
11月22日、東京都庁の東京都労働委員会に、UberEatsUnionが、ウーバージャパンを相手取って争っている「団交拒否」事件について、審判を傍聴してきた。
担当委員は、公益委員「水町勇一郎東京大学社会科学研究所教授」、労働者委員「青木正男自治労東京都本部公共サービス民間労組協議会顧問」、使用者委員「石川純彦一般社団法人東京経営者協会事業局上席参事」。
11月18日に開催したオンラインシンポ「交通の公共性を脅かす現下の諸問題」で、棗一郎弁護士が「労働者性を否定するウーバーの主張の問題点と、あるべき労働者性判断」と題して、都労委におけるウーバーイーツ・ユニオンの闘いについてご報告されたが、その報告で感じたウーバージャパン側の主張の筋違いさは、今回の審判のウーバー側の代理人による証人尋問でも大いに感じた。
傍聴席から、何度も失笑が漏れてて、「うけを狙ってるのか?」としか思えない場面も多数。
ちゅうか、「普通の日本人」ってなんや?
【以下、オンラインシンポの資料からの抜粋】
都労委におけるウーバーイーツ・ユニオンの闘い~労働者性を否定するウーバーの主張の問題点と労働者性判断について
弁護士 棗 一郎(日本労働弁護団常任幹事)
〇ウーバーイーツ配達員の働き方の問題点
⑴ 距離報酬が実際の配達距離より 短い距離で計算されているという苦情がツイッター上で多数上がる。
⑵ 配達中に交通事故に遭っても適切なサポートを受けられない。
⑶収入が下がっている
〇団体交渉の申入れ
ウーバーイーツの配達員の働き方には、このような様々な問題や不利益があることから、 2019年10月3日に 「 ウーバー・イーツユニオン」を結成して、ウーバー・ジャパン、ウーバーイーツ社に対しては団体交渉を申し入れた。
最初の団交申入書の議題は、
①自己の際の配達員に対する補償
②距離計算の誤り(報酬計算の根拠となる距離計算)
③アカウント停止等(アカウントが停止されると稼働できなくなる)
④報酬
⑤ウーバーアプリについて (配達員はウーバーアプリによって配達の配点等を受けて稼働している)
⑥会社と配達員共同による配達員サービスの品質向上
⑦紹介料不払いの説明
〇ユニオンの主張
①労働組合法上の労働者・労働組合に該当するから、 ウーバージャパンは上記の団交事項について団体交渉に応じろ~団交拒否により、現在東京都労働委員会で係争中。
②労災保険法や最賃法における「労働者」概念を広げて個別法の適用を求める。
③現在は、労基法・労働契約法の適用は求めていない。
〇法律上の主要な論点
⑴ウーバーイーツの配達員は、「労基法上の労働 者」として労災保険の適用を受けることができるのか?
⑵また、配達員は、「労働組合法上の労働者」として労働組合を結成し会社に団体交渉を申し入れることができるのか??~都労委での主論点
⑶さらに、登録を抹消され配達できなくなった労働者は、「労働契約法上の労働者」として解雇無効を争えるのか?
〇ウーバーイーツの主な主張 (都労委の主張書面)
⑴ プラットフォームサービス
ウーバーイーツは、飲食物の配達を希望する飲食店と、飲食店からの配達業務の受託を小棒する配達パートナーに対するリード(マッチング)ジェネレーション(=見込み客の創出)サービスである。
被申立人ウーバー・ポリティエ・ジャパン(現在のウーバー・イーツ・ジャパン)は、ウーバーアプリを通じて、利用者の注文を飲食店に取り次ぎ、その後、配達を希望する飲食店と配達パートナーとのマッチングをアプリ上で行う。配達パートナーがマッチングを承諾した時に、飲食店と配達パートナーの間で運送契約が成立する。
被申立人ウーバー・イーツ・ジャパンと利用者との間には運送契約は存在しないから、配達の失敗や遅延に関し、ウーバー・イーツ・ジャパンは利用者に対し債務不履行責任を負わない。 アピージング 費用は、利用者に対する賠償金ではなく、円滑な運営、プラットフォームの安定性の維持という見地から、プラットフォームサービスの一環として行っているもの。
*アピージング費用とは、飲食物を指定時間内に利用者に届けられなかった場合に、利用者に対して、不満をなだめる費用として支払うお金のこと。
⑵ウーバーイーツ事業の特徴~配送事業ではなく、配達員の労働力を利用していない
過去の労働委員会命令や裁判例、学説において、労組法上の「労働者性」と「使用者性」の解釈が問題となった事例は、いずれも事業者が第三者を拘束し、労働力を利用しているにもかかわらず、雇用契約に伴う社会保険料の負担や人員整理に対する制約を避けるために、あえて業務委託や請負などの形を利用している。
ところが、本件の場合は、 ウーバー・イーツは、 シェアリングエコノミー上のマッチングプラットフォームであり、シャア事業者であり、配送事業を行っているわけではない。したがって、配達パートナーの労働力を全く利用していない。
ウーバーは、 配送事業者として報酬を得ているのではなく、マッチングプラットフォームの利用料を得ている。
また、 配達パートナーは、ウーバー・イーツを好きな時間、好きな場所、好きな回数利用し、飲食店に配達サービスを提供しているので、労働者ではない。
⑶シェリングエコノミーの課題?
