北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

新防衛大綱と我が国防衛力の課題③ 海上の防衛、重視されるべき平時と有事の両立

2013-10-10 23:41:17 | 防衛・安全保障

◆八八艦隊とDE護衛艦の復権という必要性

 現在の防衛計画の大綱における護衛艦定数は、南西諸島と九州南部における周辺国海軍艦艇行動の恒常化と比較し、果たして平時にこれほどの運用を想定して算出された数字なのでしょうか。

Bimg_8639 北大路機関では、かねてから現在の護衛艦隊四個護衛隊群八個護衛隊体制をヘリコプター搭載護衛艦8隻とイージス艦8隻から編制する八八艦隊構想を提案しています。現在ある護衛隊群護衛隊は八個あり、それぞれイージス艦基幹の編成四個とヘリコプター搭載護衛艦基幹の編成四個となっていますが、ヘリコプター搭載護衛艦基幹の編成護衛隊についても半分がイージス艦を有しており、残る二つもイージス艦を配備する方針が示されたため、それならばイージス艦基幹の護衛隊にもヘリコプター搭載護衛艦を配備し編成を共通できないか、と。

Bimg_0819 北大路機関の護衛艦部隊に関する提案はこれに終始し、最大の利点は全通飛行甲板型護衛艦が現在の護衛艦いずも型2隻と護衛艦ひゅうが型2隻の4隻体制から8隻体制とすることで、周辺国の航空母艦への軍事恫喝に対して全通飛行甲板型護衛艦による平時の警戒対処が可能となり、軍事的な対応というよりは平時における空母による恫喝に対し、同数以上の全通飛行甲板型護衛艦を遊弋させることで、政治的に、または社会的に、分かりやすく表現すれば我が国民へ、我が防衛力は劣勢ではない、と強調できる訳です。

Bimg_2940 一方、前述の通り平時における軍事恫喝、特に航空母艦を伴わない艦艇部隊による同時多方向からの領域接近に際し、解呪防衛力を飽和状態に追い込まれないよう対処するにはどうするべきか、という視点は真剣に検討されなければなりません。こういいますのも、周辺国には外洋海軍を目指しつつ、同時に1500t級のコルベットを大量建造し、実に年間コルベット隊単位で増強している事例が既にあり、有事の際には戦力的に不確かな小型艦艇は我が方の格好の標的でしょうが、平時にはいきなり撃沈など出来ません。

Kimg_9291_1 この意味するところは、大型護衛艦と共に平時の警戒任務に当たる中型以下の護衛艦、もしくはミサイル艇と汎用護衛艦の中間にあるような水上戦闘艦を量産し、海上防衛力が飽和状態に陥らないようにしなければならない、という一点に尽きます。もちろん、全体の汎用性を考えるならば、むらさめ型護衛艦程度の護衛艦を年間量産することが出来ればそれに越したことはないのですが、予算には限りがあり、同時に海上防衛力だけを以て防衛力全般を自己完結できる訳ではありません、より明瞭に言えば他に買うべき重要なものがある。

Oimg_8811 以上を踏まえたうえで、海上自衛隊と政策決定者及びその支持者、国民のことですが、反省しなければならない点として脅威が潜在化し、加えて顕在化する可能性が残る中、冷戦終結を理由として一方的な海上防衛力の縮小、冷戦時代と比較し護衛艦定数を実に15隻以上削ったことが影響している部分は無いでしょうか、護衛艦定数が削られたとしても脅威の可能性が残る王強化では多機能化と高性能化を求めるしか無くなり、事実、護衛艦定数の削減と共に我が国の護衛艦は一隻当たり一斉に基準排水量が増大しました。

