不定形な文字が空を這う路地裏

間近な彼方










昨日の嵐で砂浜に投げ出された流木
それと
古釘を踏み抜いて駄目になった俺の靴
クラブハウスサンドイッチの奇妙な後味と
昨夜の残骸が浄化される海岸線


約束は
初めからしなかった
カモメがバターナイフみたいに中空を撫でる
風は
朝の方角から吹いてきていた


もう人気の無くなったビーチハウスで
ささやかに流れている少し前の流行歌
タブレットの画面より
正面の誰かの瞳を見つめていた時代の


最後の海は
朝からずっと夕暮れのよう
さよならの言い方を忘れて
空家の札のかかった扉の前で佇んでいるときのよう
気持ちをおざなりにしたから
もう
手紙も
届かない


海岸線を走る車が増え始めて
エンジンの回転のせいで外気温が上昇する
滲み始めた汗は、だけど
季節を速送る風にたちまちさらわれていく
様々な感情がゼロに戻されて
自動販売機で買った飲物を
これまでよりもほんの少し冷たいと感じる


どんな名前も付けられない
そんな景色が
なぜか立ち去り難く
つま先は頻繁にあちこちに向き直り
なぜ
いつも
二度と見られないような気がするのだろう
いつだってこんなふうに
ここに立っていたのに


靴を脱ぎ
波打際に立つと
波がすくっていく足元を
子供のころよりも怖いと思った



夏が終わる

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