医療制度改革批判と社会保障と憲法

9条のみならず、25条も危機的な状況にあります。その現状批判を、硬い文章ですが、発信します。

あらためて、「後期高齢者医療制度廃止」の声を大きくしよう!

2009年06月21日 | 後期高齢者医療制度

あらためて、「後期高齢者医療制度廃止」の声を大きくしよう!

 昨年の今頃(08年6月)を、思い出してください

 後期高齢者医療制度に大きな批判が集中し、担当大臣や首相までが「抜本的に見直す」と言い出した、あの大騒ぎを思い出してください。
 昨年のあの大騒ぎを受けて「与党プロジェクトチーム」で検討され、改善されたことは、年金収入が80万円以下の世帯の保険料(均等割)を、7割減額から9割減額とすることと、年金収入で153万円から211万円以下の住民税非課税世帯の保険料(所得割)を、半分程度に減額するということでした。
 そして、年金天引きについては、本人・配偶者・世帯主からの口座引き落としを、希望する場合は認めるというものでした。要するに、当面の軽減・救済制度に、低所得層への軽減策の追加と、口座引き落としを認めるという改善策を追加しただけでした。
 その後、引き続き制度見直しを検討していた、高齢者医療制度についての「与党プロジェクトチーム」は、当面の負担軽減・救済制度を、さらに1年延長することを決めただけで、抜本見直しを09年秋以降に先送りしました。
 また、厚生労働大臣が設置していた、「高齢者医療に関する検討会」は、見直しに関する議論を整理、各論を併記して意見をまとめないまま、09年3月に審議を終了しました。
 後期高齢者医療制度のもつ問題点は、なんら解決されず、抜本的な見直しというのは掛け声だけで、先送りされてしまっているのです。
 この制度創設の経過や、その問題点を再度確認し、あらためて、後期高齢者医療制度廃止の声を大きくしなければ、問題の解決は望めないという状況になっています。

 この間の経過を、少し振り返ると

 小泉政権による、02年7月と06年6月の、2度にわたる医療制度改革法案の強行成立により、老人保健法が廃止され、高齢者医療確保法が成立し、この法に基づき、「後期高齢者医療制度」が08年4月から創設されることが決定されていました。
 しかし、07年7月の参議院選挙で、与党(自民党・公明党)、とりわけ自民党は大敗を喫します。その敗因は、高齢者の怒りが政府・与党に向けられたことが、大きな要因だといえます。
 それは、老年者控除の廃止・老年者非課税措置の廃止・年金控除の切り下げなどによって、すさまじい高齢者への負担増が襲い掛かっていたからです。
 そうしたことから、高齢者医療についての「与党プロジェクトチーム」を立ち上げ、当面する総選挙対策として、高齢者に負担増を感じさせないように、後期高齢者医療制度の手直しが検討されることとなりました。その手直しの議論は難航し、07年の年末に一応の取りまとめがなされ、08年4月スタートに向けての諸準備が、やっと進められることとなりました。
 その手直しは、新たに負担を求められる被用者保険の被扶養者について、9割減で08年10月から保険料徴収(9割5分減額)とし、一般の健康保険と後期高齢者医療とに世帯がまたがる場合などの、いくつかの、かつ複雑な減額・救済措置を決めたのでした。

マスメディアが取り上げ、問題点を指摘

 「与党プロジェクトチーム」の議論がまとまらず、政府・厚労省の方針が決定されないことから、後期高齢者医療制度の創設に向けての準備は、遅れに遅れていましたが、08年初めから大車輪でその準備が、広域連合・市町村で進められることとなりました。
 そのころから、それまで全くと言っていいほど報道してこなかったマスメディアが、後期高齢者医療制度について、連日その問題点などについて報道するようになりました。
 テレビなどでも、フリップ・テロップなどを使って、後期高齢者医療制度の問題点を整理して報道されていました。それは、1、年金からの保険料の天引き 2、2年ごとの保険料などの見直し 3、75歳以上の健康保険の被扶養者も制度移行で負担が生じる 4、都道府県ごとの「広域連合」の運営で地域格差が生じる 5、保険料滞納による「罰則制度」が新たに導入されるなどと整理され、解説がなされていました。
 06年6月に、法が成立していたにもかかわらず、この後期高齢者医療制度について、ほとんど報道してこなかったマスメディアが、なぜか08年初めごろから急に大きく報道するようになったのです。
 このように、いくつかの問題点指摘をしています。それはそれで正当なのですが、最大の問題点である75歳以上のすべての人を、後期高齢者医療制度に強制移行させるということ、75歳以上の高齢者だけを組織する健康保険を創設するという、このことについての問題指摘は、見当たりませんでした。
 さらに、高齢者だけを組織する健康保険、必然的な健保財政の赤字、その延長線上に予定されている「高齢者医療の制限」についての問題指摘もありませんでした。

