前略、ハイドン先生

没後200年を迎えたハイドン先生にお便りしています。
皆様からのお便り、コメントもお待ちしています。
(一服ざる)

シベリウス 交響曲第7番ハ長調 (N響定期公演)

2011-06-05 00:28:41 | NHK交響楽団
N響定期公演に行ってきました。

  プロコフィエフ 組曲『3つのオレンジへの恋』
  プロコフィエフ ピアノ協奏曲第2番ト短調
  シベリウス 交響詩『大洋の女神』
  シベリウス 交響曲第7番ハ長調

  ピアノ:アレクサンダー・ガヴリリュク
  指揮:ウラディーミル・アシュケナージ


以前にも書きましたが、私はN響で聴く指揮者アシュケナージが大好きですし、
素晴らしい指揮者だと思っています。

一般的な評価では、ピアニストとしての輝かしいキャリアの方が上だと思いますが、
正直、ピアニストとしては好きではありませんでした。

録音でしか聴いたことがないのでそのせいもあるかもしれませんが、
どの曲もスケールの大きさが感じられないというか・・・。
少々早めのテンポも好みではありません。
(指揮するときもテンポはやはり早めですが、こちらは余り気にならない・・・)


多分に独りよがりな発言、独断と偏見を書きますが、

  NHK交響楽団を指揮するアシュケナージは世界最高の指揮者の一人である
  アシュケナージが指揮するNHK交響楽団は世界最高のオーケストラの一つである

今日の演奏でそう確信しました。


『3つのオレンジへの恋』は、第3曲「行進曲」(のチェロ版?)を聴いたことがあるだけで
組曲全体は初めてです。

チューニングが終わるや否や小走りで登場したアシュケナージは、
ペコンとお辞儀をするとすぐに指揮台に上がり、佇む間もなく腕を振り始めます。
その瞬間、激しくエキセントリックな音が響き渡ります。
"アシュケナージ・マジック"とでも言いましょうか?一瞬で引き込まれました。

脇を絞めて両手を震わすように小刻みに動かす姿は、
決して華麗な指揮振り、威厳漂う指揮姿とは言い難く、むしろコミカルな感じです。
それがN響から素晴らしい演奏を引き出すのですから不思議?です。
相性でしょうか?


プロコフィエフのピアノ協奏曲第2番は初めて聴く曲です。
第1楽章の冒頭の静かなピッツィカート。
いつものことながらアシュケナージが指揮する時の弦のアンサンブルは見事です。

神秘的な旋律や民謡風の旋律と、目まぐるしく表情を変える激しい音響が混在する、
何とも魅力的な曲で、一遍で好きになりました。
ガヴリリュクの演奏も素晴らしかったです。


後半戦は打って変って、後期シベリウスの抑制された世界です。

解説によると、シベリウスは交響曲を"凝縮"させることに腐心し、
そのためには緻密な動機労作と内的論理が重要だったと書かれていました。

そのようにして到達した「単一楽章」の交響曲第7番ですが、
決して論理的な難解さはなく、第5番と同様の漂うような透明感です。

私がシベリウスの作品で一番好きなのは交響曲第5番なのですが、
今日、この交響曲第7番を聴きながら

  この曲をもっと理解したい
  心からこの曲を愛せるような人間になりたい

そのような想いにかられました。


交響曲第7番の完成は1924年ですが、1925年以降、1957年に亡くなるまでの約30年間、
シベリウスはほとんど作曲をしませんでした。

それだけの期間があれば、第8番、第9番の交響曲も作れたのでは、とも言われますが、
この第7番で「交響曲の究極の形」に到達したのでしょう。
それはブルックナーともマーラーとも、ショスタコーヴィチとも違う世界です。

いずれは到達したいと憧れる世界、一つの境地です。


今年2月の定期公演について「N響定期公演史上屈指の名演」と書きました。
もちろんその思いは変わっていませんが、
マーラーの交響曲第3番という大曲、指揮も客演のチョン・ミョンフンでしたので、
どこか「特別公演」の趣もあります。

