山の頂から

やさしい風

携帯電話

2007-12-15 17:36:09 | Weblog
 正一は気持ちは優しい男だ。
女姉妹に挟まれている所為もある。
根は真面目であるし常識もある。
誠実と云えば誠実かも知れない。しかしだ・・・
こんな事は初めてである。
しかもメールなど面倒くさいと言っていたその口で・・・
美佐子は1カ月間様子をみることにした。

 何となくウキウキしている。
そう見るからかも知れない。
以前より優しい感じがする。
後ろめたさがあるからか?
次第に美佐子は全てあのメールの主の所為だと決めつける自分に嫌気がさしてきた。何?この感情は。

 正一が期限のよさそうな折をみて話を切り出した。
1カ月を過ぎていなかった。
その間のメールは徐々に過激さを増していたからだ。
美佐子は我慢がならなかった。
「ねぇ、好きなひとでもいるの?」食事が終わって言った。
お茶を注いでやりながら感情を抑え、平静にそれとなく・・・
しかし、我ながら少し唐突だと思った。

携帯電話

2007-12-15 07:35:52 | Weblog
 夫と寝室を別にしてから3年になる。
2匹の猫が美佐子に纏わり付いて布団にまで入り込む。
夜夜中でも出入りするのに正一が腹を立ててからそういう状態になった。
しかし、それはそれで美佐子には快適だった。
好きなCDも聴けるし本も読める。
下手ではあるが俳句を考えるにも都合が良かった。

 忙しい時以外は手伝いの女たちは雇わない。
だから美佐子は店と家事をこなし、何処へも出かけることはなかった。
ましてや夫婦で旅行を楽しむことなど、ここ数年はない。
長男は30歳近くになるが家を継ぐ気はないらしい。
先を考えると少し不安ではあった。

 珍しく正一がキッチンのテーブルに電話を置きっぱなしの夜だった。
何気なく電話を開いてみた。
受信メールを開けて、目に飛び込んで来たものは・・・
『先日はごちそうさま~~、美味しかったよ』という文だった。
美佐子は日付を視た。
確か正一が商工会の会合へ出かけた日だった。
ああ~~と美佐子は探し物を見つけたような、見てはならないものを見たような
おかしな感情を覚えた。
そして送信者の名前を視た。
「範」とある。 んっ?変な名前と思った。
そして電話帳を視てみると果たして「範」と一文字であったのだ。
咄嗟に日本人ではないのかと感じた。
夫は酒を飲まない。 飲み屋の女ではないし・・・
美佐子は怒りや嫉妬よりもな謎解きをする様な感情を覚え始めた。