年金天引きと低所得者の負担増

 そうした中で、08年4月15日の年金天引きについては、大々的な報道がなされ、「高齢者の怒り」が取り上げられていました。
 事実、高齢者は怒っています。それは後期高齢者医療制度の保険料が負担増になったからではありません。マスメディアは負担増と煽っていますが、負担増かどうかを測る物差しは4月時点では、高齢者をはじめだれもが持っていませんでした。(国保料の決定は6月)
 老年者控除の廃止、老年者非課税措置の廃止、年金控除の切り下げ、介護保険料の負担増、などなどで猛烈な負担増が幾重にも襲い掛かり、さらにそのうえに、後期高齢者医療の保険料が、年金天引きされたことに腹を立てているのです。
 それが、従前の国保保険料と比較して高いのか安いのか、そのようなことは論外です。なけなしの年金から、さらなる天引きをされたことに憤慨しているのです。この間の負担増への怒りや積年の恨みを、後期高齢者という言い草は何だ、年金天引きはケシカランと、息巻いているのです。
 さらに、08年6月5日には、新聞各紙一斉に「低所得者に負担増」という記事が掲載されました。それは、後期高齢者医療の保険料は「従前の保険料と比較して低所得者は負担が軽減され、高所得者は負担が増える。全体として7割の方々が負担減となっている」と発表した厚労省に対して、「大都市では低所得者の8割が負担増となっている」という新聞報道がなされたのです。
 「厚労省の発表」も「マスメディアの報道」も、どちらも同じ厚労省の推計資料に基づいたものであり、どちらも間違いというわけではありません。しかし、部分的な事例、すなわち「大都市の国保料算定基準」から生じた事例を、制度全体や全国的なことと誤解させるような報道に疑問を感じました。

 与党PTの見直し案が確定

 そうした大騒ぎの中で、さらなる「与党プロジェクトチーム」の見直し案が、ようやく08年6月末に確定しました。
 その内容は、①保険料の法定減額7割を、9割減額とする。今年は事務処理上、8割5分減額となる。②年金211万円以下の人は、その所得割を5割軽減する。③年金天引き(特別徴収)を、希望により口座振替(普通徴収)とすることを可能とする。という決定でした。
 少し補足すれば、①年金天引きをストップさせるには、事務処理上10月分からとなることから、結果として8割5分減額となります。②211万円以下で控除対象配偶者などのある年金世帯は非課税で、大都市の国保料では所得割はゼロです。③所得のある配偶者や世帯主の口座からの振替も可能となり、社会保険料控除が受けられることとなります。
 与党の一員である公明党の宣伝物を、08年7月に、たまたま目にする機会がありました。
 それには、長寿医療制度の必要性を強調しながら、その問題点を見直しすることによって、①約8割の人の保険料負担が下がるか、ほぼ変わりがないこと。②新たに負担が生じる人達(被用者保険の被扶養者)も、わずかな負担とさせたこと。③基礎年金だけの人には9割減額を、210万円程度以下の年金生活者には所得割を50%軽減させたこと。④年金天引きについても、世帯主や配偶者の肩代わりの口座振替も可能にしたこと。などが報告されていました。
 この公明党の宣伝物を見て、この間のマスメディアの不可解な報道、部分的な問題をことさら大きく報道してきた理由について、合点しました。また、政権与党となっている公明党のマスメディアへの支配力を痛感したところです。
 高齢者の負担が軽減されることは、大いに歓迎するところですが、このような手法での負担軽減はいかがなものかと感じます。
 経過を振り返ってみれば、マスメディアが大きく取り上げ報道されたことだけが、見直しされたのではないでしょうか。
 マスメディアでは報道されなかった、多大な負担増となっている大都市の障害者・障害者を扶養する世帯などへの手立てはなされていませんし、差別医療と批判される「高齢者への医療の制限」など、制度の本質的な問題点も見直しされたとはいえません。

