不定形な文字が空を這う路地裏

今日が天気かどうかなんて本当はどうでもいいんだ











赤い血が時々生命を忘れて凝固して俺の血管はサビついたプラントみたい、尖った先端が劣化したチューブを内側から削いでいくんだ、砂浜をサンダルであてもなく歩いているみたいな…摩擦を奏でながら
優しい歌や楽しい歌を紡ぎながら白痴のように笑って生きる、そんな暮らしを羨んだりすることもなくはなかった、だけど、痛みに触れようともしない暮らしは結局のところおままごとだから、いつかそれを歌うために痛みを遡ろうと決めたのさ、白痴のように淀んだ目つきをそこらにばら撒きながら
おかしなものだ、続ければ続けるほど、そこには終わりがなく、果てしない虚ろの中でうろついているような気分になる、空気の密度が変わるところを、色合いで描こうとしてるみたいなそんな気分になる
よく光る空だね、よく光る空だ、ねえ君、うんざりするくらいよく光る空だよな
一直線に伸びた後風にぶれてゆく飛行機雲は、死際を間違えたロック・シンガーを連想させる、俺のライブラリにいくつも並んでる、もう二度と口をあけることが出来ないやつらの名前…五十音順に並べてみたけど、俺、そんなものにどんな意味も持たせるつもりはなかった…アーティスティックななりふりなんか上等なファンタジーで結構満足できるものさ、ベイビー、ダイスを転がせ、数秒後にどんな結果が待ってるかなんて考える必要はない
アイスクリームを連れてきておくれようんざりするような犬死にのサマー、浮浪者どもが徘徊するさびれた海水浴場のいくつもの廃屋、死んだ産業の窓に映る立ち小便を垂れる死んだ社会性、汚れた首輪をつけた柴犬がそれよりは幾分誇らしい調子で後ろ足を片方上げて存在意義を壁に飛ばしている、メロンソーダのようなそれぞれの在り方の―シンボル
派手なバンでホット・ドッグを売っている長身の女の頬に青い痣、殴られたのかと尋ねたら顔をしかめて「あなたには関係のないことでしょ、ほら、おつり、どうもありがとう」ときたもんだ、もう親切なんかを受け入れてくれるほど適度な不幸を抱えたやつなどどこにも居ないのだ、どいつもこいつもおのれの地獄を誇ろうとし始めた、そうさ、俺たちは貧しいんだ、ホット・ドッグを買うことが出来ても…明日やってくる支払いをうまく捌けるかどうかはまるで自信がない
この海水浴場に隣接する空地には昔遊園地があったんだ、到底自慢出来るような立派なもんじゃなかったけれどさ、「派手な公園」って言ってもなんだか見劣りするくらいの遊園地が確かに昔ここにはあったんだ、砂浜からいつも見えていた観覧車、何人もの友だちがそこでロマンティックを少しだけ卒業したバカでかい観覧車…あのゴンドラから見下ろす世界は哀しいくらい青くて…「海ってもしかしたら死んでしまった人たちのものかもしれないね」と呟いた十七の時のガールフレンド、あの娘もすぐに無口な魚に還ってしまった、本当はどんなふうに泳ぐ気だったんだい、本当はどんなふうに掻き分けていくつもりだったんだいって葬式の時に俺、尋ねたけれど、彼女の心はもう海水のように、溶けてどこかへ流れてしまっていた、不思議なくらい静かな顔をしていたなぁ…業火のような夕暮れが水平線を染める、数時間前のことだった
あの娘はきっとロマンティックを神様のように崇めていたんだ、十字架からまだ下りられない神様を見ているみたいに
海をまたぐ大きな橋から昨日、一人の男が飛び降りて砕けた、飛び降り防止用の、徹底的なフェンスを全て乗り越えて、きっとあいつは気がつかなかったのだ、まだ何かを乗り越えようとしている自分のことを、だけど、死んじまう男は好きだよ、死んじまう男は好きだ、どうしたって俺はそいつらを嫌うことが出来ない、愛しているよ、愛しているよ、愛してやるよ、DEATH、DEATH、DEATH、DEATH、遠く届かない世界で、よく似た俺が愛してあげるよ、飛行機雲にぶら下がろうとしたお前たちのロマンティックを…投げ捨てた世界に風は吹くかい、熱くなりすぎた頭を覚ましてくれるかい、よく光る空に書いて教えておくれ、エターナルな羽ペンで、余すところなく記しておくれ、俺がこちらの言葉に変換してばら撒いてあげる
未来なんか信じたりする子供じゃなかった、一度だってね、家族を闇雲に愛したりする子供じゃなかった、一度だってね、与えられたものをそのまま飲み込むような子供じゃなかった、一度だって、とても大きな憎しみやいらだちの中に放り込まれて、そのたびに頭の中でいろいろな武器を振りかざした、ある女は俺の頭の中で二千回は切り刻まれたよ
犬死にのサマー、暗色の誘い水、ロマンティックが打ち捨てられた観覧車、海は確かに死んでしまった奴らの揺りかごだよ、さようならと言う時にはいつでも頭の中でとりとめのない旋律が流れていた、知ってる旋律だったり、多分どこにもない旋律だったりした、さようなら、さようなら、何度口にしたって本当は別れることなど出来やしないんだ、飛行機雲、居なくなった、速い風が津波のように空を塗り替えて…俺はその先に続けようとした言葉を忘れてしまう



さようなら、今日が天気かどうかなんて本当はどうでもいいんだ

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