今回の定期公演は、曲目も"通好み"というか"渋い"ラインナップで、
指揮も前音楽監督(現桂冠指揮者)のアシュケナージです。

「N響は日本で一番うまいオケというけど実際は・・・」とか
「やっぱり海外の一流オケと比べたら・・・」などと思っている方々に
是非とも聴いてもらいたいような演奏でした。



終演後、拍手に促されて舞台に出てくるアシュケナージの姿は、どこか「北野武」を彷彿とさせます。
「ビートたけし」としてではなく映画監督、芸術家として公の場に立った時の
ちょっと居心地の悪そうな、恥ずかしそうな感じに。

アシュケナージも恥ずかしそうにして、盛んにオーケストラを称えていました。
そんな謙虚なところも、彼を好きな理由の一つです。

エルガー 交響曲第3番 (N響定期公演)

2011-05-15 12:05:12 | NHK交響楽団
N響定期公演に行ってきました。

曲目は

  ウォルトン チェロ協奏曲
  エルガー 交響曲第3番(ペイン補筆完成版)

  指揮:尾高忠明
  チェロ:スティーヴン・イッサーリス

BBCウェールズ交響楽団の首席指揮者を務めた経験もあり、
イギリス音楽を得意とする尾高さんらしいプログラムです。

渋いというか、マイナーというか・・・。


イギリスの作曲家というと、昨年聴いたブリテンの他、
ホルスト、ヴォーン・ウィリアムズ、ディーリアスなどが思い出されますが、
どれも聴きやすいというか、素朴、わかり易い、といったイメージです。
(ヘンデル大先生はドイツからの帰化なので除きます)

ウォルトンは昔、CDですが戴冠式行進曲や交響曲第1番を聴いたことがあります。
あんまりよく覚えていませんが、面白かった(わかり易かった)記憶が・・・。


ですが、1956年に作られたチェロ協奏曲は大分印象が違いました。
なんとも"捉えどころ"のない曲、といっては失礼かもしれませんが。

現代曲というような"難解さ"とまではいかず、
かといって親しみ易い、明快な旋律が登場するでもなく、
緊張感や静謐さ、というものでもない。

終楽章(第3楽章)は変奏曲ですが、
第2、第4変奏はカデンツァのようなチェロ独奏、対して第3変奏はオーケストラのみ。
何かよく"変奏"がわかりません。

曲冒頭と最後に出てくるヴィブラフォンが幻想的な雰囲気を醸し出しましが、
全体としては(繰り返しになりますが)なんとも"捉えどころ"がない・・・。


エルガーの交響曲第3番は1932年に作曲が開始されましたが、
翌年にはエルガーは病床につき、1934年に亡くなった時に残されたのは127枚のスケッチのみ。
それをイギリスの作曲家ペインが1997年に補筆完成させました。

遺稿による作曲の進み具合からすると第2楽章以外は
「遺稿の断片と他のエルガー作品流用によるペインの創作」とするのが正しいそうですが、
結構演奏される機会が多いようです。


聴いた印象はというと、こちらも"捉えどころ"がないというか・・・。
各楽章ごとの"風景"の違いはありますが、一つの楽章の中でのメリハリがなく、
始まったら最後まで同じような調子で進んでいきます。
第3楽章アダージョ・ソレンネでは、久々に睡魔に襲われました。


ところで・・・
長年、N響を聴いていて今回のような演奏会(曲)の時、思うことがあります。
(何か傍証があるわけでもなく、またうまく言葉で表現できないのですが)
それは「こういう曲をN響は実に"上手"に演奏するなあ」ということです。

まあ、滅多に聴かない(聴こうと思わない)曲なので、他の演奏と比較のしようがないのですが・・・。

マーラー 交響曲第1番ニ長調 『巨人』 (N響定期/ノリントン)

