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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

榛名防衛備忘録:機動戦闘車配備方式と普通科連隊対戦車中隊廃止の趨勢を考える

2013-10-08 23:46:59 | 防衛・安全保障

◆連隊に対戦車中隊、中隊に機動戦闘車小隊を!
 先日の守山駐屯地祭で、79式対舟艇対戦車誘導は今年度限りにて師団では廃止される、という事実を、訓練展示模擬戦のアナウンスで知らされました。
Cimg_8809 これは来年度から中距離多目的誘導弾が各普通科連隊の対戦車中隊へ配備されるのか、普通科連隊の対戦車中隊が廃止され人員規模が縮小するのか、第五中隊が置かれるのか、はたまた87式対戦車誘導弾を有する中隊対戦車小隊に一任するのか、来年度まで分かりませんが、ただでさえ陸上自衛隊全体で戦車が削減され、火砲も削られ、充実するという方針の普通科部隊には一向に装甲車が増えない、これで大丈夫なのかな、と不安にもなる。
Cimg_9028 しかし、ここは普通科中隊の対戦車小隊こそ、例えば先日話題の、と言いますか無理矢理話題とした機動戦闘車を配備し、機動砲小隊に置き換えるなどして中隊長の手札を増やし、運用を柔軟化させると共に、普通科連隊には連隊戦闘団編成時の連隊長最後の手札として、対戦車中隊を多目的誘導弾中隊へ改編し、普通科中隊が圧される局面において、延伸した射程と同時多目標対処能力を発揮できる体制を構築するべきではないか、と考えるところ。
Cimg_8456 最後の手札というものは重要です。その昔、ガメラ2という一部で伝説化した有名な作品がありまして、特に90年代の作品ながら自衛隊の扱いと実態が秀逸であることから今なお語り継がれている作品があります。この作中で79式対舟艇対戦車誘導弾が意外な活躍をしましたが、作品を議欄になった方はご記憶の方も多いのではないでしょうか、師団長最後の手札と呼ばれた対戦車隊が、文字通り最後の手札として投入され、しかしその威力が最大限発揮されたことで、状況が一変する、というもの。
Cimg_06170 師団長最後の手札、陸上自衛隊では16セットの対戦車誘導弾を配備する対戦車隊をこのように呼んできましたが、映画ガメラ2でも、札幌や仙台と次々に都市を破壊しつつ営巣地を求め東京へ南下する宇宙生物に対し、第1師団は、多くの部隊を既に失った師団長が宇宙生物の東京侵攻を阻止する行動を見せたガメラに対し、最後の手札として79式対舟艇対戦車誘導弾所謂重MATを全力投入する決心を下します。
Cimg_1295 作中で宇宙生物は高濃度の酸素環境を自ら形成しつつ大きな繁殖力と電波を介した意思疎通を行うため、営巣地を一旦構築すると爆発的に増殖し地球そのものの生態系を根本から破壊してしまうという危機があり、加えて宇宙生物の母体は非常に硬度が高く、強力な電波を発する為通常の火力や誘導弾は効果が薄かったのですが、有線誘導方式を採用し、HEAT弾を目標の下から叩き込む重MATは意外な威力を発揮し、その後の展開を一新させる、という描写がありました。
Cimg_1171 さてさて、初めて練馬駐屯地祭へ足を運んだ際、実はすでに師団対戦車隊と共に重MATは廃止され、普通科連隊にも対戦車中隊は置かれていないので、師団の対戦車誘導弾は普通科中隊の対戦車中隊に装備されたこれだけですよ、と射程半分でレーザー誘導型の87式対戦車誘導弾を指差された時、軽い衝撃でしたが、その分、重MATは第2師団や第4師団に第8師団と第10師団等の普通科連隊全てに対戦車中隊が置かれ、師団全体で従来の師団対戦車隊三倍にあたる対戦車誘導弾を集中配備する編成へ移行していたわけです。
Cimg_0870 なお、第4師団と続いて第2師団は、師団に96式多目的誘導弾システムを運用する対舟艇対戦車中隊が師団直轄として新編されることとなり、師団対戦車中隊はこちらに統合される形で廃止されました。上記以外の師団では、師団編制のうち、対戦車中隊の区分をそのまま普通科中隊として、維持し、第五中隊を置いている師団もあります、第3師団がそうでした。ただ、高価な重MATを持たない分、その分の予算で取得費用が同程度、実際はやや安いようですが、96式装輪装甲車を第五中隊に配備してほしかったところですが、まあ、お教えいただいた方も同感しつつ、予算がね、と。
Cimg_4876 さて。対戦車中隊ですが、中距離多目的誘導弾を集中配備するべき、とした背景には、赤外線画像誘導方式とレーザー誘導方式を併用し発射後ロックオン方式が可能な新世代型対戦車誘導弾、中距離多目的誘導弾故の特性を考慮するべきだと考えた次第です。レーザー誘導方式を併用することが出来るため、今後普通科連隊へ現在位置部へ試験配備されるにとどまっている携帯飛行体のような無人機、その改良型が配備された際には、連隊の監視範囲が大きく広がることを意味します。
Cimg_1305 もちろん、軽量で微風にも揺れる携帯飛行体からレーザー照準を行うことまでは、特に搭載量の限界が厳しく、即座に希望しませんが、監視範囲が増大すればそれだけ中距離多目的誘導弾の特性を活かした運用も可能となるでしょう。特に自己完結型の中距離多目的誘導弾は、高機動車一両にy通洞団と索敵装置に照準装置を搭載していますが、高機動車であるため、大きさから87式対戦車誘導弾のように掩砲所を構築することは簡単ではなく、また車体に装甲防御力はありません。このため、極力脅威対象と距離を置く必要もある。
