いせ九条の会

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福田首相の「傍論。脇の論ね」の発言に対して/山崎孝

2008-05-08 | ご投稿
福島重雄 元判事は、2008年5月1日付朝日新聞の記事で、《名古屋高裁判決は裁判のあり方としては常道》、日本国憲法第81条の規定では《「司法の審査に服さない国の行為」の存在を考える余地はない》と述べています。以下、その記事を紹介します。

【司法は堂々と憲法判断を】(新聞の見出し)

 航空自衛隊のイラクでの派遣活動について、名古屋高裁が4月17日に出した判決の中で、憲法9条に違反するとの判断を示した。9条をめぐる裁判での違憲判断は、私が札幌地裁の裁判長時代に言い渡した「長沼ナイキ基地訴訟」の自衛隊違憲判決以来、実に35年ぶりのことだ。

 国防など高度に政治性のある国家行為については、司法は判断権を有しないとする、いわゆる「統治行為論」という考え方がある。しかし私は、判決でこれを採用しなかった。なぜなら憲法に違反する考え方と言わざるを得ないからだ。憲法81条は「最高裁判所は、一切の法律、命令、規則または処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である」と規定しており、このような憲法のもとで、「司法の審査に服さない国の行為」の存在を考える余地はないと言える。

 そもそも三権分立の中で、司法が一定の分野について判断を避けるという姿勢は、政治に追従、譲歩することにほかならず、日本が「法治国家」ではなくなってしまう。合憲であれ違憲であれ、裁判所は証拠に基づいて堂々と判断を示し、それを積み重ねることによって国民の間で議論が深まることが、法治国家のあるべき姿である。私はこうした考えから、自衛隊と憲法9条を判断の対象にすることになんら迷いはなかった。

 その後の35年間、9条違反を主張した裁判はいくつか提起されたものの、憲法判断が示されなかったのは、統治行為論を原則とする最高裁の意向が強まったからだろう。

 残念なことに、憲法判断を避けるという裁判所の消極的な姿勢は、自衛隊の実態と憲法をめぐる議論が国民の間に広がっていかなかった、その一因になってしまった、と私は思う。国民が関心を持たなければ、裁判官も「わざわざ憲法判断をする必要はない」と、統治行為論に逃げ込みやすくなってしまう。こうした好ましくないムードがすっかり定着してしまったが、名古屋高裁の久しぶりの9条判断は、この現状を変えていくきっかけになるかもしれない。

 今回の違憲判断に対して、福田首相は「傍論。脇の論ね」と語り、素っ気なかった。判決が主文では国側の勝訴としつつ、理由の中で違憲判断を示した手法に、「主文に影響しない違憲判断は蛇足だ」とする批判も出ている。しかし、原告が主張するような憲法違反があるかどうかという事実認定をまず確定したうえで、その事実に基づいて原告に訴えるだけの権利、利益があるのかどうかを判断した手法は、裁判のあり方としては常道であり、なんら問題ない。

 航空自衛隊トップの「『そんなの関係ねえ』という状況だ」とする発言をはじめ、政府関係者の指摘の多くは、判決のインパクトを褒めようとする意図が感じられる。本来、違憲判断が示されたときは、判決内容を頭から無視するのではなく、不服であっても率直に受け止めたうえで、まず政策の内容を点検し、国民の議論が深まるように努めていくべきである。

 政府が判決を軽視する態度を取れば、司法への信頼は弱まってしまう。国民全体が「そんなことは関係ない」と受け止め、深い沈黙に陥ってしまうような事態は避けなければならない。

福島重雄さんの経歴 73年の長沼ナイキの判決後、東京地裁手形部、福島、福井家裁に勤務し、89年に定年まで6年残して退官。現在、富山市で弁護士事務所を開設。77歳。

★ コメント 福島重雄さんは「長沼ナイキ基地訴訟」で自衛隊は違憲という判決を下しています。日本の平和運動は、自衛隊の存在は憲法違反と捉えて日本の軍国化を防ごうとしてきました。しかし、野党が自民党と連立を組むために自衛隊を容認するようになり、自衛隊が災害救助活動に参加することやソ連の脅威宣伝、ソ連の崩壊後は中国や北朝鮮の脅威が唱えられ、日本が攻められた時に無防備ではいけないという保険的な考えで、国民意識が変化して自衛隊の認知度が高まりました。

現在の国民意識は、読売新聞社が4月4日に発表した世論調査で見ると、戦争放棄の1項の「改憲」は12.5%、「改憲必要なし」は81.6%。戦力不保持などの2項は「改憲」36.8%、「改憲必要なし」は54.5%となっています。9条2項を変えないで自衛隊は持っているほうが良いとする考えが多い状態です。

朝日新聞が本年5月に発表した世論調査で、9条を「変える方がよい」23%あり、その回答した人には、どう変えたらよいかを聞いたところ、憲法に自衛隊の定めがないことを踏まえ、「いまある自衛隊の存在を書き込むのにとどめる」「ほかの国のような軍隊と定める」の二つを示したところ、「存在を書き込むにとどめる」が56%で多数を占め、「軍隊と定める」は38%でした。全員に、自衛隊の海外活動をどこまで認めるか三つの選択肢で聞くと、「武力行使をしなければ認める」が最も多く2007年と同じ64%。「必要なら武力行使も認める」が17%(2007年22%)、「一切認めない」は15%(2007年10%)でした。

このような世論調査の結果から言えることは、改憲しないで自衛隊の存在は認める、9条2項を変えるにしても自衛隊をなんでも出来る軍隊にしてはいけない=日本は戦争に参加してはいけないというのが現在の国民の多くの意識だと思います。自民党の改憲目的とは鋭く対立しています。

「必要なら武力行使も認める」が17%しかないことは、海外での武力行使を想定した自衛隊の海外活動の恒久法制定とも対立しています。私たちはこのような国民意識を変える政治宣伝と対決していく必要があると思います。