青い光、死に急ぐ時、俺は
時を吸い込んだ埃にまみれながら
網膜の疲労のせいで動脈のように赤い
海岸線を見つめながら無力であろうとした
出来たことを数えながら見送るなんて、ただ見送るなんて
もうそんなくだらない後悔にはうんざりしていたんだ
まばたきがひどく速いせいで世界は点滅する
光源に向かいながら落ちてゆく夜の深さ、足元で遊んでいる
半透明の腐敗した示唆
真実、お前のもとに行きたいと思った時俺はいつでも
どこか追いついてはいけないと考えている自分のことを知っていた
何が怖い、知ることか、終わることか、だけどそんなものに
これだと指し示すことが出来る一点などあるわけもないのだ
海岸線は動脈のように赤く点滅しながら終わる、ああ、終わった
ああ、終わった…
海老の死体のように砂浜に積み上がる今日という思念の死体、俺は枯れ草を集めて火をつけた、思念の死体の死にざまは気に入らなかった、全然気に入らなかった
なにを、なにを幸せそうに終わっていやがるんだ、てめえはなんにもかなえられなかったじゃねえか
綺麗な言葉がつらつら出てくるのはそんな自分を判っていたせいだろう、墓碑銘が飾られるのは哀れみみたいなもんだろう
なにを幸せそうにくたばっていやがるんだ、そんなもの俺は良しとしたりしないぜ、絶対に良しとしたりしない
動脈のように赤く今日の思念の死体は燃える、闇夜を照らして…
踊る炎は星を掴もうとしているかのように見えるのだ、あはは、絶対安全なドリームの領域、届かないことを必ず理解している無心、うすらぼけた茶番の終わりには最高に似合いの幕引きさ、なあ、そうだろう、今日の思念
今日の思念は少しばかり何かを言おうとしたみたいに見えたけど、それはあぶられていることによる筋肉の収縮かもしれない、ただの
筋肉の収縮、失われていくのだという形態の摂理
自然現象で片付けるにはヤツの目はまっすぐに見据え過ぎているような気がした、俺のことを
生き延びたから誇らしいとでも思っているのか、とヤツは言っているように見える、誇りなんてこんな所には無いさ、と俺は答える
誰かを荼毘にふそうとするとき、生きてるものの誇りなんてそんなもの何の関係もない、俺は持つべき時をそこそこ心得ている、誇るべき時をなんとなく心得ているんだ、お前にはそのことは判らないだろう、なぜならお前はもう誇ることもないからだ
みっともない死、みっともない死、ただただひたすらみっともない死だ、お前を焼いた煙は
さめざめとなく幽霊のようだ
ううお、と北風が殴りつけるように吹いて、お前という哀れさがたちまちに砂浜に散らばる、埋葬すら残されなかった、俺はジッパーを下げてそのあとに小便をした
小便は独り言みたいな泡を吐いてから夜に溶けていった、アンモニアの夜、アンモニアの海、いなくなったお前のあとに
足元が深く砂に入る、海よ、海よ、俺を食らおうと言うのか、お前に俺を食らうことが出来るのか
お前の絶対さだっていつか壊れる、お前だってきっといつかは過去のものになる、俺は滅びたくない、滅びることのないただの思念になりたい、いっとき砂浜に散らばった、やり切れない不完全さとは違う滅びることのないただの思念に
お前は俺になることが出来るか、お前は俺になることが出来るか、俺は靴底を撫でる波の先端に向かって話しかける、これ以上どんな言葉が必要なのか、俺がお前とは違うものだと言うがために
永遠は滅びるものにしか綴れない、だからこそ俺はここに居るのだ、そうだろう、そうじゃないのか?生まれたい、生まれたい、生産してくれ、永遠の砂浜
構造に爪を差し込んでこじ開けるような毎日、だから指先はいつも痺れたような疲れに取り巻かれている、俺の指を優しく包んでくれる真実、だけどそれはたったの一日で死に絶えてしまう、荼毘に付される夢を見る、生きたまま、手足を縛られて…うずたかく積まれたからからに乾いた藁の上で身悶えるのだ
熱い、熱い、熱い、焼けただれた皮膚が今生にしがみつくんだ、俺の指先を見ろ、またこじ開けようとしている、そして赤い熱に包まれ、動脈のような赤い熱に包まれ…
夢から帰ってくるといつでも目の端に赤い炎がちらつく、長いこともう死んでしまっているみたいな気分で東からの光を眺め続けてしまう、夜明けだ、夜明けだと、小鳥たちが囀る、排気ガスが彼らの喉を少し壊してしまっているかもしれない
あー、あー、俺はカーテンを開き窓に顔を張り付けて叫ぶ、生き残った、生き残った、夢から生き残った、夢から生き残ってしまった、どうすればいい、どうしたい、幸せそうに死んだなら羨んでもらえたのかい
なにもかも捨てるには積み上げてきたものが尊過ぎて、そうだ、俺は自分の人生をそれなりに愛してきた、だから歳を食ったのだ、得てきたもののすべてが長々とくすぶり続けるから
潮騒が聞こえる
終わったんだ
すべて
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