★失敗するためにやるベネズエラの政権転覆の策謀
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南米のベネズエラでは、今年1月10日にマドゥロ大統領が2期目の就任をしたが、議会の多数派を握る野党がこれを認めず、
野党指導者のグアイドを暫定大統領として宣言し、マドゥロの与党とグアイドの野党が激突し、混乱が続いている。
米国政府は以前からマドゥロ政権を敵視しており、昨年11月の中間選挙直前に
トランプ政権の「過激政策担当」のボルトンが
ベネズエラの政権転覆を目標にすると宣言し、マドゥロ敵視を強めた。
米政府は、年末にグアイドを訪米させた後、1月末にはグアイドをベネズエラの正式な暫定大統領と認めた(マドゥロ政権を認めなくなった)。
その後、米政府はベネズエラに軍事侵攻して政権転覆する選択肢もあると言い続けている1月以来のベネズエラの混乱は、米国がグアイドを支援してマドゥロ政権の転覆を試みているため続いている。
「これは米国によるクーデターの試みだ」と言っている
マドゥロは正しい。
米政府がベネズエラの政権を転覆したがるのは、20年近く前の911後からのことで、マドゥロや、
その前の大統領だったチャベスがキューバなどと親しい反米(対米自立)的な左翼だからという理由だ。
ベネズエラが産油国なので石油利権を狙った政権転覆策だとも言われている。
しかし
米国は、ベネズエラの政権転覆を20年も狙っているのに、成功していない。
米国は、ベネズエラの野党を支援して政権奪取させようとしてきたが、
野党の質が悪く分裂気味だった。
それでも、大統領が国民的な英雄だったチャベスから、13年のチャベス死去の後に副官から昇進しただけのマドゥロに代わり、
15年に選挙で議会の多数派を野党に奪われる状態にまでは至った。
経済政策の失敗に加え、
米国などによる長年の経済制裁により、国民生活は何年も破綻したままだ。
しかしまだ、中南米の政治伝統として、傲慢で介入的な覇権国である米国が人々に嫌われており、米国傀儡の政権への移行が今ひとつ支持されていない。
マドゥロは低空飛行ながら政権を維持してきた。
これまで米政府は、ベネズエラの野党がマドゥロ政権を転覆した場合はそれを認知するという態度だった。
だが今回トランプは、そこから一歩進めて、まだマドゥロ政権が政府として機能しているのに、
マドゥロの正統性を無効と宣言して自分こそが大統領だと言い始めたグアイドを正統な(暫定)大統領だと認めた。
これは画期的だ。いよいよベネズエラの政権が転覆するのか・・と思ってしまいそうだが、
よく見るとそうでない。
トランプは世界各地、各分野での米国の覇権・信用を意図的に失墜させていくなかで、
ベネズエラのマドゥロでなくグアイドを正統な政権だと宣言し、世界中の同盟諸国に、
同じようにグアイドを正統な政権と認めろと強要している。
中南米で米国の経済援助を頼りにしている諸国や欧州などの一部、合計約60カ国がグアイドを正統な政権と認め始めた。
だが、今や米国と肩を並べるようになった地域大国で構成する
BRICSは、
親米的なブラジル以外のロシアや中国、インド、南アフリカが、マドゥロを正統な政権として強く支持している。
国連もマドゥロを正統と認め続けている。
EUも政見転覆に反対している。
内政的にも、ベネズエラの軍隊がマドゥロ支持継続を決めており、
政権転覆の見通しはない。
米政府は、ベネズエラに大量の支援物資を搬入する「人道支援」をやろうとしているが、マドゥロ政権に物資の入境を拒否されている。
米国は、支援物資がマドゥロの政府でなく、野党勢力の手に渡るように画策しており、野党勢力が米国から得た物資を配給することで人々の支持を強め、政権転覆につなげようとしている。
支援物資の中に武器が隠されており、それを使って野党支持の民兵団が政府軍に戦闘を仕掛けてベネズエラを内戦に陥らせるという「シリア方式」も試みられそうだ。
トランプや米政府は、「人道支援物資」の入境を阻止するマドゥロ政権が人道上の罪を犯しているため
「米軍を軍事侵攻させてベネズエラの政権を転覆することが人道上、必要かもしれない」と言い出している。
