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不定形な文字が空を這う路地裏

あらかじめ瓦礫の中の




裏路地にもう何十年も転がってる自転車の
茶褐色に錆びた車輪が真夜中に一度だけ軋んだ
生き過ぎた鳥のため息のような音
その時、俺の知り合いがそこに居れば
俺がひとりで何事か話していると思ったかもしれない


月はまだ不完全な球体で
穏やかな呪いのような薄明るい色をしていた
いつかそこを歩いた者たちの影が
地面に溶けてノスタルジーと名を変えている
足音を立てないように歩け


潰れた車の修理工場の脇で
野良猫が眠っていた
食い散らかされた
鳩の死骸と
ともに


ウルリッチの小説に出てきそうな
古い洋品店はこの街じゃ一番の曰くつき
色恋沙汰で女主人がめった刺しにされたとか
あれからずっと放置されてるディスプレイのドレスは
初めからあの色ってわけじゃなかったのかもしれないね


思い出は尽きない
どれだけの生が
どれだけの死がここにあろうと
俺たちがはっきりと見つめられるものはそれしかありはしないもの
ね、そうでしょう名も無い浮浪者よ

ノクターンの中
人生は破片
脆い雪のように散り惑う
踏みながら歩けばそれは
ポケットから出てきたいつかの映画の半券のようだ


すべての人間が居なくなって
ダンスホールは
初めて音楽の余韻を抱きしめる
冷えた冬の夜が
ハーモニクスみたいに鳴り続けている


もう軽く流すには無理がある程度の人生の中に
こんな夜ではなかった
そんな場面がどれだけあっただろう
致命的なバグを抱えたゲームソフトみたいに
いつも一番最初のシナリオの前で立ち尽くしているみたいな


裏路地の自転車
そいつは俺だった
食い散らかされた鳩も
不遜な色合いのドレスも
身をこごめた名も無い浮浪者も


たったひとりの時
どんな歌をうたう
たったひとりの時
どんな風に叫ぶ
そんな問いのために路上を彷徨い続けている


たとえば
この世の終わりなんてものを想像してみろ
その風景の中には




お前自身すら存在していない

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