北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

歴史地震再来と日本安全保障戦略⑦ 天正地震、太平洋・日本海沿岸の同時津波

2013-10-14 22:25:55 | 防災・災害派遣

◆列島分断!、本州最狭部を襲う被害の本質

 本日は鉄道の日ですが、天正地震関連の話題を。日本列島本州中央部を襲った天正地震、その概要は前回お伝えしました。

Img_130_1 天正地震の被害は内陸部の直下型地震が本来浅い震源から局地的であるはずの被害分布について、広範囲に及び歴史に奥の傷跡を残すと共に、一部地域では数百年を経て地域自体の復興が断念されているところにある、とその概要を簡単に示してみました。列島を分断するかのように広がる被害、おどろくべきものでしょう。

Img_8121 しかし、天正地震が今日に示す被害の恐るべき部分は、前述の部分の中で、列島を縦断する被害、というところにあるのかもしれません。列島を分断する、つまり本州最狭部に被害が集中し、そして伊勢湾と若狭湾沿岸において津波被害らしき記録が残っていますので、これは恐るべきものと言わざるを得ません。

Eimg_4659 伊勢湾と若狭湾での津波被害、といいますと、これは即ち、太平洋岸と日本海沿岸で津波被害が発生した、という事になりますので、必然的に海上からの救援が警備管区だけでも海上自衛隊では太平洋側の横須賀警備管区と日本海側の舞鶴警備管区に分かれてしまっている、ということ。

Img_3550 単に警備管区が違えば、統合運用すればいいだけではないか、と思われるかもしれませんが、艦艇は若狭湾から伊勢湾へ移動するだけで容易なことではありません、津軽海峡か対馬海峡を航行しなければならず、警備管区を一本化したとしても海だけはどうにもならないのですから。

Aimg_9773 陸上からの救援についても、太平洋沿岸と日本海沿岸には多くの高速道路網が展開し、鉄道線路網についても同様のことが挙げられますので、太平洋岸の津波被害に日本海沿岸の津波被害、更には天正地震でも奥の被害が生じた琵琶湖沿岸の液状化被害を考えますと、車両部隊の展開にも制約が大きくなります。

Bimg_0186 この問題は陸上面でも意外に重大です。何故ならば、東日本大震災では全滅した東北地方太平洋岸の道路網に対し、国土交通省は櫛の歯作戦として、日本海側の無事な道路網を基幹路線として確保した上で櫛の歯のように太平洋岸へ道路復旧を進めてゆくという手法をとったわけですが、天正地震の場合はどうでしょうか。

G12img_7385 天正地震と同等の地震が発生した場合には、本州が挟み撃ちにされます、これは、日本海側へ太平洋岸を迂回して、太平洋岸へ日本海側を迂回して、それぞれ救出に向かう、という手法が取れなくなるわけで、そうすればヘリコプターや輸送機、空からの救援、という位置づけばかりになってくるわけです。

Img_8109 こうした実情が現出するわけなのですけれども、我が国は専守防衛に徹する防衛政策を採ってきたため、結果論ですが外征に繋がる航空輸送能力が特に輸送機の面で限られており、民間インフラを復旧させるに十分な部隊や、救急救命に直結する部隊を輸送できるかが限られているわけです。

Himg_5004 また、洋上からの救援も、ヘリコプターの運用能力を有する艦艇は、対潜戦闘能力の強化という観点からもとより重視されているのですが、輸送艦、という災害派遣に必要な装備面では、やはり輸送艦は同時に外征にももちうる、という、災害時に聞けば言掛りのような視点から蔑ろにされ、今に至る。

Eimg_7436 特に艦艇については、輸送艦が大型化し多分、その数が非常に少なくなってしまいました、おおすみ型輸送艦は三隻のみ、地方隊の輸送艦もすべて除籍されています。おおすみ型はエアクッション揚陸艇の運用能力や全通飛行甲板により航空機運用能力がありますが、数が少ない。

Img_3619 いかに高性能な艦艇であるとしても、同時に二方面へ展開することはできません。東日本大震災では、三隻の輸送艦のうち、一隻は定期整備、一隻が海外派遣中、一隻のみ即応態勢にありました。第七艦隊のドック型揚陸艦の支援により、陸上自衛隊の展開は支援を受けましたが、やはりもう少し必要と考えるところ。

Img_0849_2 ただ、救いとなる面は幾つかあります。一つは本州最狭部とはいえ、天正地震は直下型地震が、連動したことで被害が広域化した、というものですので、交通が分断されたとしても、東側に名古屋市、西側に京都市や大阪市といった大都市があり、備蓄と民間能力の一大集積地となっており、備蓄が枯渇するまで時間はある、というもの。

Img_0885 もう一つは、天正地震の津波被害について、そこまで波高が大きく無かったのではないか、という研究がある事です。天正地震は、どの程度の津波が発生するのか、天正地震の津波被害は東日本大震災後、特に若狭湾沿岸部の原子力施設に対する津波被害の脅威評価から進められました。

Gimg_3747 それによれば、2m程度の被害が想定されているのみで、若狭湾の津波被害は琵琶湖での山岳崩壊に伴う大波被害と液状化被害を混同した可能性がある、という事、伊勢湾沿岸の津波被害については津波そのものの被害よりも地盤沈下による浸水被害の方が大きかったのではないか、というもの。

Img_0383 前者についてはともかく、後者については恐るべきものではないか、という方もいるでしょうが、もともと伊勢湾と大阪湾沿岸部は多島海域であったものが沖積平野として平野部となったわけですので、再度地震に伴う地盤沈下があったとしても、同様の被害は起こりえないかもしれません。

Img_4357 その理由には、沖積平野はその形成に際し、山間部の鉱山開発や耕作地開拓が泥流をおこし、平野部の沖積平野形成に大きな影響をおよぼした、人間の開発という側面があるためで、沿岸部の海抜は干拓事業と、上記理由から相当嵩があがっているためなのですから。

Img_6248 ただし、これは被害をそこまで大きくするものではない、という部分があると同時に、やはり日本海沿岸部と太平洋岸を同時に被害を及ぼす地震が過去に起きており、本州中央部で東西を分断してしまう可能性も同時に内包している、という事実にも、やはり変わりはありません。

Img_6805_1 この点から、我が国は大陸国家ではなく大陸外縁部の島嶼部国家であり、加えて火山性地形により、これは同時に地震が多発することを意味するのですが、地形が峻険、一旦道路網が麻痺すれば復旧に相当の労力を要する地形でもあり、空輸力と海上輸送力の重要性を端的に示すもの、ともいえるかもしれません。

北大路機関:はるな

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