「恐慌」と書いたが、それはやはり一種の集団ヒステリーだった。
けれどもそのワリに意外とのんびりしていたな、とも思う。
ナニ言ってんのかわかんね、とツッコミ来そうだが、まあゆっくり説明してみたい。
まず、震災のせいで補給が絶たれたことは事実。流通経路は陸路もダメ。海路も空路もダメだったし、生産者のところに割合被害が集中してしまったから、補給のメドがまるで立たなくなった。そして石油タンクの炎上など在庫をかかえることすら出来なかったこともあって、市民の不安と恐怖は否応ナシに高まった。
クルマに関しては、震災のとき街中大渋滞したから、みんなずいぶんアブラを消費してしまっていた。僕もガソリンをタンクの半分くらいは残っていたはずなのに、あの夜、放菴にたどり着いたとき、ガソリン残量はわずか1目盛りを切っていた。
無い無い尽くしの仙台(笑)。
笑っている場合じゃない。「恐慌」は起こるべくして起こった。
震災の夜から市民はコンビニや小売店の前に並んでいた。他の都市も同じだっただろう。
しかしこう言ってはナンだが、それはとてもお行儀が良かった。
横入りもない、怒号もない。略奪もない。
無い無い尽くしの仙台(笑)。
笑っている場合じゃない。こっちは大真面目だ。
震災からのち、市民は毎日朝早くから並んでいた。
夕べの雪がそこかしこに残る。この寒さで命を落とした被災者も多かったという・・・。
生きているもの、特にお年寄り、乳幼児を抱えるひとは、どんな思いで夜を耐えていることか。
せめて物資があれば、ミルクは、水は、おむつは、ティッシュは・・・。
だからスーパーマーケットでは駐車場にまるで長蛇の如く人が並ぶ。
粉雪がはらりはらりと舞い、息が詰まるような冷たい風がどう、と吹く。
何か違和感がある。
よく見ると、店内に電灯もないし音楽もかかっていない。停電したままなのだ。
「ウチのカミサンから朝早く並ばされたんだや。コメかって来いど。」
「あーおコメ大事ですよねー。」
「ところでお宅、震災は大丈夫?」
「はい、なんとか。」
どうやら並んでいる人同士で話しているみたい。それも初対面どうし、かな。
ちらと振り返ると年配の男性が大学生くらいの女性二人と話をしている。
震災の話題さえできれば、誰とでも話ができる。みんな一番の関心事だし、話せば自然と情報交換になるから。
「そっちはもう電気通ったの?」
「いえー、まだです。水もまだ出ていなくてー。」
「じゃあオフロ大変だ。おねーちゃんだからフロへぇれねぇとキツイべ?」
「もー髪の毛バサバサでー!」
おじさんははっはっはと笑った。
「駅前の方では始めっから断水しなかったところもあるみてぇだど。」
「えーっありえなーい!」
そのときお店の人が出てきた。
「ただいま在庫の確認をしております。間もなく開店です。日用品はお一人5点まで。あっ、でもお酒はいっぱいあります。浴びるだけお買い上げいただいて結構ですー。」
行列から静かな笑いが起きる。
「オレもコメやめて酒買うかな。」
「ダメですよー。オクサンが怒りますよぉ!」
そのとき、お店がぱあっと明るくなった。
「あっ電気電気!」
店員があわててお店の中へ走ってゆく。
行列ではなぜだか拍手が起こった。
こんなのんびりとした「恐慌」ってのもなんだろね。
激甚災害が広範囲におよんだのだ。じたばたしたってどうにもならない、と誰もが知っているからだろうか。
こんな話もある。
ガソリンがほしくてクルマで並んでいたときに、急用が出来て戻らなくてはいけなくなった。
そのとき、その人は前のクルマのドライバーに「この行列が進みだしたら自分のクルマも進めておいてほしい」と頼んだ。
ありえないことを頼まれたドライバーはとまどいつつも引き受けた。
急ぎ家に戻ったその人は、用事を片付け、そのあと何をおもったか台所に向かった。
しばらく経って、クルマの並んでいるところに戻ったその人は、小さな包みを「お礼です」と言って相手のドライバーに差し出した。
それは取り急ぎ作ってきたおむすびだった。コメも海苔も鮭も貴重品になってしまったこの時に、惜しげもなく使っておいしいおむすびを作ってきたのだ。
ドライバーは大変喜んだという。
この話はおむすびをこしらえた本人から聞いた。
厨房に勤務していた人で、ホントに美味しい給食をつくる人だった。
このときのおむすび、実はお裾分けしてもらっている。職場に差し入れしてくれたのだ。絶妙の塩加減のおいしいおいしいおむすびだった。
自分が灯油を買う行列に並んだときは、「おつりがないので1000円まで」と言われた。ソレを聞いていたオジさんが、「だれかと組んで3000円にしたら二人分売ってくれるか?」と。
GSの店員さんは、ちょっと考えて「はい、いいですよ。」
するとその場でどんどん二人組ができていった。折半できる小銭さえ持っていれば成立する。見知らない人同士で「500円あります?」とかやり取りしている。給油が終われば「おせわさまー」「たすかりましたー」「どうもね!」などとやっている。
「恐慌」は「恐慌」なんだけど、なぜか妙なところで人のふれあいができている。「袖摺りあうも他生の縁」というやつか。
震災から一ヶ月が経つころには、この「恐慌」もずいぶん解消された。寒空に並んだ思いでも、いつか笑い話になるだろう・・・。
