医療制度改革批判と社会保障と憲法

9条のみならず、25条も危機的な状況にあります。その現状批判を、硬い文章ですが、発信します。

混合診療について

2007年02月03日 | 医療制度
 2005年にエントリーした記事ですが、最近、どういう理由かわかりませんが、検索ワードなどで訪問される方が増えています。2006年6月の法改悪で、名称などが変わっていますので、現状を補記して再エントリーしておきます。
                                 2007.2.3 harayosi-2



 今年始めの研究会の議論を踏まえ、「混合診療」についての批判を、仲間の皆さんへ「レポ」したものと、最近の『試案』批判での関連部分の抜き書きです。

   混合診療について

 規制改革・民間開放推進会議(議長・小泉首相)の主張する「混合診療解禁」についての、日本医師会長のきわめて明確な反論を、資料(日本経済新聞2004年11月23日 混合診療を問う・下 植松治雄日医会長)として紹介しました。
 混合診療の解禁について、何がどうなったかよく解らないという、理解に苦しむ内容ですが、厚生労働相と規正改革担当相との合意で、一応の決着をつけたとのことなので、解説的にコメントしておきます。

   混合診療の解禁

1、規制改革・民間開放推進会議の議論は、為にするものであり、プロパガンダ機関としてのマスメディアを使って、末期癌患者への安全性の確立していない抗癌剤の使用など、例外中の例外をことさら大きく取り上げ、煽情的な宣伝を展開してきたが、日本医師会長の反論で完全に論破されている。
それは、治験(その治療や薬が、有効でかつ安全かどうかのテスト・臨床研究)や特定療養費制度(基本は保険診療とし保険診療外を自費負担する制度)で対応できるものであり、事実そのような形で、厚生労働相と規制改革担当相との合意に基づき決着した。

2、現行制度のなかで、適用・対象を拡大することなどで解決できる問題を、ことさら大問題として、マスメディアを動員してのキャンペーンの意図は、小さな穴であても「混合診療」を解禁させることに狙いがあった。大騒ぎしていた問題は、治験や特定療養費で対応することになったが、その陰で小さな穴として、保険診療と自由診療の併用を認める混合診療は解禁された。
現時点では、混合診療というものは、小さな穴で何ら不都合はなく、穴をあけたことが重要であり、さらに現行制度を抜本的に見直し、特定療養費制度を廃止し、保険導入検討医療と患者選択同意医療に再編することを確認させるなど、規制改革・民間開放推進会議はその目的を達したといえる。

3、それは、さらなる医療制度改悪として、2008年には、新高齢者医療制度がスタートし、75歳以上の高齢者だけの健康保険制度が発足することとなっている。社会保障審議会・医療保険部会で現在審議中であるが、その健康保険は、高齢者の生理的特性を踏まえて、療養給付に制限が加えられることとなっている。高齢者であることを理由に、その治療や処方薬剤に大幅な制限が加えられる。保険適用外の治療や薬が自由診療となり、患者自費負担となる。それを見越しての混合診療解禁なのである。
その自由診療・自費負担分の治療や薬を現物給付(療養の給付)する、新しい型の民間の医療保険が、本格的に稼動することとなる。現在の民間医療保険は、入院などの際に現金給付することが基本であるが、療養の給付を行う私的健康保険に移行する。すでに、先行的に高度先進医療や癌治療に対応する療養給付型保険はあるが、高齢者の新健康保険の制限部分・保険適用外診療部分をカバーする、新しい型の民間・私的健康保険が本格的にスタートすることとなる。

4、新聞の全面広告以上の、見開き2面全面広告で、高齢者でも「はいれます、はいれます」という大々的なカタカナ保険会社の医療保険の宣伝は、それを見越しての、高齢者の事前の囲い込みである。事実、多くの高齢者が加入しているようだが、入院給付が1日五千円から1万円程度で、給付額はけっして多くなく、比較的掛け金は高いが、リスクの大きい高齢者対象の保険であり、現在はそんなに大きな利益をあげているとは思えない。
しかし、新高齢者医療制度が発足すれば、健康保険診療の制限によって自由診療の拡大、すなわち混合診療により高齢者にとって必要不可欠の新しい型の民間・私的健康保険へと、大化けする可能性が極めて高いといえる。
この間の、医療制度改悪・混合診療解禁の本質は、日本医師会長の批判にもあるように、こうした医療・医療保険をも、利潤の対象にしようとする、多国籍保険金融資本の企図を受けての、規制改革・民間開放推進会議の策動であり、そのための社会保障審議会・医療保険部会の議論であるとみれば、理解しやすいといえる。

5、さらに、規制改革・民間開放推進会議の前身組織である、総合規制改革会議の正副議長が、それぞれオーナーであるオリックスとセコムが、医療保険部門を拡大し利益をあげていること、実質的に医療機関・病院を経営し、さらに、医療関連事業としてレセプト審査・処理なども手がけはじめていることなどをみれば、より理解しやすいのではないか。
オリックスとセコムの、背後にある資本は明らかではないが、多国籍保険金融資本などがバックについている、とみるのが正解だろう。

