山の頂から

やさしい風

二つの石

2007-12-05 07:00:49 | Weblog
 そして麻紀は石の事情を知ることになる。
正吾とミツはあの鳥居のいわれを知っていたという。
互いに口にはしないが遠い将来、結婚できたらとは思っていたらしい。
しかし、いとも簡単に未来が開ける事はないと分かっていた。
正吾はミツに石を渡す時、どちらかが載ったら半分の好い事が起きるかも・・・
そんな風に言った。しかし、それは男として卑怯であったと書いている。
才能には自信があったがすぐに結果の出る世界ではない。
ましてやミツのいえの事情を考えるとうかつな事は言えなかった様だ。

 果たして、正吾の石は容易く「貫き」に載った。
しかし、ミツは一度放ったが載ることはなかった。
彼女は少し寂しそうな笑顔を見せたが石を握ってバッグに収めた。
正吾は何も言わなかった。言ったところで嘘っぽくなるのが嫌だった。
もう何十年にもなる事を昨日のように想い綴る手紙に麻紀は優しい気持ちになった。
そうして、麻紀は二つの石を並べこんな不思議な巡りあわせを神に感謝した。
恐らく、ミツは哀しかったのだろう。
が、知的な彼女はそれなりに自分の中の思い出の証に石を持ち続けたに違いない。

 数日後、正吾への返信に感謝と感動を綴り石はあの鳥居の近くに埋めてくると
書いてやった。
そうすることで全て美しい物語が成就するように思ったのだ。