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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

戦車とは 欧州通常戦力削減条約にみる装甲車の定義

2007-12-16 14:58:21 | 国際・政治

■第二回:装甲車の定義

 前回、戦車の定義に関して、CFE条約(欧州通常戦力削減条約)においての戦車の定義を記載した。詳細は記事を観ていただくとして、概括すると75㍉以上の初速の高い砲を搭載し、16.5㍍㌧以上の戦闘車輌ということであった。

Img_0371  すると、例えば89式装甲戦闘車。人員輸送を目的としており、明らかに戦車の定義からは外れるが、35㍉機関砲を搭載し、79式対舟艇対戦車誘導弾も搭載、暗視装置の性能では写真の奥に展開している74式戦車よりも上である(試作された改良型は89式の熱線暗視装置と基本的に同じものらしい)くらいである。高性能な装甲戦闘車は多く、当然CFE条約にも装甲車の定義は明確に記されている。

Img_2945  装甲戦闘車の搭載する火力は、いきなり戦車と遭遇した場合の自衛用であり、補助的なものである。しかし、冷戦終結により試作で終わったが、ドイツのマルダー2は50㍉機関砲を搭載していたし、ロシアのBMP-3は100㍉低圧砲(ただし、3UOF19榴弾の初速は350m/sで、対戦車用途には9M117M1などの対戦車ミサイルを使用)と30㍉機関砲を搭載するなど、あなどれない威力がある。

Img_0354_1  重火力の装甲戦闘車が存在する一方で、装甲車の中には、機銃のみを搭載したベストセラーM-113、装輪式のBTR-80などがあり、四輪駆動のフランス製VAB,更に4.5㌧の軽装甲機動車、フランス製3.59㌧のVBLなど、輸送可能な人員が分隊以下の車輌も装甲車として存在し、同列に並べるには、やや無理がある面もある。こうして、CFEでは三区分に装甲車を分けている。

Img_2591  CFE条約2条D項では、「装甲戦闘車両」とは装甲防護を施した路外走行能力を持つ自走車輌をいう。装甲戦闘車両には、装甲人員輸送車、装甲歩兵戦闘車及び重戦闘戦闘車が含まれる。と定義している。この装甲戦闘車両に関する定義には、装輪式や装軌式といった区分は無く、以下の定義により三区分の境界を示している。

Img_2901  「装甲人員輸送車」とは、戦闘歩兵分隊の輸送用に設計され、且つ装備された装甲戦闘車両で、概して20㍉未満の兵器を一体として、または固有に装備しているものをいう。としている。なお、12.7㍉重機関銃などに代えて40㍉自動擲弾銃を搭載したものも、定義上は装甲人員輸送車に含まれるものと理解されている。なお、普通科が使用しても施設科が使用しても、普通科の使用を前提として設計されていれば、この区分に含まれる。CFEに日本は批准していないが、この定義には73式装甲車や96式装輪装甲車などが含まれる。

Img_2884  「装甲歩兵戦闘車」とは、主として戦闘歩兵分隊の輸送用に設計され、且つ装備された装甲戦闘車両で、通常は兵員が車輌後部から装甲に保護されて火器を発射することが出来、口径20㍉以上の砲を一体として又は固有に装備し、時として対戦車ミサイルランチャーを装備するものをいう。とされる。日本の場合は89式装甲戦闘車がこの定義に含まれ、ロシアのBMP-3やドイツのマルダーといった機関砲搭載の装甲車、米海兵隊のLAV-25装輪装甲車などがこの範疇に含まれる。

Img_0805  「重装甲戦闘車」とは、口径75㍉以上お直接照準火砲を一体として装備し、空車重量が6.0㍍㌧以上の装甲戦闘車両であって、装甲人員輸送車の定義にも装甲歩兵戦闘車にも戦車の定義にも含まれないものをいう。と定義している。こうして、日本の場合は、60式自走無反動砲が戦闘重量8㌧で空車重量も確か6㌧はあったと記憶するので(多分)この定義に含まれ、戦車の定義に含まれない軽戦車や装甲車に人員輸送能力に代えて砲塔と重火力を搭載した火力支援車は、この定義に含まれる。

Img_0674  こうなると、軽装甲機動車のような戦闘歩兵分隊を輸送する能力が無いもの(定員四名)は装甲人員輸送車に含まれるか、疑問が生じてくる。フランスのVBLはスカウトカー扱いで含まれないようだし、ドイツの完全防弾車ディンゴや、ハンヴィー高機動車の装甲型などは含まれないようである。キャビンに装甲を施したトラックも、定義には含まれないと考えられている。

Img_0345  しかし、ここで生じてくる疑問が、装甲車を用いた指揮通信車や装甲車を用いた装甲救急車、更に後部に迫撃砲を搭載した自走迫撃砲の扱い、戦車とも装甲車ともいえない自走火砲の区分や定義についてである。これについて、CFE条約ではどのように定義しているか、第三回において特集したい。

HARUNA

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