いしころにっき

石原石子の日記です

愛すべきひと

2011-09-13 22:32:08 | 知らないひと
昨夜
電車にのっていると
目の前にうなだれて座っている男が
半眼をひらいて
死んでいるかのようにしているかとおもうと
とつぜん目を見開き
ひゃっくりみたいな
痙攣を音にしたような
息をひゅっと引いた声を発していました。

私はこの人死ぬんじゃないかとおもって
目を伏せがちに見守っていました。

何度も何度も


ひゅっ ひゅっ


そのたびごとに


目をカッとひらいて


ひゅっ


という声がでます。
私は

いつ死ぬんだろう
死んだらどういうリアクションをとったらよいだろう
そのまえに私が犯人ではないというアリバイはつくっておかなくては

と考えていると
彼はポケットから携帯をだし
電話をかけました。


誰がでたのかはわかりませんが彼は短い言葉を相手に伝えます。



死ぬ・・・



死ぬ・・・・・・


私はいよいよ死んでしまうのではないか
それとも最期の言葉を告げて自殺でもするのか
人ごみのそれなりにある夜の電車内で
どうするのだろうと彼の言葉を、表情を、
注意深く見詰めます。
渡井が見守るなか
彼はみっつめの台詞を電話の相手に伝えます。




愛してる・・・




私は死にかけました。

彼は電話を切ります。
私は動きゆく夜の町を眺めます。


ああ ステキな夜ですね。
私ももうすぐ最寄駅。
マイ・スイート・ホーム。
アイ・ラブ・阿佐ヶ谷。


彼はひとつ手前の高円寺で降りました。
酔っぱらっているのでしょうか。
足取りはおぼつかなく
無事に帰れるとよいですね。

おもいました。


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