北大路機関

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イージス艦こんごう(DDG-173) 弾道ミサイル迎撃試験成功

2007-12-18 18:09:54 | 防衛・安全保障

■核恫喝に備える非核兵器国に唯一の選択肢

 12月18日0700時(日本時間)頃、ハワイ沖の訓練海域において海上自衛隊のミサイル護衛艦「こんごう」がSM-3ミサイルにより弾道弾迎撃試験を実施し、これを成功させたとのことだ。艦艇によるSM-3運用はアメリカ海軍以外では初。

Img_5766_1 写真は「みょうこう」(長崎で撮った「こんごう」の写真が出てこないので代理)。ハワイ諸島カウアイ島から発射された標的弾道弾を数百kmの距離で追尾、大気圏外でSM-3を直撃させ、無力化に成功したとのこと。使用されたSM-3は、ブロックⅡ(と報道)。射程は1000km以上、有効迎撃高度は約200km。開発中のSM-3ブロックⅡAでは機動性に優れたキネティック弾頭を搭載し、飛来するミサイルを受け止めるように直撃、無力化する。

Img_5890  従来、弾道ミサイルは宇宙を経由して飛来する為、撃墜しても“落ちてくる”事には変わりなく、結果地上に甚大な被害が出ることから、弾頭を完全に無力化する必要があった。今回の実験も含め、たとえ迎撃実験に成功したとしても、実際に迎撃を行なう際には、目標がどの時間帯に、どの発射基地から発射されるか、複数による過飽和攻撃の際の優先迎撃順位や、弾道ミサイルとその他の手段を含めた複合的な攻撃への対処能力や、潜水艦発射弾道弾への対処能力など、課題はまだまだ山積しているが、一応、大きな山場を越えたといえる。

Img_9151  改修を受ける「きりしま」。2007年6月の報道によれば、有償軍事供与によるSM-3ミサイル9発の調達価格とイージスシステムのベースライン改修(誤解を恐れずに書けばOSの置き換えのようなもの)には4億7500万㌦と、防衛費全体に掛かる影響は決して小さくなく、防衛予算の増額が難しい中で、新防衛大綱画定に際しての特科火砲、戦車の大規模削減や護衛艦、戦闘機への削減の遠因となったと考えられている。

Img_6255_1  しかし、日本が核保有という、核拡散防止条約違反を行わず、核兵器国による核恫喝の可能性に対処する方法としては、現在、この弾道ミサイル防衛が唯一の手段である。核爆弾を搭載した爆撃機や核弾頭装着の巡航ミサイルであれば、従来の要撃機や護衛艦による対潜装備でも対処しうる部分は多く残されているが、前述のように弾道ミサイルの迎撃は技術的に難しく、核兵器の破壊力と並び、対処能力の無い絶対性を付与していた。この絶対性の柱を折るのがミサイル防衛である。

Img_6495  核恫喝に対しては、これまで核保有により抑止力を確保するという考えが少なからずあったが、核体系、つまり核兵器の全地球規模での早期警戒網(報復する為にどこから発射されたかを調べる目的)、第二次反撃能力(最初の核攻撃で保有する核兵器の運搬手段が全滅しないようにする)、相手の核兵器を発射前に無力化できる充分な核弾頭数という兵器体系を行えば核軍拡は留まる所無く進み、また、核保有国の核兵器国を越えて増加することは必至となる。

Img_5611  核拡散防止条約には、核兵器国の核軍縮義務も明記しており、日本は、ミサイル防衛という核恫喝に核恫喝以外の手段で対応する手段を整備しつつ、核軍縮への道筋を模索してゆくという選択肢を有しつつある。また、SM-3以外の手段を同時開発し、複合的なミサイル防衛システムの整備はこれを補強するものとなるだろう。他方で、基盤となる従来型の脅威についても、その近代化の姿勢を維持する必要はある。

HARUNA

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コメント (4)
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