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榛名防衛備忘録:序論2、装甲機動旅団・航空機動旅団案と南西諸島防衛警備部隊

2014-12-07 23:37:38 | 防衛・安全保障
◆沖縄を守る旅団と混成群 
 先日4日に掲載しました榛名防衛備忘録:序論、装甲機動旅団・航空機動旅団案と南西諸島防衛警備部隊、その続き。

 南西諸島を防衛するには機動運用部隊を如何に配置するべきか、前回、幾つかの事例と共に提示しました諸案について、補足と言いますか、当方の説明が足りなかったようなので個々の部分について幾つか説明したいと思います。本番は三月末、備忘録的に先に掲載する、というかたち。

 装甲機動旅団と航空機動旅団の編成案は、元々、全国の師団と旅団の編成を最大限共通化する、という視点に依拠して、一旦すべての師団と旅団を機甲師団を例外として最大限編成を共通化させよう、という観点から考えたもので、こちらは既報の通りですが、現状の総合近代化旅団である北部方面隊真駒内の第11旅団を元に普通科部隊を装甲化し装甲機動旅団へ、現在の即応近代化旅団である東部方面隊第12旅団をもとに方面航空隊のヘリコプターを編成に組み込み航空機動旅団とし、この二つの旅団を以て各方面隊に機動運用、つまり管区に縛られない二個旅団基幹の一個師団を置く、というもの。

 北部方面、東北方面、東部方面、中部方面、西部方面、中部は警備管区が広すぎ一個師団では不安で、北部は機動打撃部隊として機甲師団を維持する方向を明示しましたが、広域を担当する師団として、広域師団、という部隊案を紹介しました。が、南西諸島に限っては航空機動旅団と装甲機動旅団からなる広域師団では対応できません。何故ならば、装甲機動旅団は離島への海上経路を自走し、線などへ独力で展開できないからです。

 水陸機動車両を、普通科連隊に大量配備し海上機動、という選択肢は残念ながら水陸機動車両は百数十kmを隔てて点在する南西諸島の広大な洋上を自由に行き来するだけの水上での航続距離を有していないため、装甲機動旅団を仮に南西諸島の何れかに配置したとしても、海を渡れず遊兵化しかねません。

 そこで提案したのは、旅団を本当に、離島へ対馬警備隊方式の警備隊を数個配置し、これを沖縄本島からのヘリコプター部隊が支援する、という機動運用方式です。南西諸島は非常に多くの離島より構成されていますが、おおまかに、沖縄本島・鹿児島県奄美諸島・沖縄県先島諸島、以上三諸島に大きく分け、沖縄本島に一個旅団、ヘリコプター隊に支援され、一定の空中機動による展開能力、現時点でUH-60JAを8機とCH-47J/JAを8機装備していますので、人員200名と軽装甲機動車や中距離多目的誘導弾や高機動車など16両、人員のみならば460名、同時空輸が可能です。

 旅団は、全国の師団旅団を一挙に旅団化する、という航空機動旅団装甲機動旅団方式により人員を捻出できるため、沖縄本島はフル編成に近い航空機動旅団を配置できます。第12旅団方式の編成として4000名、普通科連隊も現在の編成から二個へ増勢できるでしょう。一方で、離島の警備隊ですが、奄美諸島は現在、北熊本の第8師団管区ですが、九州からかなりの距離を隔てているため、沖縄を含めた南西諸島の警備管区としました、この方式、明石海峡大橋開通前の兵庫県淡路島が、兵庫県は第3師団の管区でしたが、交通の利便性から四国善通寺の第2混成団警備管区に、淡路島のみ、含まれていた点と同じく、沖縄本島からの方が九州よりも奄美大島へ近いため、含めた、というかたち。

 奄美諸島と先島諸島は、900名規模の混成群を置きます。その概要は、沿岸監視に当たる偵察隊を混成群直轄として、対馬警備隊型の350名規模の警備隊を二個、奄美諸島は最大の面積と人口を持つ奄美大島と飛行場が置かれる徳之島に奄美警備隊と徳之島警備隊、先島諸島は宮古島に混成群本部をおき、宮古警備隊と石垣警備隊を、警備隊は有事の際に沖縄本島からのヘリボーンによる増援を受ける前提での遅滞戦闘や遊撃戦及び対遊撃戦にあたる。

 この方式ですと、沖縄本島・・・4000名、奄美諸島・・・900名、先島諸島・・・900名、という区分となり、警備隊は独立機能として後方支援隊を隷下に持つので業務隊機能を代替でき駐屯地での自活能力を持つと共に、普通科連隊や連隊からの分遣中隊を置く場合、上級部隊より火力支援及び機動戦や整備支援と後方支援を必要とするため、管理機能が複雑化するのですが、警備隊ならば独力で不都合はありません。