けれどもそのワリに意外とのんびりしていたな、とも思う。
ナニ言ってんのかわかんね、とツッコミ来そうだが、まあゆっくり説明してみたい。
まず、震災のせいで補給が絶たれたことは事実。流通経路は陸路もダメ。海路も空路もダメだったし、生産者のところに割合被害が集中してしまったから、補給のメドがまるで立たなくなった。そして石油タンクの炎上など在庫をかかえることすら出来なかったこともあって、市民の不安と恐怖は否応ナシに高まった。
クルマに関しては、震災のとき街中大渋滞したから、みんなずいぶんアブラを消費してしまっていた。僕もガソリンをタンクの半分くらいは残っていたはずなのに、あの夜、放菴にたどり着いたとき、ガソリン残量はわずか1目盛りを切っていた。
無い無い尽くしの仙台(笑)。
笑っている場合じゃない。「恐慌」は起こるべくして起こった。
震災の夜から市民はコンビニや小売店の前に並んでいた。他の都市も同じだっただろう。
しかしこう言ってはナンだが、それはとてもお行儀が良かった。
横入りもない、怒号もない。略奪もない。
無い無い尽くしの仙台(笑)。
笑っている場合じゃない。こっちは大真面目だ。
震災からのち、市民は毎日朝早くから並んでいた。
夕べの雪がそこかしこに残る。この寒さで命を落とした被災者も多かったという・・・。
生きているもの、特にお年寄り、乳幼児を抱えるひとは、どんな思いで夜を耐えていることか。
せめて物資があれば、ミルクは、水は、おむつは、ティッシュは・・・。
だからスーパーマーケットでは駐車場にまるで長蛇の如く人が並ぶ。
粉雪がはらりはらりと舞い、息が詰まるような冷たい風がどう、と吹く。
何か違和感がある。
よく見ると、店内に電灯もないし音楽もかかっていない。停電したままなのだ。
「ウチのカミサンから朝早く並ばされたんだや。コメかって来いど。」
「あーおコメ大事ですよねー。」
「ところでお宅、震災は大丈夫?」
「はい、なんとか。」
どうやら並んでいる人同士で話しているみたい。それも初対面どうし、かな。
ちらと振り返ると年配の男性が大学生くらいの女性二人と話をしている。
震災の話題さえできれば、誰とでも話ができる。みんな一番の関心事だし、話せば自然と情報交換になるから。
「そっちはもう電気通ったの?」
「いえー、まだです。水もまだ出ていなくてー。」
「じゃあオフロ大変だ。おねーちゃんだからフロへぇれねぇとキツイべ?」
「もー髪の毛バサバサでー!」
おじさんははっはっはと笑った。
「駅前の方では始めっから断水しなかったところもあるみてぇだど。」
「えーっありえなーい!」
そのときお店の人が出てきた。
「ただいま在庫の確認をしております。間もなく開店です。日用品はお一人5点まで。あっ、でもお酒はいっぱいあります。浴びるだけお買い上げいただいて結構ですー。」
行列から静かな笑いが起きる。
「オレもコメやめて酒買うかな。」
「ダメですよー。オクサンが怒りますよぉ!」
そのとき、お店がぱあっと明るくなった。
「あっ電気電気!」
店員があわててお店の中へ走ってゆく。
行列ではなぜだか拍手が起こった。
こんなのんびりとした「恐慌」ってのもなんだろね。
激甚災害が広範囲におよんだのだ。じたばたしたってどうにもならない、と誰もが知っているからだろうか。
こんな話もある。
ガソリンがほしくてクルマで並んでいたときに、急用が出来て戻らなくてはいけなくなった。
そのとき、その人は前のクルマのドライバーに「この行列が進みだしたら自分のクルマも進めておいてほしい」と頼んだ。
ありえないことを頼まれたドライバーはとまどいつつも引き受けた。
急ぎ家に戻ったその人は、用事を片付け、そのあと何をおもったか台所に向かった。
しばらく経って、クルマの並んでいるところに戻ったその人は、小さな包みを「お礼です」と言って相手のドライバーに差し出した。
それは取り急ぎ作ってきたおむすびだった。コメも海苔も鮭も貴重品になってしまったこの時に、惜しげもなく使っておいしいおむすびを作ってきたのだ。
ドライバーは大変喜んだという。
この話はおむすびをこしらえた本人から聞いた。
厨房に勤務していた人で、ホントに美味しい給食をつくる人だった。
このときのおむすび、実はお裾分けしてもらっている。職場に差し入れしてくれたのだ。絶妙の塩加減のおいしいおいしいおむすびだった。
自分が灯油を買う行列に並んだときは、「おつりがないので1000円まで」と言われた。ソレを聞いていたオジさんが、「だれかと組んで3000円にしたら二人分売ってくれるか?」と。
GSの店員さんは、ちょっと考えて「はい、いいですよ。」
するとその場でどんどん二人組ができていった。折半できる小銭さえ持っていれば成立する。見知らない人同士で「500円あります?」とかやり取りしている。給油が終われば「おせわさまー」「たすかりましたー」「どうもね!」などとやっている。
「恐慌」は「恐慌」なんだけど、なぜか妙なところで人のふれあいができている。「袖摺りあうも他生の縁」というやつか。
震災から一ヶ月が経つころには、この「恐慌」もずいぶん解消された。寒空に並んだ思いでも、いつか笑い話になるだろう・・・。