歳ぐらいの時に覚えている。

母親の雛を思うと、遥かに竜宮の、

幻のような気がしてならぬ。


ふる郷も、山の彼方に遠い。


いずれ、金目のものではあるまいけれども、

紅糸で底を結わえた手遊(おもちゃ)の猪口や、

金平糖の壺一つも、

馬で抱き、駕籠(かご)で抱えて、

長い旅路を江戸から持って行ったと思えば、

千代紙の小箱に入った南京砂も、

雛の前では紅玉である、

緑珠である、

皆 敷妙(しきたえ)の玉である。

(泉鏡花「雛がたり」より抜粋)


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きらびやかな雛飾りの描写と

母の思い出が綴られた、鏡花の随筆。


三月三日の雛の茶会は、この朗読からはじまった。

春の雪にふんわり包まれた松涛庵(金沢21世紀美術館内)。

主催者は、彗星倶楽部、中森あかねさん。

今年は卯年なので、

うさぎの置物を収集家であった鏡花にちなみ

その世界をふくらませたお茶会を催した。


最初の立礼席には、

各人の前に小さな花が生けられていた。

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この3センチほどの小さなアネモネに じっと見つめられ、

私はあっという間に、仮想の世界へ誘われてしまった。


目の前のお弁当箱からは、海の幸が踊り出し、

竜宮城の宴会を思わせる。

あかねさん手作りの 貝合わせの蛤は、箸置きに。


部屋には、桃が美しく生けられ、

小さな雛飾りが、楽しげに並んでいる。

宝箱の中に入ったような、にぎやかな色彩の世界。

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泉鏡花の文章と描写力はすばらしく、

小さな部屋の中で、想像の世界が無限に広がっていった。

主催者側には予想外の雪景色が、

かえって春への憧憬を膨らませたのかもしれない。


続いてお茶室で頂いたお菓子も、

あかねさんの手が加えられ、

おいしいお茶とともに、ほっこりさせてくれた。


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実はお茶の心得がない、と謙遜するあかねさん、

でも、心を尽くして客人をもてなす、ということは、

まさにこういうこと、と感動したお茶会だった。

そこかしこに小さな驚きが隠され、

欲しいな、という時に

おしぼりやお茶が出てくる絶妙な心遣い。

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そして、小さな空間を宇宙にしてしまうような

豊かな空想のひととき。

これこそが、茶会の醍醐味だ。


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泉鏡花が、実際に所有していた、小さなうさぎの置物。

意識が、奥の奥へ引き込まれる。

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中森あかねさんの彗星倶楽部が、

街中の小さなバーだった時に、私は彼女と知り合った。

以来、心を割って話せる大切な友人である。


あかねさん自身がアーティストで、

現代アート、映像、さまざまなパフォーマンスを

発信してきた人でもある。

彼女の周りには、いつも個性豊かな人が集まり、

私もおおいに刺激を受けてきた。


その後、浅野川沿いにある美しい家屋に移り、

ギャラリーを兼ねたカフェで

しばらく楽しませていただいたが、

彗星なだけに、現在は自由遊泳中なのである。


今後は、才能ある作家さんたちの発表の場を

さまざまなかたちで作っていきたいようだ。


今回のお茶会も、そんなたくさんの才能が集められていた。

おおっ、という意外な起用もたくさんあった。


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千利休のお茶の世界も、こんな風に

新しい試みにあふれていたことだろう。

現代に生きる人が、その精神を引き継ぐヒントが

この雛の茶会にたくさん潜んでいたような気がするのである。


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