三十路になったK子さん。今まだ華のブライダルMC。
御自分のブライダルはさて置いて、こなした披露宴は数々多。
つい先週の披露宴、矢鱈と緊張気味の新郎の父親、
何度も口のまわりをハンカチで拭っておいでだ。
「では、新郎のお父様から御挨拶がございます。お父様、どうぞ!」
すると、「え~~、私が新郎のお父様です・・・」 アリャリャ~~
昨日の披露宴は、最近稀にみる印象深いものだった。
新郎ご一家は、とてもアットホームで音楽好き。
オカリナが吹けると云うおばあちゃまの演奏を≪とり≫に希望した。
演奏会用のドレスを着たおばあちゃまは、とてもチャーミング。
宴も酣となって新郎の姉がショパンのピアノ曲をを披露した。
それが素晴らしい!列席の御客様から割れんばかりの拍手を頂いた。
K子さんも、その素晴らしい演奏に鳥肌がたつほど感動した。
心温まるご挨拶も済み、和やかに御会食は進む。
ふと、おばあちゃまに目をやったK子さん、
何だか浮かぬ顔が気になった。そっと近づき耳元で、
「間もなく、演奏のほどよろしくお願いします」すると・・・
溜息をつきながら、「あのピアノの後では恥ずかしくて吹けないわ」
「いいえ、御家族の皆さま、たっての御希望で御座いますから・・・」
優しく励ますと、小さく頷き承知された。
温かい拍手に迎えられオカリナをもって立たれたおばあちゃま。
「では、おばあちゃまが演奏されます≪瀬戸の花嫁≫御一緒に唄ってください!」
大きく深呼吸をしたおばあちゃま、シンと静まり返った披露宴会場。
「ピィ~~ヒョロヒョロヒョ~~」細く震える前奏のメロディ。
「瀬戸は・・」一呼吸遅れてあっちで「瀬戸は・・」そして、こっちで「瀬戸は・・」
K子さんはハラハラした。「しっかり!おばあちゃま」祈る思いで手に汗握る。
「ピィ~~」音程が外れ、おばあちゃまは必死の形相。
すると息子(新郎の父)が、ひと際大きな声で、「瀬戸は日暮れて~~」
おばあちゃまのオカリナは消え入るばかり。息子は更に声をあげる。
結局、皆は伴奏の消えた≪瀬戸の花嫁≫、父親の独唱を聞いたのだった。
ああぁ、アリャリャ~~
K子、我が家のブライダルMCの社会勉強はつづく。