北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

榛名防衛備忘録:提案、装甲化新段階に暫定装備“装甲高機動車”を高機動車の後継へ導入

2013-10-15 12:20:52 | 防衛・安全保障

◆安普請でいい、高機動車後継に毎年100両を
 陸上自衛隊は装甲化が遅れている、これは一時期よく批判の種として使われていました。しかし、昨今はようやく自動車化と装甲化の折衷が完成しまして、そろそろ自動車化の次へと進むべきではないか、という話題です。
Hbimg_8337 軽装甲機動車と高機動車、ここ20年の装備ですが、昨今、この二つを考えず普通科部隊というものは中々想像できないもの。高機動車が装備され、普通科部隊が完全自動車化を果たし、普通科連隊の二個中隊から四個中隊が自動車化されました。それでは、そろそろ、高機動車に代わる、装甲高機動車、というような小銃班を輸送可能な四輪駆動式の軽装甲車を大量配備し、陸上自衛隊普通科部隊の全般装甲化へ備えるべきではないのか、と考えます。そこまで贅沢な装甲車は求めず、兎に角装甲車を多くの中隊に回そう、というもの。
Hbimg_0250 自衛隊の自動車化と装甲化はここ20年間で大幅に進みました。1992年より装備開始された高機動車と2000年より装備開始された軽装甲機動車により、自動車化と装甲化が大きく進みました。軽装甲機動車は乗車戦闘により迅速に展開しつつ小銃班を組ごとに分散させ火力拠点の機動運用を目指したもの。以前は、師団輸送隊が装備する73式大型トラックで一個連隊を辛うじて自動車化、と言われていた時代も長かったのですが、2008年には最後の師団への高機動車装備化が完了し、2012年には全ての師団と旅団の普通科連隊へ、若干数を含め軽装甲機動車が配備され、基本的に一個中隊が軽装甲機動車により充足されました。
Hbimg_0836 その前は批判が的外れを含め酷かった。幾つかを挙げますと、曰く、陸上自衛隊には戦車と同数程度しか装甲車が無い。曰く、丸裸の歩兵は砲兵火力の前で生き残れないまま全滅しかねない。第三世界でも陸上自衛隊よりも装甲車を多数装備する軍隊は多数存在する。曰く、89式装甲戦闘車のように高価な装甲車にこだわった結果装甲化が遅れており現実逃避だ。陸上自衛隊はバスで移動している隊員もいるほど。そこから税金の無駄遣いだ、とか、果ては陸上自衛隊の存在価値まで掘り下げるものまでも。
Hbimg_1256 だが、ちょっと待て欲しい、と。陸上自衛隊の装甲化が遅れている最大の要因は、地対空ミサイルの充実とヘリコプターの充実に起因するものです。多用途ヘリコプターはともかく、155mm榴弾砲や装甲車などを輸送可能なCH-47輸送ヘリコプターを55機も保有していますので、装甲化を行うよりも空中機動を重視した所以、装甲車の整備が後回しとなたわけでした。実は火砲や車両を輸送可能な輸送ヘリコプターを20機以上保有する軍隊は非常に稀有で、陸上自衛隊は戦略機動を求められた冷戦時代、道路網の未整備もあり、下手に装甲車を大量導入しても山間部道路で通行が制限されるところも当時は多く、特に田中角栄ない悪時代に日本列島改造論以前は幹線国道でも一部が未舗装道路があった訳なのですから、この選択肢は、当時の視点としては間違ってはいません。
Hbimg_1350 ヘリコプターは高価である、という部分は上記を踏まえても変わりありません、陸上自衛隊が60年代より導入したV-107輸送ヘリコプターは当時配備が開始されたF-104戦闘機とほぼ同額で、今日調達されるCH-47JA輸送ヘリコプターの調達費用は50億円、これは96式装備車輪装甲車に換算し50両分、軽装甲機動車に換算し150両分にあたります。一個普通科中隊を装甲化するのに必要な装甲車は14両ですので、三個中隊所要で42両、これに連隊本部管理中隊所要で8両とすれば、現在普通科連隊は概ね一個中隊程度が軽装甲機動車により装甲化されていますので、三個中隊と併せ完全装甲化できる、ということになります。更に、CH-47とあまり取得費用の変わらないAH-1S対戦車ヘリコプターを90機導入した自衛隊は、装甲車の代わりにヘリの数を揃えた、といえるもの。
Hbimg_1738 さて、今回提示したのは自動車化が高機動車により完成した点と共に、そろそろ高機動車に続く機動車両を考えるべきなのではないか、という視点から四輪駆動の軽装甲車を多数配備し、高機動車により充足されている中隊を装甲化できないか、というものとなります。軽装甲機動車は乗車戦闘を想定する機動力重視の装備ですから、高射戦闘を前提とした一個班を輸送する装甲車、というもの。もちろん、一個中隊は高機動車による中隊を残すべきです、何故ならば装甲車は輸送ヘリコプターによる空中機動に制約がおおきいからです。しかし、その他は装甲化を放置してよい理由にはならないわけで、安普請であっても装甲車の数を揃える必要がある。
Hbimg_3596 便宜上、装甲高機動車、と呼称しましょう。もちろん、高機動車の装甲型、といういみではありません、高機動車は優れた車両ですが基本は機動用の車両であり装甲防御力を想定していませんし、装甲強化キットも開発されていますが、防御力は大きくなく、加えて余り強力な装甲を付与すると懸架装置への負担が大きくなり、米軍のハンヴィーのように平時の運用に大きな支障をきたすようになります。ですから、箱型車体をもち、軽装甲機動車並みの防御力を有する高機動車並みの輸送力を持つ車両として、装甲高機動車という単語を造語しました。高機動装甲車ですと、軽装甲機動車と似た印象を与えますし、軽装甲高機動車もしっくりこない。ので。
