医療制度改革批判と社会保障と憲法

9条のみならず、25条も危機的な状況にあります。その現状批判を、硬い文章ですが、発信します。

福祉医療制度(公費医療・福祉医療)3

2006年10月24日 | 医療制度

  福祉医療制度(公費医療・福祉医療)3

     公費51 難病などの治療について


1、朝日新聞10月17日朝刊の1面トップ記事に、「難病の無料治療縮小」という大見出しと、「厚労省、軽症者は除外」「研究費捻出を優先」などの見出しに続いて、「厚生労働省は、45種類の病気を対象に治療を無料にしてきたが、対象患者数の多いパーキンソン病や潰瘍性大腸炎について、軽症者を無料の対象から外す方向で検討している」という内容の報道がなされていました。 
 なんと不正確な内容で、かつ腰の据わっていない記事だ、とは思いましたが、難病・特定疾患について大きく取り上げ、また、患者負担を求めることに批判的な記事、と理解して読みました。
 翌18日朝刊1面で、訂正記事が掲載されました。その主旨は「治療費を無料にしてきた」というのは誤りで、「治療費を無料または軽減してきた」という訂正と、「国と都道府県が全額または一部を負担している」というものでした。
 この訂正記事から感じたことは、しかるべき有力な筋からの指摘があり、比較的大きな訂正記事が掲載されたのではないか、ということです。
 「患者数が少ないがゆえに原因の究明や治療方法の開発が遅れるおそれ」が、指定要件のひとつにあることから、リークによると思われる、潰瘍性大腸炎・パーキンソン病の患者数が多いという記事が、他紙に散見されていました。
 腰の据わっていない不正確な記事で様子ぶると、足下につけこまれるという見本のようなものです。

2、難病(厚生省指定特定疾患)の治療費の無料化は、老人医療・乳児医療の無料化と同様に、1970年代初めの運動によって実現したものです。1972年(昭和47年)10月に、難病対策要綱がまとめられ、スタートしました。そして、その指定疾患を拡大しながら、難病患者への援助・救済が進展してきました。
 しかし、1980年代に入り、老人医療に対する攻撃がかけられ、無料から一部負担金が導入され、その負担金の増を繰り返し、次には定率負担へと攻撃が強化され、その改悪が一般医療にも、三次にわたり波及することになりました。
 そして、その改悪は公費医療・福祉医療へと影響を及ぼしてきています。全額公費負担で無料であったものに、自己負担や一部負担金が導入され、公費優先から保険優先(全額公費で負担する方式から、医療保険適用後の自己負担部分を公費負担する)へと移行してきています。

 3、難病・特定疾患のすべてが、その治療費は無料であったものを、1998年(平成10年)5月からは、4疾患(スモン、難治性肝炎のうち劇症肝炎、重症急性膵炎、プリオン病)をのぞき、住民税非課税世帯以外は、入院月14,000円、外来月2,000円限度の自己負担が課せられることとなりました。さらに、2003年(平成15年)10月からは、住民税非課税世帯の0円から、所得額により入院で月23,100円、外来で月11,500円までの、7段階の自己負担が導入されています。

4、この制度の正式な名称は特定疾患治療研究事業であり、難病患者の援助救済と難病治療研究とがセットになっており、1989年、2003年の見直しにより、調査研究に重点を移してきているといえます。 新たに、「厚生労働科学研究難治性疾患克服研究事業」として、121の特定疾患が指定され、その調査研究が進められています。 また、「難病特別対策推進事業」は、難病の調査研究は国が担い、その事業主体を都道府県に移行し、さらに、難病患者の居宅支援事業は市町村を、事業主体としてきています。現在45種類の特定疾患のうち、24疾患(下記一覧表☆印)の軽症者については、もうすでに受給者証ではなく「特定疾患登録者証」が交付され、医療費の公費負担はなく、一部の福祉サービスのみとなっています。