Bimg_1262 しかし、現在の海上防衛において護衛艦が大型化し、特に沿岸防衛用の小型護衛艦の建造が、あぶくま型を以て終了した半面、海上自衛隊において平時の警戒監視に最も重宝されているのは、あぶくま型護衛艦であるといわれました。意外と思ったのですが、平時は相手の群と同数の護衛艦を展開させれば警戒監視任務は事足りるわけで、その分運用経費、燃料消費などが少ない艦船が平時は重宝される、という話です。写真、奥の護衛艦むらさめ型が満載排水量6200t、手前の護衛艦あぶくま型は2800t、燃料消費量の違いは想像できるでしょう。

Img_9072 この提案ですが、まず、八八艦隊との両立を念頭に考えますと、第一に必要としている八八艦隊だけでは同時多方向の脅威に対処することは難しい、一方で実現には既存の予算でも厳しい状況下で、ヘリコプター搭載護衛艦4隻を増勢する必要性を提示しており、建造費だけで一隻当たり1100億円に達する、勿論維持費も大きい、しかし、平時の抑止力、有事の際には、艦載機に将来的にF-35Bを導入できた場合、防空の補完、策源地攻撃、シーレーン防衛、海上阻止、全てに有用で、他方F-35Bもさらに高いものですが、必要だ、という前提をひとつ。

Img_4550 他方で、兎に角数が必要な場面は平時において存在する、というもう一つの前提を加えますと、安価な水上戦闘艦を建造し、八八艦隊以外の護衛艦を充足させる、もしくは安価で低性能に甘んじるので護衛艦定数を限られた予算下でも、有事の骨幹戦力を維持しつつ数的増勢を図る苦肉の策に、小型護衛艦の復権が必要なのではないか、と考えたところ。もっとも、安ければいい、というわけではありません。最小限艦艇として必要な性能を盛り込み、艦艇を護衛艦隊の装備体系に包含する運用面からの配所が必要なのは言うまでもないのですが。

Eimg_5922 上記前提を踏まえたうえで平時の海上防衛力を維持するべく、同時多方向からの艦艇に対処するためには、あぶくま型以来建造が停止している小型護衛艦の再整備という必要性を再度提示する必要はないのか、と考える次第です。もちろん、必要なのは巡視船では無く護衛艦ですので、対空レーダーやソナーは必要ですし、アスロック対潜ロケットやハープーンミサイルなどは断念するとしても、76mm単装砲と短魚雷発射管にRAM簡易SAMシステムかCIWSのような個艦防空火器は必要で、有事の連携に備えデータリンク能力は不可欠です。

Bimg_9328 特に海上警備任務には潜水艦対処が含まれますのでソナーが無ければ潜水艦は発見できません。対艦ミサイルですが、もともと例えばミサイル艇のミサイルなどは127mm砲を搭載できない小型艦艇が代用として搭載したミサイルがその起源でしたので、艦砲で代用できるのですが、有事の際に目標情報を他艦と共有し、自艦がこの種の装備を有さずとも対処できる体制を確立するためにはデータリンク能力は必要です。また、ヘリコプター運用支援能力は不可欠で、来年度予算から研究を開始する艦艇用無人機の運用能力も不可欠でしょう。

Bimg_94790 一時期までは、この種の任務、平時のポテンシャル行使はミサイル艇により代用できるものと考えていた頃もありましたが、防衛省が公表する我が国周辺の外国艦船行動状況において、警戒監視に当たっている艦艇は護衛艦が基本であり、ミサイル艇や掃海艇は、実施しているのかもしれませんが、少なくとも警戒監視として周辺国艦隊に対し、積極的な行動には出ていません、いうなればこの装備は有事の一撃必殺用や、港湾周辺と離島周辺の防備用に過ぎず、平時よりは有事の装備だった、というべきところでした。

Bimg_4691 こうした前提の上でミサイル艇と既存護衛艦の中間を模索しますと、基準排水量2400t程度、満載排水量3000t前後、後部に飛行甲板を有し、前甲板に艦砲とRAMを搭載、上部構造物内に短魚雷発射管を搭載、ただ、後日搭載用として艦対艦ミサイルの運用区画を上部構造物内に残し、ステルス性を重視、速力は25ノットから27ノット程度、警戒監視用に多機能レーダーを搭載し、平時の監視に特化し、有事の際にはデータリンク能力により打撃力を補完する、という装備が検討されるところでしょうか。