2011-04-23 20:12:48 | NHK交響楽団
N響定期公演を聴いてきました。

 マーラー:花の章
 マーラー:さすらう若者の歌
 マーラー:交響曲第1番ニ長調『巨人』

 指揮:ロジャー・ノリントン
 バリトン:河野克典
 演奏:NHK交響楽団

ピリオド奏法の第一人者、ノリントンによるオール・マーラー・プログラムです。

N響&ノリントンは、2006年の初共演時に
ヴォーン・ウィリアムズの交響曲第5番ニ長調を聴いています。
極力ヴィブラートを排した響きがとても新鮮でよかった記憶があります。


今回も、花の章、さすらう若者の歌、共にとても美しい演奏でしたので
メインの交響曲第1番も大いに期待しましたが、期待以上の素晴らしい演奏でした。


まず楽器の配置がいつもとは全く違います。
いわゆる「対抗配置」で、舞台下手に第1ヴァイオリン、上手に第2ヴァイオリン。
第1ヴァイオリンの後方にホルンと打楽器群。
第2ヴァイオリンの後方にトランペット、トロンボーン&テューバとティンパニ2台。
コントラバスは木管楽器群の後方(ステージ中央の最後列)です。

慣れないとどこから音が鳴っているのかちょっと探してしまいます。


ノリントンが目指しているのは「ピュア・トーン」で、
当たり前のように全ての音にヴィブラートをかけるのではなく、
一旦音を白紙に戻すことのようです。

そのせいでしょうか。音が"裸"になったような、とても澄んだ響きです。
その分、アンサンブルのずれは目立ちますので演奏は難しいのでしょうけど。

何度もN響は聴いていますが、改めて「生演奏だ~」などと感じてしまいました。
いい意味での、ワクワクするような緊張感が漂います。


それから、これも「対抗配置」のせいかもしれませんが、
マーラーの交響曲第1番は全ての楽器群がバランスよく活躍する曲だなあと実感しました。
金管楽器が左右に分かれている分、全奏でも木管楽器がよく聴こえます。
(これからもこの配置でやってくれないですかね)

7人のホルン隊は素晴らしい出来でした。
今回、第4楽章のコーダでホルンが立ち上がって演奏するのを初めてみましたが、
さすがに誇らしげでした。



会場入口に、東日本大震災への義援金箱が設置されています。
帰りに○○○位入れようかな・・・などと思っていましたが、
素晴らしい演奏だったので、気持ちよく倍額入れさせてもらいました。

マーラー 交響曲第3番ニ短調 (N響定期公演)

2011-02-12 20:08:31 | NHK交響楽団
「下手なオーケストラがあるのではない。下手な指揮者がいるだけだ。」


誰の言葉だったか忘れましたが、
指揮者の力量次第でオーケストラを輝かせもし、また輝きを失わせもする・・・
という意味合いだと思います。

でも、実際に演奏するのは楽団員だし、うまく奏でるのもミスするのも
団員の実力次第なんじゃないの?、とも思っていましたが・・・


「カリスマ性」とはこういうことをいうのでしょうか?
カリスマのオーラを浴びた演奏者達は、全ての雑念が消え、ただ音楽のみに集中する。
だから、あのような演奏ができるのでしょうか。

決して大柄な人ではないように見えましたが、
広げたその腕の中に、巨大なオーケストラ全てが包み込まれる。
演奏者達はその腕に抱かれて、不安も緊張もなく、ただ最高の音色を奏でる。
だから、あのような演奏になるのでしょうか。

