業務日誌

許せないヤツがいる 許せないことがある
だから倒れても倒れても立ち上がる立ち上がる
あいつの名はケアマネージャー

夏をあきらめて

2006年07月25日 | 重要事項説明書
紫陽花の花言葉はいろいろありますが、代表的なものは“移り気”でしょう。

とりあえず、公益通報の話題は保留。保留というか充電中。

この都会に来て最初の夏、私は九州に戻ってもとの職場の夏祭りに行くつもりでした。
社会福祉法人の夏祭りと聞けば、まあ地域住民や関連団体が出張ってテント張って店出して、というヤツを想像されるでしょうが、そこはこのハリケンがもといた職場ですもの、ひと味もふた味も違います。
なんとそのお祭りには芸能人やお笑いタレントがやってきたり、(よく○○マラソンなんかで見る光景のように)大手食品メーカーが協賛して販促品を配布したりして、どこぞの私学の学園祭のように派手で大掛かりです。
今年はそのお祭りに来賓として参列し、すっかり洗練された姿を披露したろと目論んでいたのです。アリのように働くもと同僚を尻目に、プラスチックの検尿コップでビールをガバガバ飲んで(在職中これやってガンガン叱られたことがあります)高見の見物をするつもりが、ルイヴィトンの買いすぎ←すみません見栄はりました 諸事情により断念せざるを得なくなって残念無念です。
まあ今年は例年になく雨量が多く、ついさっき送られてきた写メで見た限りでは職員全員ドロドロのべちゃべちゃだったようですので、ヨゴレを卒業した私は行かなくて幸いだったかも知れません(笑)。美貌のカリスマヘルパーM主任でさえ、シャンプー後のペルシャ猫のように無残な有様でした。…相変わらずお綺麗ではあらせられましたが… 九州地方の皆様、この度の水害、心よりお見舞い申し上げます。



このように、イナカ方面では夏祭りに奔走していた今朝のこと。

私ハリケンは、ひがしケアプランの併設デイケアの玄関先で、やるせなさとせつなさと行き場のない怒りにうちのめされておりました。
この業界に身を置いてはや9年、あんなものを見たのは初めてでした。

それはあるデイケア利用者(女性)の虐待痕です。

私がこれまで見たことのある虐待痕は、大抵大腿の内側とか、袖に隠れる二の腕とか、そういった虐待する側の隠そうとする意図の、それこそ見え隠れする控えめな部位にありました。
ですが私が今朝見たそれは、なんとその女性の顔面にありました。
まるでまるで、小さな子供が無邪気な指の力で押しつぶし、玩(もてあそ)んだ桃のように、腫れて膨らみ、薄く血を滲ませて凹み、普通の神経の人なら目を覆いたくなるようなものです。
虐待者はその女性の配偶者。
担当ケアマネはカニちゃんです。
若く正義感に溢れるカニちゃんですから、その虐待痕に気付かないはずはないのですが、カニちゃんの熱意をもってしても介入できない現状なのです…詳しくは書けませんが、そういうケースだそうです。
当のご本人は重度の認知症。
車椅子に乗って週に1度デイケアに来られます。
もはや発語も反応もなく、青や赤や黒の無数の痣の中で瞼を閉じたまま。

いま認知症であることが、彼女にとって不幸なのか幸せなのか、そんなことをふと考えた自分に対してすごく腹が立ちました。
情けないケアマネです。私にはとても耐えられそうにありません。
情けないケアマネです。自分の担当でなかったことが、正直今はありがたい。



また、今日の午後、帰国子女のナオミ(仮名)から電話がありました。
「ハリケン、彼女(ナオミの母親の久保さん(仮名)の様子がおかしいの」

長年介護をしてきたご主人がアルツハイマーで入院して以来、すっかり落ち込んでしまった久保さんは、暫定でデイケアを利用するようになっていました。
最初の数回はとてもうまくいって、久保さんも「また来たい」「もっと来たい」と言って下さるまでになっていたのですが、先週突然「お休みしたい」「笑っているのに疲れた」と、利用を休んでしまわれたのでした。
私も心配になって何度か様子を見に伺ったのですが、その都度久保さんは留守でした。どこかに気晴らしにでも行ったかしらと思い、とりあえずは利用を強制も出来ないし、いい意味でほっといてみましょうか、などと話し合っていたのですが、実は久保さんは私が何度か訪問したり、電話をかけたりしていたのをご存知でした。
だって家の中に閉じこもったまま、電話にも出ず、気配を殺して泣いておられたのです。

久保さんは、ご主人が入院したことにホッとしてしまった自分を責めて、デイケアなんぞに行って自分だけ楽しい思いをしていることを責めて、責めて責めて泣いておられたようです。
しまった。
ほっとくタイミングを誤った。
今はほっとくべきときではなかった。
数日間ほとんど何も食べず、自宅にこもっていた久保さん宅へ走って走って走りました。
でも、久保さんは何も話してくれませんでした。
情けないケアマネです。ホントに無力です。
情けないケアマネですが、どうか遅すぎませんように。

人というのは、どこまで人を憎んだり好きになったりできる生き物なんでしょうか。同じくらい、自分のことも憎んだり好きになったりもできるのでしょうか。

ええ、今年の夏はあきらめました。
昔の職場を恋しがって、いまの職場に失望して、「ここではないどこか」を見ている場合ではないということか。
1日も早く、自分のケースに対して責任を果たせるケアマネにならなくては。
でも、それって一体どうやったらなれるんだろう。
情けない…情けないヤツだ、私ってヤツは。
トホホホホ。

 紫陽花の別の花言葉は『無情』です。