5、このように、すでに国としては難病の調査研究にシフトし、事業の実施主体を都道府県などに移し、軽症者の除外などは、現在でも進められています。その方向をさらに進めるために、患者数の多い疾患などについて、それらを理由に除外・縮小しようとしているのが、厚生労働省の検討事項である、というのが本当のところです。              
                         2006.10.25 harayosi-2
一般特定疾患(45疾患)              指定年月日
01 ベーチェット病☆                  昭和47年04月01日
02 多発性硬化症                   昭和48年04月01日
03 重症筋無力症☆                  昭和47年04月01日
04 全身性エリテマトーデス☆            昭和47年04月01日
05 スモン※                       昭和47年04月01日
06 再生不良性貧血☆                昭和48年04月01日
07 サルコイドーシス☆                昭和49年10月01日
08 筋萎縮性側索硬化症               昭和49年10月01日
09 強皮症/皮膚筋炎及び多発性筋炎☆     昭和49年10月01日
10 特発性血小板減少性紫斑病☆         昭和49年10月01日
11 結節性動脈周囲炎☆               昭和50年10月01日
(1)結節性多発動脈炎                      (1)昭和50年10月01日
(2)顕微鏡的多発血管炎            (2)昭和50年10月01日 
12 潰瘍性大腸炎☆                  昭和50年10月01日
13 大動脈炎症候群☆                 昭和50年10月01日
14 ビュルガー病(バージャー病)☆                  昭和50年10月01日
15 天疱瘡☆                                        昭和50年10月01日
16 脊髄小脳変性症                  昭和51年10月01日
17 クローン病☆                      昭和51年10月01日
18 難治性肝炎のうち劇症肝炎※          昭和51年10月01日
19 悪性関節リウマチ☆                                昭和52年10月01日
20 パーキンソン病関連疾患
(1)進行性核上性麻痺              (1)平成15年10月01日
(2)大脳皮質基底核変性症           (2)平成15年10月01日
(3)パーキンソン病                 (3)昭和53年10月01日
21 アミロイドーシス                  昭和54年10月01日
22 後縦靱帯骨化症☆                昭和55年12月01日
23 ハンチントン病                   昭和56年10月01日
24 モヤモヤ病(ウィリス動脈輪閉塞症) ☆     昭和57年01月01日
25 ウェゲナー肉芽腫症☆              昭和59年01月01日
26 特発性拡張型(うっ血型)心筋症        昭和60年01月01日
27 多系統萎縮症
(1)線条体黒質変性症             (1)平成15年10月01日
(2)オリーブ橋小脳萎縮症           (2)昭和51年10月01日
(3)シャイ・ドレーガー症候群          (3)昭和61年01月01日
28 表皮水疱症(接合部型及び栄養障害型) ☆   昭和62年01月01日
29 膿疱性乾癬☆                    昭和63年01月01日
30 広範脊柱管狭窄症☆               昭和64年01月01日
31 原発性胆汁性肝硬変               平成02年01月01日
32 重症急性膵炎※                  平成03年01月01日
33 特発性大腿骨頭壊死症☆            平成04年01月01日
34 混合性結合組織病☆               平成05年01月01日
35 原発性免疫不全症候群              平成06年01月01日
36 特発性間質性肺炎☆               平成07年01月01日
37 網膜色素変性症                  平成08年01月01日
38 プリオン病※
(1)クロイツフェルト・ヤコブ病           (1)平成09年01月01日
(2)ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー病(2)平成14年06月01日
(3)致死性家族性不眠症              (3)平成14年06月01日
39 原発性肺高血圧症                     平成10年01月01日
40 神経線維腫症Ⅰ型/神経線維腫症II型     平成10年05月01日
41 亜急性硬化性全脳炎                平成10年12月01日
42 バット・キアリ(Budd-Chiari)症候群☆       平成10年12月01日
43 特発性慢性肺血栓塞栓症(肺高血圧型)        平成10年12月01日
44 ライソゾーム病
(1)ライソゾーム病(ファブリー病を除く)     (1)平成13年05月01日
(2)ライソゾーム病(ファブリー病)         (2)平成11年04月01日
45 副腎白質ジストロフィー               平成12年04月01日
 