 混成群は900名規模で、偵察隊を機動運用部隊とするわけですが、沿岸監視を任務とし、必要ならば偵察警戒車を用いて武装漁民上陸や武装工作員攪乱戦闘程度であれば、これがいわゆるグレーゾーン事態にあたりますが、高度な監視装置により脅威対象の位置を把握し遠距離から機関砲により制圧が可能です。これを逆に普通科連隊を奄美と先島におく、といいますと、それならな連隊戦闘団を組む際に沖縄本島の旅団主力からどう増援を送るのか、自前で揚陸艇を確保するのか、海上自衛隊に要請し輸送艇を沖縄基地へ数隻配備できるよう業務輸送用の艦艇を新造させてもらうのか、となるのですが、警備隊ならば自己完結できる。

 警備隊の能力を余り過小評価する事は出来ません。対馬警備隊ひとつとっても、軽装甲機動車を装備していますから12.7mm重機関銃やMINIMI分隊機銃、01式軽対戦車誘導弾を小銃班が分散乗車し多数の火点から機動運用します。そして中距離多目的誘導弾を装備していますので、揚陸艇や戦車が迂闊にキルゾーンへ誘い込まれますと一挙に殲滅されます。大火力で圧しに押しても、81mm迫撃砲や84mm無反動砲等の携帯火器により粘り強く抗戦し時間を稼ぎますし、中途半端な戦力で警備隊へ挑むと返り討ち間違いないでしょう。

 当初は、沖縄本島に旅団を置き普通科連隊を離島に分散させる、南西諸島北部と南部に小型編成の二個旅団を配置し旅団が島嶼部を広く機動できる体制を構築する、哨戒艇や襲撃艇に揚陸艇等小型舟艇主力の水陸両用部隊を海上自衛隊佐世保地方隊隷下に配置し第15旅団が支援する、など比較検討したのですが、結局落ち着いたのは、沖縄本島に航空機動旅団&奄美諸島に数個警備隊と偵察隊の混成群&先島諸島に数個警備隊と偵察隊の混成群、という提案でした。

北大路機関:はるな
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Unknown (PAN)
2014-12-08 14:11:05
はるな様

>結局落ち着いたのは、沖縄本島に航空機動旅団&奄美諸島に数個警備隊と偵察隊の混成群&先島諸島に数個警備隊と偵察隊の混成群、という提案でした。

このプラン自体にはさほど異論があるわけじゃありませんが、問題は奄美と先島諸島に配備する部隊の人員の手当てをどうするか?もしくはどこから持ってくるか?じゃないでしょうか。

陸自に限らずですが、人員を増やす予算は微増しか認められないのが現状です。つまり現有勢力かせいぜい微増程度の中でやりくりしなけりゃなりません。
かといって九州以北の部隊の人員が余っているわけではありません。それでも全国的な配置見直しを行って、沖縄奄美方面への人員枠を捻出するわけです。ただし、佐世保の水陸両用部隊も西普連だけでなく、かなり拡大する方向のようですので、こちらとの兼ね合いもあります。
そういう意味で、奄美は単純に警備隊を増やすのではなく、増員される水陸両用部隊の分遣隊で賄ったほうが無理はないのではないかと前のコメントに書いたしだいです。

また、単に数だけ合わせればいいというものでもありません。例えば対馬警備隊は、島出身者の比率が高く地理や対馬特有の諸事情に明るい隊員が多く、それで数の不足をある程度補っているという話も聞きました。
もちろん、新設の警備隊をいきなり地元出身者で固めるというのは無理な話です。しかし少なくとも先島方面に配属する人員は15旅団から派遣するほうが、当面は現実的ではないかと考えます。

ただ、将来的にもそれでいいという話ではなく、分遣隊を割いて減勢した本島の15旅団本体のほうに、今後は優先的に増勢を行っていくという方向は必須でしょう。
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Unknown (はるな)
2014-12-09 00:10:35
PAN 様 こんばんは

人員規模についてですが、三月末の特集で記載しました通り装甲機動旅団・航空機動旅団、という提案にあるように、現在の第1・2・3・4・6・8・9・10師団を旅団へ改編し、方面隊の航空機や特科装備を包含、第一線部隊の人員縮小をもって装甲車両を充実させ機動運用出来る体制の構築が主眼ですので、この部分の波及効果として、現在予定されている島嶼部駐屯部隊に加え、警備隊を置く余裕はあり得ると考えます。
返信する
旅団化 (専ら読む側)
2014-12-09 22:37:59
建設的な発言は叶いませぬ故雑感のみ
抜本的改革と云う点については首肯したく有るも、現状はEUの小国的縮み貧乏(最高階級が少将どころか大佐に転落)を礼賛する声が高い故、戦略単位のデノミは地上軍の弱体化を促進する危険大と痛感
警備部隊(軽歩兵大隊か)など予備役隊員で十分などと甘言を弄する向きに勢いを与えることともなりますな
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先島諸島と奄美諸島には独自旅団は過大 (はるな)
2014-12-10 01:09:56
専ら読む側 様

欧州小国は無論、昨今は欧州大国も仏軍の師団編制全廃や独軍の機甲戦力大規模縮減、英軍常備師団二個化等、散々たる状況ではありますが、本稿の部隊案は南西諸島に絞ったものでして、本土から師団を廃止する意図はありません

