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アメフト観戦記や読書日記を綴っていましたが、最近は古墳(コフ)ニストとして覚醒中!横穴式石室をもつ古墳にハマっています。

幻坂

2018-06-26 22:42:35 | 読書日記
 幻坂
 有栖川有栖著 角川文庫

 書店で大阪をテーマにした小説がないかなと思って、平棚を見て歩いていたときに、何となく目の飛び込んできた本。大阪の天王寺七坂を舞台にした連作小説というわけで、これは買って読まないとという訳で購入したのが、昨年の12月、それからしばらく本棚で熟成した後、今回読むこととなった。
 小説の舞台となった天王寺七坂については、難波国の一宮生国魂神社から南にかけては、江戸時代に寺町が形成され、そのために緑が豊かに残った風情のある場所となり、そこにいつしか、北から、真言坂、源聖寺坂、口縄坂、愛染坂、清水坂、天神坂、逢坂と七つの坂が造られ、それを天王寺七坂と呼んでいる。大阪の街なかでは珍しく、非常に昭和の、古き良き時代を感じさせる街の佇まいが残っており、近頃は観光地として、観光客が訪れるような場所になっている。

 収録されている短編は、全部で9編。天王寺七坂を舞台にした短編に加えて、松尾芭蕉の終焉の地大阪を舞台にした「枯野」、夕陽丘に隠棲したと伝えられる歌人、藤原家隆の没後を描いた「夕陽庵」が収録されている。「枯野」「夕陽庵」を除く、天王寺七坂を舞台にした作品は、いずれも現代を舞台にしているが、現代と過去の時空を超え、また、この世とあの世の垣根も超越した不思議な物語が大阪の懐かしい風俗とともに描かれている。天王寺七坂のあたりの大阪というのは、テレビ等で紹介されている大阪とは違った風景を持っている。近頃は、大阪というと道頓堀やら振世界のジャンジャン横丁やら、にぎやかな、ギラギラとした景色が大阪というイメージで語られることが多い。しかし、もっと淡い色合いの、落ち着いた、しっとりたした大阪の文化がここには存在しているのである。この小説が、描こうとしている大阪もそういうものであるように思う。テレビに出てくるギラギラとした大阪のイメージを持って、この本を読むとちょっと戸惑うかもしれないなあ。

 この前にも書いたことだが、この連作に登場する人物は、現代に生きている人間なのだが、相手方は、どうもこの世の人たちではないのである。つまり、主人公の人生のどこかの場面で関わった人たちが、この世に未練を残しながら、この世とあの世の垣根を超越しながらかかわっていく。ああ、この世とあの世とをつないでいる坂だから幻坂なのか。いわば、日本の神話に出てくる黄泉比良坂を思い起こすなあ。
 そうした一連の連作の中でで、「天神坂」の話が、今後の広がりが期待できるうえに結構面白かったりする。料理で幽霊を成仏させていく話なのだが、真田十勇士などが食べにくるという茶目っ気もあるのだが、おいしい料理を食べて、満足することによって成仏していくことになる。幽霊というのは、何らかの形でこの世に満足することなく亡くなった人たちなのだから、満足と言わせることによって、成仏するしかないのかもしれない。この料理で成仏させる料理人と、日本で唯一の幽霊専門の探偵は、今後も連作として話をつなげていけそうな設定であるような気がする。もしかしたら、幽霊専門の探偵は、ライトノベル等ですでにあるかもしれないなあ。

 僕としては、久しぶりに愉しく読めた小説であったし、この読書日記をほぼ1年ぶりに書く気になった小説でもある。よかった。

 せっかくなので天王寺七坂の写真をはっておこう。

 【真言坂】
 
 

 【源聖寺坂】

 

 【口縄坂】

 

 【愛染坂】

 

 【清水坂】

 

 【天神坂】

 

 【逢坂】

 

 このブログのどこかにも天王寺七坂のことは書いてます。

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