※印の4疾患は全額公費負担です。
☆印の24疾患には、特定疾患登録者証の設定があります。
 難病情報センターのホームページアドレス
 http://www.nanbyou.or.jp/what/index.html

   1998年(平成10年)負担導入時の反対意見を紹介します

開業医のつぶやき

難病疾患治療への患者負担導入に反対

 潰瘍性大腸炎や全身性エリテマトーデスやパーキンソン病等厚生省が指定する40の難病(特定疾患治療研究対象疾患)の医療費について5月1日から患者一部負担制が導入されようとしています。
これまで全額公費負担でしたが、重症患者と一部の疾患を除く難病患者に対し、入院月1万4000円外来1回1000円(月2回まで)の自己負担が課される事となり、全国の36万人の患者のみならずその家族関係者から不安と憤りの声がわきおこっています。

 1972年に策定された医療費公費負担制度によって、難病と闘いながらの厳しい生活のなかでどうにか継続して医療を受けることができたのですが、この制度が無くなれば、患者家族への経済的精神的負担は莫大となり、当然のことながら受診抑制と病状の悪化がおきる事が目にみえています。
難病患者の生活の実態といえば、その多くは定職につきにくく収入も少なく不安定で、おまけに通院の交通費や保険外負担や介護費用に追われ、更には家族にまで肉体的精神的負担を強いている事への負い目からも、これ以上の負担には耐えられなくなってきています。難病の方は、まだ根本的治療法が確立されていないうえに、増悪寛解を繰り返しながら時には死への恐怖とも闘いながらのつらい日々を送っておられるわけです。

  昨年一年間の難病への公費負担は186億円でしたが、今度の患者負担の導入によって当然増やす必要のある国庫負担が約62億円削減できると厚生省は試算しています。
このたった62億円を削減するために、36万名の患者を犠牲にしていながら、かたや銀行支援にはその5000倍の資金が使われている事等にたいし、納得いく説明を聞きたいものです。
今回の難病への自己負担導入は医療福祉改悪の一連の動きの一端であり、難病患者だけの問題でなく、広く医療厚生福祉関連にわたる社会全体の問題としてうけとめるべき大きな問題である。

  以上の事から、われわれ佐賀県保険医協会は特定疾患治療への患者負担導入に断固として反対し、国と県にたいしこの通達の撤回を要求するものである。             

                   1998年4月30日 

http://www2.ktarn.or.jp/~yonoda/tubuyaki/tubu_1.htm

野田内科のホームページです。 http://www.noda-naika.com

 


2 コメント

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初めまして。 ()
2006-10-29 16:24:54
お初にお目にかかります。

私は「医療制度」について調べている学生の身なのですが、ここの文はとても参考になりました。

一応医学を学ぶところに行こうと日々勉強しているつもりですが、あなたの文面を見て、自分がどれほど勉強不足だったかわかりました。これからも参考にするために見にきます。
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甘えかもしれませんが (小原 バージャー病患者)
2009-02-01 18:37:14
自分はバージャー病になり足指を3本おとしました。痛みとの戦いは失くなりましたが歩行困難になりました。
歩けないということは非常に不便です。
まず仕事が出来ない、でも治療費はかかる、もちろん生活費も…。
特定疾患があっても今この段階で負担があるだけで本当に困ってしまいます。
せめて治療費だけでもなくなれば治療にもはげめるのに…。
こうなって思うのは本当に痒い所に手は届いているのか?
国に当たっても仕方ないです。
難病だろうがなかろうが病人の身になって考えて欲しい。治すということをもっと考えて欲しいです。

勝手なことばかり書いて申し訳ありません。
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