Hbimg_4047 安普請という前提の装甲高機動車は、フランスのVAB軽装甲車のような、四輪駆動でそこまで大きな不整地突破能力を持たず、夜戦では高機動車と同じように戦闘加入前に後方からの降車戦闘に写り、専ら重視するものは路上機動力と市街地戦闘で、高機動車並みの戦略機動能力を持ちつつ、軽装甲車と同程度に砲迫火力から乗員と兵員を防護する装甲車を想定します。武装はMINIMI分隊機銃、ただ、可能ならば小隊長車だけでもいいので、遠隔操作式銃塔のような独自の車載機銃が、というところ。
Hbimg_4330 その昔、自衛隊初の国産装輪装甲車が開発された際82式指揮通信車に繋がる車両研究に四輪駆動装甲車がありました、警視庁にこれとよく似たF7警備車という装甲車も納入されています。さて、軽装甲機動車をキャブオーバー型に再設計し、車体を若干延長する方式も考えられるかもしれませんが、軽装甲機動車の車体は若干小さい気がしないでもありません。もちろん、キャブオーバー型とすれば、更に乗員区画に一列人員を載せることが出きるため、軽装甲機動車の乗員4名から7名に増加させることができます。一見すればこれで充分と思えるかもしれませんが、運用特性を考えるとそうではありません。
Hbimg_4588 運用を比較しますと、軽装甲機動車は最前線第一線で降車戦闘に展開する為操縦手を含め降車戦闘に参加しますが、装甲高機動車はその運用特性上相当後方で降車しなければ大柄な車体が標的となってしまうため、乗員は装甲車付となる必要があり、このため、乗員を含め小銃班7名を搭載、という容量では降車戦闘には5名か最大で6名、個人装備が増えていますので小銃班7名用としてみれば、この人数では十分ではありませんので、それならば車体をもう少し大型の車体として新規設計するべきでしょう。
Hbimg_5271 さて、今日的には小銃分隊が乗車出来る程度の四輪駆動装甲車は山間部での機動力が限られますし、泥濘等に接した際には96式装輪装甲車のように踏破することはできません、道路網が今ほど整備されない70年代ならば、非常に用途が限られたでしょう。もちろん、今日でも路外で戦車に随伴することは、不整地ではほぼ不可能でしょう。森林地帯も無理矢理木々を倒し前進することはできません。足りないものだらけですが、軽装甲機動車のように大量生産すれば、生産費用を4000万円程度におさえられるかもしれません。それは大量生産の可能性を示すもの。
Hbimg_7298 時代遅れのように見えますし、批判があるかもしれませんが、例えばフランスはVAB装甲車を最新型のVBCI装輪装甲戦闘車にすべて置き換える計画であったものの、高度な火器管制装置と駆動系により取得費用がVABの十五倍にまで高騰したため、まだまだ装甲防御力を強化して現役に留まります。そして、このほか、アフガニスタンやイラクでの任務へ対応するべく、歩兵部隊の全般装甲化は欧米では一つの潮流となっています。もちろん、我が国での着上陸対処は大火力同士の衝突となり、軽装甲車での展開はリスクを伴いますが、高機動車だけよりは安全なはず。
Hbimg_7945 一個中隊の装甲化へ、装甲高機動車、フランスのVABのような車両であれば、5億円程度で実現が可能です。空中機動を想定した高機動車の一個中隊、全般的な近接戦闘を担う装甲高機動車の二個中隊、軽装甲機動車による乗車戦闘と迅速な戦闘展開を行う一個中隊、それに重迫撃砲中隊、許されるならば対戦車中隊、こうした編成を採った場合でも、まあ、10億円から11億円、装甲戦闘車2両未満の費用で装甲化ができます。それにしても予算不足の自衛隊でこれは現実的か、と問われれば、戦車と火砲を削る分普通科を重視する、という想定のもと現在の態勢が考えられたのですから、全て装甲戦闘車で充足するために89式装甲戦闘車を毎年100両分700億円追加予算で欲しい、とまではいいません、しかし、普通科隊員の機動力を考えれば最低これだけは必要、ということ。
Hbimg_9353 もちろん、予算が許すならば、96式装輪装甲車を毎年100両程度調達し、二個連隊とその他所要を装甲化し、全般的な陸上自衛隊の装甲化を目指すことが筋だとは考えるのですが、現実的に予算がありません。しかし、現行の毎年30両程度を越えて多数を装備することは、説得力として難しい、それならば重ねてハイローミックス、というように安普請と、多少まともなものを一旦揃え、本命の装甲車は後日装備できるという希望を含めて、暫定装備としてでも装甲高機動車というような、高機動車の輸送力を持つ装甲車を装備するべきでしょう。とにかく、全般支援火力の近代化により全般的な装甲化を行わなければ生き残るのが年々難しくなってきています。
Hbimg_9466 暫定装甲車として、従来の装甲車の後継装備ではなく、高機動車の普通科部隊配備用を置き換える、装甲を張った高機動車の運用を為す車両として、のちに高度な装甲車を全普通科連隊に装備できるのならば、暫定装甲車は重迫撃砲の牽引車にも用いることが出来ますし、施設大隊の第一線部隊への装甲車として、特科連隊の装甲弾薬車としての転用や、場合によっては近距離地対空誘導弾に中距離多目的誘導弾などの装甲車隊として転用も可能です。しかし、高機動車が充足した今日、そろそろ全部隊の装甲化という、今日までは不可能と思われた問題でも臨まなければ、生存性を維持できないようになってしまいます。

北大路機関:はるな

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コメント (6)
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