高齢者への医療の制限が予定されている

 この後期高齢者医療制度の最大の問題点は、75歳以上の高齢者を一般の健康保険制度から切り離すことにあります。
 75歳以上の高齢者だけを組織する健康保険が、保険として成り立たないことは、火を見るよりも明らかです。
 保険料引き上げにも限度がありますし、若年者からの不満や反発が出るように仕掛けもあります。そして、その保険料負担増を抑制するためとして、周到に準備されているのが「高齢者への医療の制限」です。
 一般の健康保険とは別建ての診療報酬体系、総合医による主治医制度、後期高齢者診療料、包括診療報酬制など、「高齢者への医療の制限」のための準備がなされています。
 そして、その制限を超えた医療は自費診療とされ、「混合診療の解禁」が用意されているのです。
 そうした準備は整っていますが、制度批判が強いことから、当面は幌をかぶせて目立たぬようにして、その「発動は先送りにする」としているのです。
  そして、予定されている攻撃の対象は、高齢者にとどまらず、その高齢者への医療給付水準切り下げの攻撃が襲いかかった後には、次なる改悪の矛先が若年者の健康保険(公的医療保険)に向かい、私的健康保険(民間の療養給付型医療保険)に加入しなければ、十分な医療が受けられないという改悪が、襲い掛かってくることもまた、当然のこととして準備されています。
 民間の私的健康保険が準備され、それを多国籍保険金融資本がビジネスチャンスとして、虎視眈々と狙っているのです。

抜本的な見直しは、先送りされた

  この間の「与党プロジェクトチーム」の合意は、総選挙対策として「当面、高齢者に負担増を感じさせない」ための、一時しのぎの上塗りがなされただけであり、近い将来に予測される負担増や、高齢者への医療の制限に、歯止めがかかったとは到底いえません。
 そして、引き続き見直しを検討していた「与党プロジェクトチーム」は、総選挙が先送りされたことにともない、当面の軽減・救済措置のもう一年の延長を決めただけです。
 与党PTも有識者検討会も、抜本的な見直しについては、今年の秋以降に先送りしたのです。
 この間の見直しで確認されたことは、「後期高齢者」という呼称を変える、批判の強い「終末期相談支援料」をやめる、ということぐらいです。
 今秋以降の見直し議論について、総選挙で政府与党(自民党・公明党)が政権を維持するならば、抜本的な見直しが望めないどころか、軽減・救済措置の打ち切りや負担増が予定どおり実施されることとなります。

 後期高齢者医療制度廃止の声を大きくしよう

 このような総選挙目当ての、小手先の見直しに惑わされること無く、後期高齢者医療の廃止を求めての取り組みを、さらに強めてゆくことが重要であり、かつ必要だと考えます。
 マスメディアは08年とは打って変わって、09年は全くと言っていいほど、この後期高齢者医療制度について報道していません。この間の経過でみたように、マスメディアに過度の期待をすることは正しい判断だとはいえません。
 しかし、マスメディアのもつ影響力は、きわめて大きいものがありますので、取り上げざるをえないような大きな運動を、また、後期高齢者医療制度廃止の声をさらに大きくする以外に、方法はないと考えます。
 今秋までには、必ず総選挙が実施されることになっています。後期高齢者医療制度廃止を求める運動やその声を大きくすることによって、それを実現することができる政治勢力を、大きく前進させなければならないともいえます。
 あらためて、「後期高齢者医療制度廃止」の声を、さらに大きくしましょう。              

                                                             2009、06、21 harayosi-2

 


2 コメント

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Unknown (ナカサトミ イチロウ)
2009-07-24 10:31:40
住民税課税所得145万以上で、
8月から3割負担となった。
生活保護とほぼ同額の所得のある
者は、働くなと言うことか。
非常に不愉快であり、会社の社会保険からは、脱退させられ逃げ道が無い悪法だと思う。
イチロウサン、お怒りの意味はわかりますが..... (harayosi-2)
2009-07-24 20:38:09
課税標準総所得が145万円以上で3割負担、小泉さんの置き土産、えげつない制度であること、お怒りの意味はよくわかります。
しかし、生活保護費の金額とは、まったく異なるものです。
批判・反論をするにしても、生活保護を引き合いに出すことは、正当ではないと思います。

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