ヒーメロス通信


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ボードレール「われとわが身を罰する者」(『悪の花』より)小林稔訳詩

2015年12月22日 | ボードレール研究

ボードレール『悪の花』から「われとわが身を罰する者」の訳詩・小林稔

15 われとわが身を罰する者 L´HÉAUTONTIMOROUMÉNOS

 

 私は君を打つだろう、怒りもなく

憎悪もなく、者のように、

岩を打つモーゼのように!

君の目蓋から

 

苦しみの水が湧き出でるだろう、

私のサハラ砂漠を水びたしにするために。

期待に膨らんだ私の欲望は

君の塩辛い涙のうえを泳ぐだろう、

 

沖に舵を取る船のように。

君のいとしい嗚咽は、

その響きに酔う私の心に

突撃を打ち破る太鼓のように鳴り渡るだろう!

 

神に捧げる交響楽のなかの、

私を震わせ、私に噛みつく

貪欲な「皮肉」の恩恵で

私は調子はずれの和音ではないのだろうか?

 

そいつは私の声のなかにいる、耳障りなやつ!

私のすべての血、それはこの黒い毒物!

憎しみと羨望の女神メガイラが自らをそこに映す

私は不吉な鏡なのだ。

 

私は傷口にして刃物!

私は平手打ちにして頬!

私は四肢にして、処刑の車輪である

生け贄にして執行人!

 

私は私の心臓の吸血鬼、

――笑いの永遠の刑に処せられた

これら偉大なる見捨てられびとたちの、私は

もはや微笑することができぬ者たちの一人なのだ!

 

 

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