Cimg_4430 他方、普通科中隊の対戦車小隊は機動戦闘車を装備するべきではないか、ということ。これは軽装甲機動車に続き、開発が開始される装輪装甲車(改)や96式装輪装甲車の普通科中隊への配備が進む、という期待の下に、というべきものですが、機動戦闘車は、ミリ波レーダーを搭載する中距離多目的誘導弾ほど同時多目標対処能力が高いとは考えられず、もちろん一秒毎に次々と誘導弾を発車する中距離多目的誘導弾ほど同時多目標対処は行えないのですが、装甲防御力を有し、誘導弾のような最低射程等の制約が無い直接照準での戦闘が可能です。この点、無反動砲小隊への回帰ということもできるのでしょうか。
Cimg_4949 機動戦闘車は戦車の代用にはなりませんが、直接照準による瞬発戦闘能力を有する大火力の拠点であり、加えて、発表されるまで車幅については関心度が残るものですが、仮に既存の道路交通法に適合する車幅に抑えていた場合、装輪装甲車や軽装甲機動車とともに、市街地の駐屯地へ配備する場合でも、演習場へ日中を自走して展開することも可能です。これは戦車部隊駐屯地を演習場から離れた市街地に置けない最大の理由である訓練環境の問題をも解決できる、ということ。
Cimg_8480 日本の普通科連隊は普通科中隊を基本単位として、間に普通科大隊をおく編成を採っていません。正確には1962年の管区隊編成師団制度移行の際に廃止し、結果戦闘基幹部隊を普通科中隊としてきました。しかし、多くの国では歩兵大隊隷下の歩兵中隊の定員を100名程度とし、迫撃砲小隊などは大隊直轄としています。このため、これら火力を有する自衛隊の普通科中隊は概ね200名前後となっており、対戦車小隊と迫撃砲小隊を火力中隊に統合した場合、隷下小銃小隊を普通科中隊とし、あと90名ほど人員は欲しいですが普通科大隊を名乗っても遜色ない、規模を有している、という気はしないでもありません。
Cimg_6888 閑話休題。中距離多目的誘導弾を普通科中隊の対戦車小隊へ配備した場合、、理想としては射界を確保できる地域に接続できる掩砲所を構築し、適宜展開し射撃し射撃後は掩砲所へ戻る、という運用が望ましい一方、発射後ロックオンが可能ですので、必要ならば相当後方に展開し、第一線の小銃小隊からレーザー照準を受け、見通し線外射撃、間接照準射撃を行うという運用もあるでしょう。特に掩砲所を構築する時間が、攻撃前進などにより確保できない際にはこの運用以外、敵砲迫の火力で制圧される可能性もあります。しかし、この方式を採った場合、中隊長は中距離多目的誘導弾の展開状況と掩砲所の構築にかなりの配慮を行わねばならず、これが中隊の行動を制約してしまうのではないか、と。
Cimg_9485 機動戦闘車であれば、攻撃前進に随伴できますし、中隊長は掩砲所の設営よりも攻撃と防御に集中できるほか、普通科中隊を構成する三個の小銃小隊は、自小隊が展開する距離から遠くない範囲に一個小隊とはいえ機動戦闘車が配備されるわけですので、不意遭遇や障害除去に際し、即座に105mm砲の瞬発交戦能力を発揮することが出来ます。もっとも、この場合、機動戦闘車は中隊の他の装甲車と共に最前列に位置して戦闘加入するわけですので、損耗を考慮した予備車両や運用全般を考える必要が出てくるわけではありますが。
Cimg_9482 さて、普通科連隊対戦車中隊を維持すれば、直掩火力となる重迫撃砲中隊の120mm重迫撃砲とともに連隊の普通科中隊への支援能力は大きくなります。機甲脅威状況に応じ、もしくは防御正面に応じ、連隊本部管理中隊が無人機を用いて必要な状況を収集、機動戦闘車が得た目標情報などもC4ISRによる情報共有により対戦車中隊の展開必要位置を連隊長が決心し、必要で且つ最大の効果が発揮できる地域に中距離多目的誘導弾を展開すれば、連隊全体の戦闘能力の防御力はかなりのもとのなるでしょう。
Cimg_6172 なお、こうした視点に際し、それでは戦車の存在意義は無くなるのではないか、という指摘があるかもしれませんが、前述の通り、機動戦闘車は60式自走無反動砲のような運用を想定しています。73式装甲車や60式装甲車を装備する普通科部隊は冷戦時代の北部方面隊に幾つか配置されていましたが、この部隊に対し、60式自走無反動砲は火力支援と対戦車戦闘を専ら任務としていた半面、これにより戦車中隊は連隊戦闘団に不要、という論理には至っていません。この点とともに、普通科連隊対戦車中隊には中距離多目的誘導弾を、普通科中隊対戦車小隊は機動砲小隊への改編を、と考えた次第です。
Img_481_5 予算面の問題が最大ではありますが、現在まで継続されている普通科の重視という防衛計画の大綱に従えば、この程度は必要なのではないか、と。少なくとも、NATO等で進む高性能な大口径機関砲と戦車用火器管制装置と同程度の機器を備えた歩兵用の装甲戦闘車とは、搭載する火器管制装置が同程度ですのであまり値段で変わりません、装甲戦闘車で一個連隊を充足するよりは、それこそけた違いに安価な選択肢ではないでしょうか。

北大路機関:はるな

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