そして、老人医療制度の改悪が一般の医療制度の改悪へと連動してきた、この間の経験から、一般の健康保険にも同様の改悪が予定されている、とみて間違いはないといえる。
                           
                          2005・3・5 harayosi-2

 2005年10月19日、厚生労働省の『医療制度構造改革試案』が発表され、予想された内容が、予定通りの「案」として示されてきました。その試案批判を書きました、その混合診療に関する部分だけを抜き出したものです。

   混合診療と自費診療の増加

 混合診療については、この間、特定療養費としての整理がなされてきました。それは、未承認医薬品、先進技術であっても、一定のルールのもとに、保険診療と保険外診療との併用を、認めるというものでした。
 これを、今回はさらに一歩踏み込んで、「将来的な保険導入のための評価を行なうかどうか」の観点から、「保険導入検討医療」と「患者選択同意医療」とに振り分け、前者は保険診療との併用を認め、後者は保険診療との併用を認めず、将来的にも保険診療の対象としない医療、すなわち、自費診療の医療としています。
 このことにより、未承認医薬品や先進技術であっても、その安全性や技術の定着などにより、順次保険診療とされてきた経過がありますが、今後は、「患者選択同意医療」とされたものは、将来的にも保険適用はされない、ということになります。
 このような振り分けがされることによって、自費による混合診療と全額自己負担の自費診療の増加が見込まれます。そうした医療費をカバーする、民間医療保険・私的健康保険が見え隠れしています。

※特定療養費制度とは、保険診療と自費診療の併用、いわゆる混合診療を原則的に禁止した中で、例外的に認めてきた、歯科の材料費・差額ベッドが代表的な例で、医療費の基本部分は保険から給付されるが、足りない分(差額)を患者から徴収できることを制度化したもの。高度先進医療や先進医療と選定療養(患者が選択できる特別のサービス=差額ベッドや予約診療など)の2種類があり、それらの内容は中医協で決められることとなっている。

2005.11.5 harayosi-2


「特定療養費」を「保険外併用療養費」に変更

 例外的に保険診療と保険外診療の併用が認められている医療は、「特定療養費」と呼ばれていました。2006年6月に成立した医療制度改革関連法で見直しが決まりました。
 これを受けて特定療養費は「保険外併用療養費」に模様替えされることとなりました。

 
 保険と保険外の併用が認められる具体的な項目は、下記の通りです。
 保険給付の対象にすべきかどうかについて検討していく「評価療養」と、それをせず患者の選択に任せる「選定療養」の2通りに大きく分けられ、合計16項目が掲げられています。

【評価療養】
(1)先進医療(現行の高度先進医療を含む)
(2)医薬品の治験
(3)医療機器の治験
(4)薬価基準収載前の承認医薬品の投与
(5)保険適用前の承認医療機器の使用
(6)薬価基準に収載されている医薬品の適応外使用

【選定療養】
(7)特別の療養環境の提供(差額ベッド)
(8)予約診察
(9)時間外診察
(10)200床以上の病院の未紹介患者の初診
(11)200床以上の病院の再診
(12)制限回数を超える医療行為
(13)180日を超える入院
(14)前歯部の材料差額
(15)金属床総義歯
(16)小児う蝕治療後の継続管理

 「特定療養費」から「保険外併用療養費」と名称が変更になりましたが、内容的にはほとんど変更はないといえます。
 あれだけマスメディアを動員し、大騒ぎしての結果は、「特定療養費」や「治験」などの従来の制度で対応できたものばかりです。
 狙いは、混合診療の原則禁止のなかでの例外としての「特定療養費」から、「保険外併用療養費」をつくることによって、原則禁止を後退させるということにあったと思われます。「将来に向けての布石」であり、「道筋をつけることができた」ということなのでしょう。
2007.2.3 harayosi-2

4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
TBありがとうございました (なかまた)
2005-11-20 22:43:11
 文藝春秋12月号 奪われる日本 でも郵政民営化から医療制度改悪までの流れが報告されていました。

 混合診療という名前で誤魔化していますが、小さな政府=弱者切り捨て の公式ですよね。
TBありがとうございました (start_dush)
2005-11-21 11:46:51
まさに、弱者切り捨ての構図が浮き彫りになってきました。今後診療、先端医療その他自費診療の拡大が国民皆保険の崩壊につながることを広く知らせるべきと考えます。今後ともよろしくお願いします。
Unknown (わわわゴシップ)
2005-12-08 22:41:45
初めまして。わわわゴシップと申します。いつも勉強させていただいています。

私は医療労働者として、日本の優れた国民皆保険制度の理念を再構築する運動の必要性を強く感じます。よろしくお願いします。
Unknown (start_dush)
2006-06-06 10:36:22
トラックバックありがとうございます。今後ともよろしくご指導のほどお願い致します。

コメントを投稿