井上美樹、大迫友紀、
二人のガラス作家の作品に
私が花を添える作品展が無事、終了した。
いや、私たち三人の中では、無事というより有事だった。
準備期間のみならず、
会期中も、お互いの感性が作用し合い、
思わぬものが生まれ出たりしたからだ。
そしてある夜、富田祥さんによるチェロの演奏が加わり、
空間、人、ガラス、植物が響き合い、
やがて一つの生命体のようになっていった。
演奏会の翌日、吊り下げられたガラスに
ユリの花を生けていった。
途端にガラスが艶っぽくなった。
ユリは、最終日までに次々開花していった。
二人の作家は、ここの空間を下見に来た時に、
吊り下げるガラス器を思いつき、
これらの作品を制作してくれた。
ガラスを支え、表情を与える金具を、
金工作家の今城晶子さんが担ってくださった。
.
さまざまな器が、輝き、歌う。
鉄の壁掛けに、有機的なラインの花器と
キャンドルフォルダーを付け替えることができる、井上美樹さんの作品。
柔硬、和洋の魅力を合わせ持つので、
似合う花のバリエーションも広がっていく。
この日はキキョウを。
.
同じく井上さんの小さな壺に
庭で咲いた青い小花を。
日に日に作品同士が馴染んでいき、
呼吸さえ合わせているように見えてきた。
窓から入る風や光と戯れ、
人も、その楽しげな中に受け入れてもらえた。
ところで、この作品展には、大事なもう一つの顔があった。
二人のガラス作品で、おいしいかき氷を食べられる、という趣向。
そもそもこのガラス展のきっかけは、
私の個人的な、小さな欲望だった。
時さかのぼること一年前、そう、あの猛暑の夏、
大迫友紀さんのガラスの器が
美しい氷を連想させることから、
たまたま遊びに来てくれた彼女に、
「この器でおいしいかき氷が食べたいなぁ。」
とつぶやき、そんな かき氷屋をいつかしたいね、という話をしていた。
すると、そこにたまたまやってきた、
おいしいオーガニック料理で人気の
ムシャリラムシャリロ、村田美紀江さんが
「シロップは私が!」と言ってくださったので
夢のような話が一気に現実味をおびてしまった。
それならちゃんとしたガラスの作品展をして、
付随してかき氷屋を、という話に発展していったのだ。
花のアトリエ こすもす の三階で作品展、
そして一階では通常の花屋を休みにし、おいしいかき氷屋。
ムシャリロさんは、この日のために
4種類ものシロップを作って下さった。
・珈琲モカジャバ ~ ショコラリキュール入り
・国産無農薬レモンと蜂蜜 ~ 自家製完熟梅ジャム入り
・地元産デラウェア ~ エルダーフラワーエッセンス入り
・白花豆 ~ ドライいちじく&ぶどうのリンゴジュース煮添え
どれも絶品、手間ひまかけた、体にやさしい味。
これは、大迫さんの器に、珈琲味のかき氷の図。
そして、井上美樹さんの器に、白花豆のかき氷。
二人の器からイメージを広げて考案したというシロップは、
やさしい色合い、やさしい味。
でも奥行きのある豊かな味わい。
このかき氷をほんとうにたくさんの人に食べていただけた。
男女問わず子供からお年寄りまで、
再度訪れてくれる人も多く、嬉しいかぎりだった。
で、気づいたら最終日を前に、一種類しか残っていない。
その朝、あわてて私は実家に走り、
庭でちょうど熟れたブラックベリーを摘んで来て、
蜂蜜を入れて急いでシロップを煮込んだ。
なんとかぎりぎりの時間で完成し、
ルビー色の美しいかき氷ができあがった。
そして奇跡的に、最後のお客さんに完食して頂き、
完売御礼。
小さな欲望が出発点で、
遊びの延長線にある作品展だったとはいえ、
最後まで何が起こるかわからない、
緊張の連続の一週間だった。
人との関わり合いで、新しい何かが生まれるのが
コラボレーションの醍醐味だろう。
また作品を見に、味わいに来て下さった人々からも
いろんな刺激をいただけた。
ここからまた、何かがはじまると信じている。
.