毎回、『忘却とは忘れ去ることなり。 忘れ得ずして忘却を誓う心の悲しさよ』の有名なナレーションで始まる
ラジオドラマ『君の名は』、は1952年に始まったNHKラジオドラマですが、翌年には主演:佐田啓二、ヒロイ
ン:岸恵子で、松竹映画社が制作しています。
ラジオも映画も公開当時、私は大人のドラマが何たるかも分かるはずもなく、聞いたことはなかったのに、妙
に記憶に鮮明なのは、年長の兄や姉からの刷り込みなのか、それとも、後年映画を見た際の、印象なのか
定かではありませんが、確かに「ラジオドラマが始まる時間帯になると、女湯が空になる。」と言われ、ヒロイ
ン:真知子の ‘真知子巻き‘ (マフラー)が大変な人気であったことはよく覚えています。
さて、昨日レンタル店で映画を物色中、目に留まったのがこの映画「君の名は」で、「懐かしいな~」借りて見
ようかと、思い立った次第です。
主演の佐田啓二が後宮春樹を、ヒロインの岸恵子が氏家真知子を演じるメロドラマです。
純な愛の物語なのですが、男女のすれ違いを巧みに描き、「ドラマは、これから一体どうなっていくのだろうか
?」との、視聴者心理を巧みに突いた筋立てとなっています。(たしかに戦後、娯楽の少なかった時代のラジオ
ドラマとしては、出色の脚本によるドラマかと・・・)
~あらすじは~
昭和20年5月24日の空襲の中で、偶然に出会った若い男女が、戦火の中を手に手をとって逃げ惑い、防空壕
で一夜を明かします。
そして別れる際に、銀座の数寄屋橋の上で、春樹が「もし生きていたら、半年後の24日にここでお逢いしません
か。」と聞き、女性も「ええ、もし生きていたら・・・」と応えて去っていく。
女性の後ろ姿に『君の名は・・・?』と尋ねるのだが、空襲のサイレンが鳴り響き、慌ただしい喧騒の中で、お互
いに名乗れないまま別れて行きます。
・・・半年後の再会の日、真知子は空襲で親を亡くし、親戚の叔父を頼って佐渡へ渡る船上から、遠い東京を見
詰めていました。
一方、春樹は約束の数寄屋橋へ行き、真知子をひたすら待ち続けるのですが、真知子は遂に現れません。
映画は、北海道から九州まで西に東に舞台を移しながら、男女それぞれの人生の紆余曲折を経ながら、展開し
て行く。
1日違いで約束の場所へ行けなかったり・・・やっと会えた時には、真知子が結婚式を明日に控えていたり・・・次
に再開する時には身ごもっていたり、夫の策略で遠ざけられたり・・・
ストーリーは至って単純なのだが、徹底した「すれ違い」を軸にストーリーは展開される。
いかにも戦後間もない恋愛映画らしく、この時代の、真っ正直で純朴な日本人の‘愛‘が描かれた映画である。
ただこの映画、一部作から三部作まで観賞するには、相当の時間を要するので、その点はご承知置きを
主演の佐田啓二は、『喜びも悲しみも幾歳月』など、当代随一の売れっ子スターであったが、事故で38歳とい
う若さで世を去っている。
ちなみに中井貴一、貴恵の父君でもある。(当然のことながら中井貴一は、父親そっくりになって来た。)
今日も、良い一日であります様に
「君の名は」~森昌子