身体が冷えるのを待って、そっと手首に線を引く、こんなわたし死んでしまえばいい、こんなわたしは壊れてしまえばいい…もう少し気の利いた言葉を思いつきたかったけれど仕方がない―ぐずぐずしてたらまた帰ってしまうかもしれない、あの、守るものも何もない部屋へ
通い合うもののなにひとつない教室の中へ―わたしは嘲笑う
「ねえ、机の上に置いた花、ほんとうのことになっちゃったね?」クラスメイトがそうはしゃぐところを想像して―もう悔しいなんて少しも思わなくなった、牙を持つことが強さだとは思わないから
わたしはわたしの行くべきところへ歩みを進めるだけ、誰かがきっとわかってくれるに違いない
「悲観にくれて」って言うひともいるでしょう、でも違う…おかしな話だけど、結論を出す事が出来てすっきりしているの、秋のはじめの夜はやわらかだわ
お気に入りの鞄を枕代わりにして地面に横になる―登って来るときにこの丘の名前を見たはずなんだけど明日のことで頭がいっぱいのせいかな
楽しそうなことはちっとも思い出せない―枯れそうな天の川をわたしは見つける、いつか
いつか、喪失を何も知らないで居たころに西のほうで見た本物の天の川を思い出す、それはほんとうにミルクをたたえた河のようで―こんな夜に見つめたらきっと涙を流してしまうだろう
ポケットからキャンディを出して口の中に入れた、いろいろな虫が鳴いている、名前を追いかけるようなことはせずに人工的なあまさを知覚しながらじっとしていた…あさかったかな、とわたしは思う―少しも気持ちが遠くならない、私は腕を少し持ち上げてみる
人知れぬ沢の流れのように音も立てずあかい血がこぼれている、動かないせいだ、とわたしは思う
動かないせいであまり判らないんだ
シリウスを見ながらあくびをする、もしかしたら
いつがそうなのかも知らずにわたしはさよならするのかもしれない
あとのことに思いを馳せてみる、私はすぐに見つけてもらうような場所は選ばなかった―それは臆病さの行き着くところだから―夕方激しい雨が降ったから明日から少し涼しくなるかもしれない、そしたら腐るのは少し遅くなるだろうけど
なんといっても小さな世界はまだ残暑だから、やっぱりほどなく人間のかたちをなくしてしまうんでしょう
好奇心旺盛な犬か、それとも作業服を着た工事か何かのひとたちがわたしを見つけるかもしれない―ああいったひとたちはどんな場所にでもひょっこり現れるから―別に明日からのことなんかどうだっていいけれど出来たら並外れたいたずらなんか企まないひとに見つけて欲しいな
たとえば誰も知らない場所を探して逃げてきたひとなんかに
そのときわたしの気持ちはまだここにあるのだろうか?それともさっさとあの世とやらへ向かうのだろうか?わたしはお母さんのことを気にかけるだろうか?判りあえなかった人のことなんかに思いを残すことがあるだろうか―?まあ、もちろん
ほんとうのほんとうのところはきちんとつながっているんでしょうけれども…ようはタイミングね、それ以上のことを考えてもしかたがない…不思議なものだなぁ
こういうの昔は一番きらいなことだったけど、やっぱり価値観ってうつろうものよね(いつだっただろう、マンガで読んだそんな台詞)
考えごとをしながらわたしはまたあくびをする、さっきと違うところは
さむいところから帰ってきたみたいにぶるぶると身体が震えたこと(さむいのかもしれない)
さっきよりも星がきれい、針の先のようなひかりを放って…おとうさんの車の中で流れてたうたをわたしは思い出す
FLY ME TO THE MOON
―古い映画の歌だったかしら?
おとうさんはよく口ずさんでいた
おとうさん、おとうさん…おとうさんはいつのまに、どこへ行ってしまったのだろう―まるで映画のなかの人みたいに居なくなってしまった
おかあさんはそのことについてはあまり話してくれなかった
ああ、そうね、そう…
たしかにあれは、古い映画のうただって言ってたわ
最近の「詩」カテゴリーもっと見る
最近の記事
カテゴリー
バックナンバー
人気記事