方面隊毎に、“広域師団”を置き師団は二個旅団の各装甲機動旅団(第11旅団型+方面特科火力)と航空機動旅団(第12旅団型+対戦車ヘリコプター隊他方面航空部隊)、を置き一万名規模の師団を五個、戦車師団と水陸機動師団を置く、その方策を現有装備の転換を主軸として他には装甲車の増強程度で達成、という提案ですので、仰る“戦略単位のデノミ”という論調には当たらない考えます

組み換え以外には装甲車の増強を提示しましたが、元々、“高い柔軟性を持つ普通科の強化”は民主党時代と自民党時代と現自民党時代の三度の防衛大綱で記された命題ですので、装甲車の強化は、政治が普通科の強化を命じた以上装甲車の予算措置は責任を取るべきだろう、との視点です

一方、沖縄ですが、沖縄本島に仮に師団を置いたとして、米第101空中機動旅団並のヘリが無ければ離島に増援へ展開できませんし、それならば南西諸島を主要諸島毎の先島諸島・本島・奄美諸島へ各1個旅団を置くという方策も、少々離島には旅団は過剰です、故に本当の航空機動旅団と離島の数個警備隊基幹混成群、という視点となった訳でして・・・

警備部隊、というのは逆に離島警備隊(対馬警備隊型)のみ、ということ

三がつの掲載分の繰り返しになりますが・・・

航空機動旅団:3個普通科連隊・機動砲大隊・対舟艇対戦車隊・偵察隊・特科隊・2個ヘリコプター隊(方面航空隊より移管)・施設隊・後方支援隊・通信隊、の約5000名を基幹とし、普通科連隊は軽装甲機動車と四輪駆動軽装甲車で充足、増強中隊毎にヘリコプター隊が地上の軽装甲部隊高速前進を物資補給と整備支援や情報収集で支える、という編制

装甲機動旅団:3個普通科連隊・戦車大隊・偵察隊・特科連隊(方面特科隊MLRSを移管)・高射特科大隊・施設大隊・通信大隊・後方支援隊・飛行隊、の約5000名を基幹、連隊戦闘団は機械化大隊(FV中隊2個&戦車中隊)と捜索大隊(LAV中隊&対戦車中隊)および特科大隊を基幹とし、極限まで縮小される戦車を集約し装甲戦闘車と共に運用する強力な編制

というものを志向した編成提案としています
返信する
Unknown (ドナルド)
2014-12-20 20:23:52
専ら読む側様

横からすみません。

> 最高階級が少将どころか大佐に転落を礼賛する声が高い

よくこれをおっしゃっていますが、どこでどなたがそのような主張をしているのでしょうか?私自身は見たことがないので。。。

>戦略単位のデノミは地上軍の弱体化を促進する危険大と痛感

私の意見では、「実質増強旅団」を「中将」が指揮している現状こそ、弱体化を促進していると考えます。

師団とは、普通1万人を超える戦力で、少将が指揮するものです。陸自では、たかだか5500-6800人程度の部隊を「師団」と称しています。巡洋艦を戦艦と言っているようなもので、本物の戦艦とぶつかったら、勝てるはずがありません。

日本は伝統的に師団長を(他国では軍団長である)中将に指揮させているのですから、1万人を超える部隊をもって「師団」と称するべきと考えます。

例えば1.5万人の師団を編成するとすれば、実員13.5万人の陸自では 5個師団が相場になります(過去の陸自では、師団の定数の総和は、総兵力の55%ほど)。

実質5個師団の兵力を、「9個師団+6個旅団」と称するのは、"地上軍の弱体化を促進"以外の何者でもないと思います。本来、中佐が指揮する部隊(大隊)を大佐が指揮している。本来、准将か大佐が指揮する部隊(増強旅団)を、中将が指揮している。つまり、我が国の大佐は他国では中佐に、中将が准将に相当する訳です。指揮命令の教育訓練過程が、同盟国のそれと全く変わってしまっていることは間違いないですよね。。。


>警備部隊(軽歩兵大隊か)など予備役隊員で十分などと甘言を弄する向きに勢いを与えることともなりますな

これも誰が言っているのでしょう?他国ならともあれ、陸自の予備役に警備なんてできませんよね。

普通の予備役は年間4-5日しか出頭しない。即応予備ですら30日?200人の警備中隊(警備小隊を24時間態勢で維持し、同時に最低限の訓練も実施するのに必要な規模で考えました)を維持するのに、2400人の即応予備が必要。警備は「実任務」なので、定員ではなく、「実員で」これだけ必要なわけです。

即応予備、確か今、実員は5000人程度でしたっけ?警備の他に訓練も必要と思えば、即応予備を全員投入しても、実働の警備中隊1個が精一杯でしょうね。


一方で、定員1100人の即応予備連隊は、原理的には現役隊員を220人、90%充足だとしても200人抱えています。50人は即応予備の訓練に回るとしても、残る(=今訓練していない)150人で、十分に基地の警備が出来るでしょう。

というわけで、個人的には、海自や空自の基地に、即応予備連隊を1個ずつ配備するのは良いかもと思っております。
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