語りかける花たち

角島 泉(かどしまいずみ) 花日記
 ~石川の四季、花の旅、花のアトリエ こすもす日々のこと


海辺のやぶ椿の村

2010年03月17日 | 能登の花
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「いつか能登の薮椿の集落を訪ねてみて下さい。」

昔、知人から届いた年賀状に書かれてあった言葉。

休日の朝、目覚めたら晴天で、急に思い出したのだった。


さっそく電話して、場所を問うと、

小さな集落で観光地ではないし、説明しにくい場所だし. . .

といいながら、アーティストらしく、

絵を描くような言葉で説明をしてくれたので、

イメージした絵を思い浮かべながら、車を走らせた。

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そこは、能登の大島(おしま)という、海辺の集落である。

100件もないほどの小さな村に

無数のやぶ椿が茂り、ちょうど花の盛りを迎えていた。


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海のそばに、椿におおわれた神社があるという。

椿の大木が生い茂り、静謐な気がただよう場所。


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階段の上には、小さな拝殿と小さなほこらがある。

そのほこらは海に面し、3人の海女を祀ってあるという。

北九州に同じ信仰があり、

海づたいに繋がっていると感じる。


ほこらから、石の崖をおそるおそる降りてみる。

石畳の海岸。

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その石で作られた碑。


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能登の海は、荒れているイメージが先行しているが、

春から秋にかけて、お天気さえよければ、

とてもおだやかな表情を見せてくれる。


集落の中を散歩していると、

不思議な形の小屋が目に入ってきた。



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まわりの畑で作業するおじさんが、

昔、タバコの葉を乾燥させるのに使っていた小屋なのだと

話してくれた。

この集落では、90%ほどの家で、

タバコの栽培をしていたのだという。

でも、時代の流れとともに、現在は絶えてしまったと。


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家々のまわりに咲き誇る椿をたっぷり堪能し、

夕方の黄色い光がさすころ、

特別うっそうと椿が茂る、こんもりした場所があった。

ふと見ると、その中へ、小さな石の階段が続いている。

怖いもの見たさの好奇心で、椿の森へ入っていった。


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そこは、なんと小さな墓地だった。

知人が話していた美しい椿の墓地を、偶然見つけてしまった。

説明しにくい場所にあると言われていた。

そう、外からは、お墓がまったく見えないのだ。

ドームのようにお墓を囲うのは、すべてやぶ椿の大木。


暗闇に、したたる紅色の花。


椿は、あの世とこの世の境に咲く花のようだ。

花は土に落ちて、やがてまた新しい花をつける。


自然と共に暮らす人々は、命の波動を

こうして 身近な花や木や、海や風に合わせて

生きてきたのだ。


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落ちた椿に、すかさず糸を張りはじめた蜘蛛。

一筋の糸が、生命をつないでいく。

傾きかけた日が、その小さな いとなみも見逃さず、

やさしい光をあてた。


能登には、美しい場所がまだまだたくさんある。

時間のゆるす限り、また出かけてみよう。


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