いせ九条の会

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再度「宇宙基本法案」について/山崎孝

2008-05-12 | ご投稿
5月9日、与党と民主党は「宇宙基本法案」を国会に提出し、わずか2時間の審議で内閣委員会を通過させました。今国会で成立を図ろうとしています。「宇宙基本法案」は、今までの平和目的限定の宇宙開発が軍事目的の開発を可能にするものです。

この法律が出来れば、ミサイル防衛の中核となる高度ミサイル監視衛星の導入などが出来ます。ミサイル防衛の究極は、相手のミサイルの無力化を図ることです。この目論見は相手を警戒させ軍拡に向かわせる危険があります。

ミサイル防衛を進める根拠に日本への軍事的脅威の存在があります。日本への脅威を根拠にミサイル防衛を推進してきました。この事例を示しますと、北朝鮮のテポドン1号(衛星実験という説もある)は、1998年8月に発射実験を行われました。日本のミサイル防衛の研究開発は、システムの有効性と膨大な経費を要するため躊躇していました。しかし、この実験を契機に1999年に研究と開発を進めることが決めています。だが配備はしないという考えは示していました。しかし、2006年7月に北朝鮮のテポドン2号の発射実験を背景にして、2007年3月と11月に埼玉県の入間基地、千葉県の習志野分駐基地に陸上迎撃型のPAC3が配備されました。

日本への脅威を考えて見ます。冷戦時は盛んだった旧ソ連の脅威の宣伝は、今は影を潜めています。現在、一番宣伝が盛んなのは北朝鮮の脅威です。しかし、北朝鮮の核の廃棄の問題は6者協議で取り組まれ、北東アジアの平和と安全のメカニズム作りを目指しています。

現在は6者合意の第2段階を取り組んでいます。焦点の北朝鮮の核の申告について、5月11日付の東京新聞は、《ソウルの米国大使館は10日、核計画申告問題で北朝鮮が米国側に提出した資料について、1986年以降の寧辺の実験用黒鉛減速炉と核燃料再処理施設の稼働記録だと明らかにした。同資料は「申告が完全で正確であるかを検証する重要な第一歩になる」としており、米国は内容を慎重に分析する方針だ。核施設の無能力化作業については「11工程のうちの8つが完了した」と説明、実験用黒鉛減速炉の約8千本ある使用済み核燃料棒は「3分の1以上が抜き取られた」としている。資料は訪朝していたソン・キム米国務省朝鮮部長に提出された》と報道しています。

米国は核の申告が完全なものと判断すれば、北朝鮮のテロ国家支援の指定解除を行なう意向を示しています。このように進む状況を見れば6者協議が大きく後退して崩壊するとは思えません。6者協議の原点は、2005年に北朝鮮は6者協議で、北朝鮮の安全を保障すれば軍事用の核兵器を廃棄すると約束し、米国は北朝鮮の核兵器の廃棄を実現すれば安全を保障すると約束していることにあると思います。

中国の脅威の宣伝もありますが、中国の国家主席が来日、日中共同声明で相互に脅威にならないことを確認したばかりです。日中は経済面においては相互扶助の状況となっており、中国は交易で生きる日本の最大の輸出国です。

「宇宙基本法案」趣旨説明で自民党の桜田義孝議員は「安全保障環境や国際情勢も変化しているため、宇宙開発利用を日本の国家戦略に位置付ける」と述べました。北東アジア情勢の大きな変化の特徴は、冷戦時には鋭く対立したロシアと米国、中国と韓国、中国と米国が、6者協議の枠組みで東北アジアの平和と安定のために協力し努力していることです。

現在の韓国と北朝鮮は少しギクシャクしていますが、基本的な関係を二つの事例で見ると2007年6月21日に高圧の電気を送ることができる南北間の送電線が59年ぶりに連結された。韓国電力はこれまでも、汝山変電所を通じ1万5〇〇〇キロワット程度の電気を変圧した形で開城工業団地に送電してきたが、今回の送電線完成で飛躍的に電力供給が増えることになった。朝鮮半島を縦断する鉄道も軍事境界線を越えて連結されています。この鉄道を使用した定期貨物列車の運行が開始されています。

日本のミサイル防衛システムの経費は、海上迎撃型、地上迎撃型と合わせて、1999年の研究開発から2007年度までに5,638億円を投入され、2008年度は1,338億円の予算が見積もられ、現在の計画完成まで1兆円を超えると言われます。更に日米共同で宇宙空間からミサイルを迎撃する次世代ミサイル防衛システムが検討されています。

このように膨大な経費がかかるミサイル防衛計画は、国家の財政の逼迫を理由に庶民に対して負担増が続いている政治と比較されて検討されなければならないものと思います。6者協議の到達点、北東アジアの平和と安全が達成されればミサイル迎撃システムは「宝の持ち腐れ」のようなことが起こると思います。

 「宇宙基本法案」は総則の条項に「日本国憲法の平和主義にのっとり」との文言が入っています。1969年5月の国会決議で確立した宇宙の平和利用の原則を放棄しておいて、平和主義に則りとはよく言えたものです。憲法の示す平和主義とは、周知のように国際紛争を武力の威嚇や行使で解決しないことです。具体的には、平和外交を徹底し、ミサイルの飛ばない北東アジアの平和な環境を築くことに最大限努力するだと思います。