ボードレール『悪の花』から「秋の歌」訳詩・小林稔
11 秋の歌 CHANT D´AUTOMNE
一
もうすぐ冷たい暗闇へ、私たちは身を投げ沈むだろう、
さらば、私たちの短過ぎる夏の鮮烈な光よ!
私にはすでに聞こえている、中庭の敷石の上
たきぎの束が倒れ、不吉な爆発音を響かせているのを。
まったき冬が私の身に戻ってこようとする。怒り、
憎しみ、戦き、恐れ、強いられるつらい仕事、
そして、地獄の極に落ちた太陽のように
私のこころは、赤く凍った塊りにすぎなくなるだろう。
身震いしながら私は聴く、薪の一つ一つが倒れる音を。
断頭台を築く音は、もう密かな響きを立てない、
私のこころは、疲れを知らない重厚な金槌に打たれ、
押しつぶされ、崩れ落ちる塔と同じだ。
この単調な身を揺する爆音は、どこかで
ぞんざいに、棺に釘を打つ音のようだ。
誰を埋葬するための?――昨日は夏、そして、今日は秋を!
この不可思議な物音は、出発を告げるように鳴り響く。
二
私は愛する、あなたの切れ長な眼の、緑がかった光を。
優しくて美しい人よ、だが今日は、私にはすべて苦く
何ものもない、あなたの愛も、閨房も、暖炉も
海のうえに注ぐ太陽ほど価値を見出せないのだ。
それでも、私を愛せよ、優しい人! 母親になりたまえ、
恩知らずな者のため、それとも邪悪者のために。
恋人であるにせよ妹であるにせよ、輝かしい秋の、
さもなくば沈みゆく太陽の、しばらくは穏やかなる者になりたまえ。
何という短い務めよ! 墓は待つ、貪欲なる墓よ!
ああ! 許したまえ、あなたの膝のうえに私の額をのせ
灼熱の真白い夏を惜しみつつ、
晩秋の、黄色く心地よい陽射しを味わうことを!
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