不定形な文字が空を這う路地裏

花火の日、幸福燃え落ちる、温かな爆弾のように
















泥土の中を泳ぐような日々が脳味噌を紙粘土にしていく、椅子に座り、頭を垂れて、水に溶けた絵具のように朦朧としていく数時間のことを…墓標に埋めるように忘れて、それからはまるで、一直線になったオシログラフを眺めるように空白だった、時折、自意識のフラッシュの中に浮かび上がる像はあまり楽しくない予感を孕んでいて…それは中で彼果てて死ぬためだけに作られる繭の中で息をしているような感情を抱かせる、凝固―生態的な凝固、なにかひと言で表そうとするなら、そんな言葉になる、自分の爪先を見つめながら、いつか近い将来、死神のオフィスのドアをノックする自分のことを思う、やつは俺の風体を見てどんな印象を抱くのだろうとか―つまらない与太話だ―いつも、気がつけば遅い夕方にそうして磨耗している気がする、取り立ててなにがあったわけでもない、ただただ日常はそうして重要な機関を麻痺させにかかるのだ、どんな理由でそんなことをしているのかは知らないが―喉の奥にいつまでも残っている飲料水の感触は正直に言ってあまり気持ちのいいものではなく、キッチンに立って水を飲む、何度も蛇口を捻り、何度も飲み干す、一度では足りない気がした、呪文と同じで、何度でも繰り返されなければ効果が無いような…そうして小便をする、洋便器に腰を下ろして―知らず知らずのうちに溜まっていたものをのろのろと垂れ流す、朦朧とした一日がそれに巻き込まれて、レバーのひとひねりで下水管へと流れていく、コンスタントな死、コンスタントな埋葬はそんな風にカタがつく、誰も悲しまないし、誰も悔やんだりしない、それは感情が必要なほどに蓄積されてはいない…死のことばかりがそうして浮き彫りになるのは何故だろう?それと同じだけ生まれるものも多いというのに―それはもしかしたら、生まれる前のことを誰も知らないせいなのかもしれない―水洗便所のタンクが水で満たされ、浮き上がったセンサーで水の流れが止まる、ただそれだけで、空気の鳴る音が聞こえるかのような、静寂―なにが俺を空っぽにするのだろう?俺はいつでも満たされることを願っているというのに…窓の外では祭りの準備が整えられ、もうじき始まろうとしている、そんなことのためだけに一年を生き抜くことが出来るやつらが、いまかいまかとそのときが来るのを待っている、まるで、そう、夜になるたびに生き返って墓場から這い出してくる死者たちのような活気…そんなものが、死後硬直の経過を見るようなこの街の空気をひととき陽気にする、騙されないことは不幸なことだ、俺はときどき、自分のことをそんな風に自嘲し、そして安堵する―それは結局、騙されているに過ぎないからだ、目を開け、本当に見るべきものを見逃してはならない、ご褒美に目が眩むような無自覚ではいけない…出来上がっているものを疑え、こういうものだからと説いてくる連中の神経をすべて疑え、先に決まっているものに正解など無い、すでに定義づけられているものに、ひとりの人間に沿うものなどありはしない、当たり前のことじゃないか?どうしてそんなものがないがしろにされてしまうのだ…?花火が空で破裂する、祭りが始まったのだ、打ち上げ会場から程近いこの家は、破裂音と共に壁が振動する、幸福を装う戦争が始まったのだ、窓を開けてはならない、あの花火を眺めてはならないよ、偽の幸せを植えつけられてしまうよ―どうしても見たいというのなら、ほんの少しだけ窓を開けて、カーテンに隠れながら見るのだよ、彼らに見つからないように…俺は老婆の声を真似て、たったひとりでそんなコメディを演じてみる、クスリとも笑えやしない…やれやれ、と俺はため息をつく、そんなやつらを見過ぎたのだ、騙されて、鵜呑みにして、信じすぎたやつら…信じて、信じ込んできた自分を、誇らしく感じている、そんなやつらを……

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