シェアリングエコノミーは近年発展してきた新しい経済活動である。
シェアリングエコノミーにおける取引は、労組法が全く想定していなかった類型の問題である。 労組法上の労働者と労基法上の労働者は、実務上、統一的に扱われているから、本件において 配達パートナーが被申立人らの労組法上の労働者ということになれば、労基法(あるいはその他関連諸法令)においても労働者ということになる。 他の多くの同種のシェア事業者も同様の取扱いが行われることになり、シェリングエコノミーの存続は不可能となる。
今後のシェアリングエコノミーに対する規制の在り方としては、19世紀型の法律である労組法ではなく、自主ルールや新たな立法などシェリングエコノミーの特徴を捉えた21世紀型の立法により対処すべきである。
〇ウーバーイーツの主張に対する反論
⑴上記⑴の主張に対して
ウーバーが日本で行っている「ウーバーイーツ事業」の本質とは何かの問題である。ウーバーイーツは、自ら配達員に向けて作成した 「配達パートナーガイド」(甲196 頁) で次のように言っている。
*パートナーガイドは、ウーバー・ジャパンが配達員に交付している冊子で、アカウント一時停止・永久停止、配達員が遵守すべき行為規範、報酬(配送料)の基準詳細、業務遂行手順と注意点などが記載されており、まさに「業務指示書」である。
「 フードデリバリーサービス「 Uber Eats 」 は、2015 年12月に ウーバーが開始したデリバリーサービスです。日本では2016年9月29日に東京でサービスを開始しました。ユーザーとレストラン、配達員の三者をウーバーの革新的なテクノロジーで繋ぐことにより、最短時間で人気店の美味しい料理をお届けします。」と記載されている 。
つまり、 ウーバーが東京で始めた「フードデリバリーサービス」とは、「最短時間で美味しい料理を顧客へ届けるサービス」のこと であり、自分でフードデリバリーサービス事業だと認めている。
⑵上記 ⑵の 主張に対して
ここが最も重要なポイントである。上記のようにウーバーイーツ自身が「フードデリバリーサービス」(料理を顧客へ届けるサービス)だと認めているので、言い逃れはできない。現に、下記の図のとおり、配達員を自らのフードデリバリーサービス事業に必要不可欠な労働力として確保して組入れ、配達をリクエスト(依頼)している。そして、配達の対価として配達料(報酬)を配達員に支払っているのも紛れのない事実である。

⑶ 上記⑶ の主張 に対する反論
① ウーバーの「新しい経済活動だから、 労組法や労働法規の適用を受けない、既存の法律の規制を受けない。」などというのは暴論であり、詭弁である。
現代社会において、世界中の 企業はさまざまな法令上の規制のなかで厳しい競争を行っている。 ウーバーの主張は、単なる「甘え」である 。 ウーバーが「19世紀的」と批判する現在の法制度は、基本的人権を保障し、資本主義経済を安定的に機能させるために歴史的に発展してきた。こうした制度と調和しながら、新しい技術を用いたビジネスを展開することは、可能である。
「社会経済の発展を著しく阻害し」ているとか、「国際社会において我が国が深刻な遅れを取ることになる」との批判は、ウーバー に対して向けられるべきである。
② 上記⑶の波線の部分は、法律的に完全に誤っており、笑止千万である。労組法上の労働者と労基法上の労働者は別の概念であり、同じ概念とは解釈されておらず、最高裁判例と通説を全く理解していない。ウーバーの論理は破綻している。
③ ウーバーは、配達員が労組法上の労働者、ウーバーイーツが労組法上の使用者とされれば、「Uber Eatsもそれ以外のマッチングプラットフォームも存続できなくなる可能性もあり、そうなれば、社会経済の発展を著しく阻害し、ひいては、急速にシェアリングエコノミーが発展している国際社会において日本が深刻な後れを取ることになる可能性がある」と主張するが、ウーバー社と運転手・配達員及び組織された労働組合との間で世界的に労使紛争が激化しており、各国の裁判所において「ウーバー社の運転手や配達員は労働者であり、労働法の保護を受けるべきである。」という判決が出され続けている状況にある。
シェアリングエコノミーやマッチングプラットフォームビジネスであろうとなかろうと、人の労働力を利用して事業を展開し収益を上げているのであれば、その労働者を労働法の適用外に置いて、生命・身体の安全を危険に晒し、労働法の規制を受けないで労働者を収奪することは許されないことは、人類の歴史上当然の理であり、万国共通である。人間を犠牲にした経済の発展などありえないことである。日本だけが例外ではない。企業間の国際的な競争の面からみても、「公正なルールに基づく公正な競争」は世界各国のあらゆる企業に求められるルールであり、労働法を潜脱して労働者保護規制を免れるような企業活動は著しく不平等かつ不公正であり、認められるべきではない。「出前館」のように、配達員と直接労働契約を結び労働者として扱っても、十分に事業として成り立っているし存続している企業もある。日本のウーバー社だけが例外扱いされなければならない理由など世界中どこにもない。
そのシンポで、「ウーバー社と運転手・配達員及び組織された労働組合との間で世界的に労使紛争が激化しており、各国の裁判所において『ウーバー社の運転手や配達員は労働者であり、労働法の保護を受けるべきである。』という判決が出され続けている状況にある。」ということを受けて、棗弁護士はこの争議によって「世界の流れに追いつけていければいいな」と決意を語られていたのが印象的だった。
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