冒頭の言葉は、そのような意味なのかもしれません。


 指揮:チョン・ミョンフン
 アルト:藤村実穂子
 女声合唱:新国立劇場合唱団
 児童合唱:東京少年少女合唱隊
 演奏:NHK交響楽団


間違いなく、N響定期公演史上屈指の名演です。

100分間の長大な、長大な交響曲。
しかし徐々に時間の感覚は薄れていき、音で満ちた世界に埋没していきます。


マーラーの交響曲第3番を生で聴いたのは初めてです。
しかし、再度聴こうとは、もう思わないかもしれません。
二度とこのような演奏には出会えないと思いますから。

これでマーラーの交響曲は、第1番から第9番および「大地の歌」と
全てコンサートで聴いたことになります。
自身のマーラー・チクルスの最後を、素晴らしい演奏で飾ることができました。


嗚呼、ソロ・トロンボーンの太く輝く美しい音色。
彼方から聴こえてくる完璧なポストホルン。
微妙なニュアンスを奏でるオーボエ。
勇壮なホルンのユニゾン。
力強い低弦、美しいヴァイオリン群。

名演です。


曲の開始時には、児童合唱団がいませんでした。
最初からいたら眠くなっちゃうから、途中で入場するのかな?と思っていたら、
第3楽章の終了間際、行進するように袖から出てきて、終了と同時にぴったり整列。
こんなところにも「カリスマ」の影響が・・・。さすがです。
第5楽章冒頭、見事に揃った歌い出し。さすがです。



奇跡のような演奏会でした。

ムソルグスキー(ラヴェル編):組曲「展覧会の絵」 (N響定期公演)

2011-01-15 21:14:36 | NHK交響楽団
N響定期公演に行ってきました。

曲目は

 ムソルグスキー(リムスキー・コルサコフ編):交響詩「はげ山の一夜」
 ラヴェル:組曲「クープランの墓」
 ムソルグスキー(ラヴェル編):組曲「展覧会の絵」
 指揮:イオン・マリン

です。

指揮者のイオン・マリンは1960年生まれ、ルーマニア出身。
20代でウィーン国立歌劇場の常任指揮者を務め、
その後各地の歌劇場、オーケストラに出演。
現在はフリーで活躍する若き俊英だそうです。



個人的にはちょっと"消化不良"気味の演奏会でした。
演奏し辛そうな感じ・・・というのでしょうか。

金管楽器に、一つの旋律を吹いている途中で
微妙に音量を変えるよう指示しているみたいで、
それはそれで新鮮なのですが、演奏者にとっては難しそうですね。
(プロに対して失礼かもしれませんが)

結構音を外していたのはそのせいかと・・・。


ラヴェル編曲の「展覧会の絵」の見せ場(というか聴かせ場?)の一つは、
第4絵<ブイドロ>でのテューバソロだと思うので楽しみにしていました。

このテューバソロにはかなりの高音が出てくるため、
この部分だけ通常のバス・テューバからテナー・チューバ(ユーフォニアム)に
持ち替える場合もありますが、
演奏者がステージに上がる際、テューバ奏者の池田さんは
バス・テューバしか持っていなかったので「これは!」と思いました。

まあ、実際には別にいたユーフォニアム奏者がソロを吹いたのですが・・・。


第10絵<キエフの大門>のクライマックスもテンポがかなり遅めで
ティンパニ、大太鼓がタイミングを合わせるのに苦労していました。

そんなこんなが"消化不良"の原因でしょうか。



今日の演奏では第1ファゴットとコントラ・ファゴットが女性でしたが、
N響のファゴット隊はいつ聴いても安定感抜群でいいですね。

あと、第2絵<古城>にはサクソフォーンのソロが出てきます。
同じくラヴェルの「ボレロ」にもサックスソロがありますが、
何度聴いてもサックスの音はオーケストラに馴染まないなあ、と感じます。

やはりサックスはジャズのための楽器ですね。



余談ですが、私が自分で初めて買ったクラシックのLPが
おそらくこの「展覧会の絵」だったと思います。
小学校5、6年生の時でしょうか。

ショルティ&シカゴ響の演奏で、ジャケットが大変美しいLPでした。

↓これです。

(写真だと周りが灰色に見えますが実際は銀色です)