Img_2616 有事の際には八八艦隊のヘリコプター搭載護衛艦8隻・イージス艦8隻・汎用護衛艦16隻で対処する一方、平時には、それはもう兎に角数が必要だ、という前提で無理な提案を考えてみました。この時点で汎用護衛艦は、現装備中の護衛艦むらさめ型9隻、護衛艦たかなみ型5隻、建造中を含め護衛艦あきづき型4隻、25年度護衛艦、となりますので、最低18隻、練習艦所要を含めても維持でき、25年度護衛艦、あさぐも型、とでもなるのでしょうか、整備開始後一定数を確保したのちには、ヘリコプター搭載護衛艦と小型護衛艦へのシフトを提案します。

Bimg_5102 この小型護衛艦について、例えば無人掃海器具SAM、掃海器具などを搭載し、部分的に掃海艇、特に掃海隊群の掃海艇以外の、地方隊装備の掃海艇を置き換える能力を併せて付与させ、平時は地方隊において訓練練成し、同時に平時の警戒監視任務に際し、所属地方隊管区を越えた動的運用を行う、地方隊の掃海隊をそのまま小型護衛艦任務を兼ねる多機能艦に充て、地方隊旧掃海隊を訓練練度担当部隊に位置付けると共に、地方隊を越えた運用担当部隊に配置する、という柔軟な対応を併せて考えてみる必要もあるかもしれません。

Bimg_9536 更には、多機能艦には通常の護衛艦が2隻程度搭載する搭載艇を、高速複合艇4隻程度の運用能力を付与させ、離島警備能力と陸警隊の機動運能力付与や、簡易的な輸送任務への対応というものも考えられていいでしょう。もちろん、前述の通り掃海艇の能力を付与するにしても提示した小型護衛艦は排水量で掃海艇よりも遙かに大型となりますので、掃海艇としての訓練を行う際の費用が増大し、加えて多機能艦は、多用な機能に応じた訓練を一艦で行うため、個々の能力練度に影響するため、やり過ぎには気を付けなければなりませんが。

Bimg_9498 こうして提示したものを見ますと、過去の掲載で反共、と言いますか、反論が大きかった、ひうち型多用途支援艦へ76mm砲を搭載しての多用途哨戒艦へ、という提案とどこが違うのだ、と批判されてしまうかもしれませんが、当方が提案しているものはどちらかと言えば、アメリカ海軍が進める沿海域戦闘艦LCSの日本版、LCSを導入するとなるとインディペンデンス級にしてもフリーダム級にしても、あきづき型護衛艦と同程度の費用が必要になりますので反対ですが、日本版多機能護衛艦、として位置づけるものを考えている、というもの。

Bimg_6673 少々無理がある、という前提ではありますが、平時の警戒任務への小型護衛艦、運用経費の易い護衛艦という概念は、新しい防衛大綱に、護衛艦定数ではなく、大型護衛艦と小型護衛艦の区分が存在するという明示の上で、もちろん比率は防衛大綱に盛り込むべきではありませんが、明文化する必要はないだろうか、と考える次第です。もっとも、MQ-9無人機のような機体に平時の警戒監視、等と併せ有機的立体的に行うべき、とも考えるべきなのかもしれませんが。

Bimg_5258 さしあたって当方は平時を考えると小型護衛艦、特に小型多機能護衛艦を前提とした護衛艦定数の維持乃至増勢が必要ではないか、と考えるところです。何故ならば、有事とは相手の軍事的圧力に対し、平時の警戒管制と抑止力が破綻した際に紀州を以て始まるものなのですから、有事における必勝の態勢ももちろん抑止力とはなりますが、併せて平時の防衛を如何に破たんさせないかが、優位の必勝態勢の構築に負けないほど、重要だと考えますから、ね。

北大路機関:はるな

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