BRICSの中でも、
ロシアと中国は、特にマドゥロ支持が強い。
ロシアは米国に「支援物資を使った政権転覆の試みをやめろ」「米軍がベネズエラに侵攻するなら、ロシアもマドゥロの要請を受けて軍隊を差し向けて、米軍による侵攻を阻止する」と通告した。
米国は、ベネズエラに関するロシアとの話し合いに応じ、3月20日にローマで次官級の米露会談が行われたが対立を解消できなかったため、
ロシアは3月24日、マドゥロ政権の要請に応える形で100人の軍の特殊部隊要員をベネズエラに送り込んだ。
同時にロシア軍は、米軍の空爆を迎撃できる
迎撃ミサイルS300をベネズエラの空軍基地に配備した。
ベネズエラから第3次世界大戦が始まりそうな勢いだが、
トランプの米国はロシアと一戦交える気などない。
ロシアがベネズエラに百人の軍隊とS300を送り込んだ時点で、
米軍がベネズエラに侵攻する可能性はほぼゼロに下がった。
それでもトランプや側近は
「米軍の侵攻による解決が選択肢に入っている」と言い続けている。
やる気がないのに侵攻すると言い続けると、国際社会の米国に対する信用失墜が加速する。
米国が傀儡を使って政権転覆を画策するのをロシアが軍事的に阻止する流れは、すでにシリアで行われている。
シリアは、ロシアの覇権下に入って米国が手出しできない国になりつつある。
ベネズエラも、やがてシリアと同様になる。
中国は、マドゥロ政権に対し、石油代金の先払い分として200億ドルを融資している。
ベネズエラの経済難により、債務の返済は13年から滞っている。
このままマドゥロ政権が転覆されると、その後の新政権は国益を優先すると称して中国への返済を渋る可能性がある。
そのため、中国はマドゥロ政権を支持し続けている。
露中に支持されている限り、米国はマドゥロ政権を転覆できない。
グアイドらベネズエラの野党勢力も、露中に楯突かないことを表明している。
3月25日、ロシア軍がベネズエラに着いた直後、
ベネズエラの国土の6割近地域で停電が起きた。
米国が政権転覆の試みを強める中で、大規模な停電が頻発している。
マドゥロは、停電は米国勢(軍産)の策謀だと言っている。多分そのとおりだろう。
しかし、ベネズエラをテコ入れする
露中は停電を解消する対抗策を強めており、
米国側がロシアに対する嫌がらせのように、露軍到着直後にベネズエラを大停電に陥らせたことは、露中の対抗策としての停電解消の作業を急が
せる結果になっている。
露中のほか、インドがベネズエラから石油を買い続けているし(安値で買えることが一因)、
イランやトルコといった反米非米色を強めている諸国もマドゥロ現政権を支持している。
トランプがベネズエラの政権転覆にこだわるほど、ロシアや中国などが現政権への支持を強め、転覆を不可能にしていく。
このような展開になるのは、トランプが「馬鹿な軍産・強硬派」だからか??。そうではないだろう。
トランプは、北朝鮮やシリア、自由貿易など、いくつもの分野において、軍産や強硬派の戦略を過激にやって失敗する(その挙句に撤兵する)ことをやり続けている。
ここまでくると、
意図的な失策であると考えた方が自然だ。
ポンペオやボルトンやエリオット・エイブラムズら、ネオコン系のトランプ側近群は、
過激にやって失敗するために配置されている。
トランプは、ベネズエラを政権転覆するそぶりを見せ続けることで、ロシアや中国などがベネズエラの現政権をテコ入れせざるを得ないように仕向け、
露中などが米国を押しのけてベネズエラの問題を解決していく多極化の流れを意図的に作っている。
トランプは、米国の権力を握り続けてきた軍産複合体が世界各地の政権転覆をやれないようにするため、各地で軍産の政権転覆策を過剰にやった挙句
に失敗させ、覇権放棄と
軍産の無力化を進めている。
米国は、ベネズエラからの石油輸入を全面停止し、ベネズエラに駐在していた米国の外交官も全員引き上げさせた。
これらはベネズエラに侵攻するための準備なのだと言われているが、実際は米国に縁を切られた
ベネズエラが露中側に全速ですり寄る結果を生んでいる。
http://tanakanews.com/190326venezuela.htm