asahi.com 被害者は「甲・乙・丙」 最高裁,匿名で初の刑事裁判
刑訴法第290条の2第1項には「裁判所は,次に掲げる事件を取り扱う場合において,当該事件の被害者等(被害者又は被害者が死亡した場合若しくはその心身に重大な故障がある場合におけるその配偶者,直系の親族若しくは兄弟姉妹をいう。以下同じ。)若しくは当該被害者の法定代理人又はこれらの者から委託を受けた弁護士から申出があるときは,被告人又は弁護人の意見を聴き,相当と認めるときは,被害者特定事項(氏名及び住所その他の当該事件の被害者を特定させることとなる事項をいう。以下同じ。)を公開の法廷で明らかにしない旨の決定をすることができる。」とある。
一方,最高法規である憲法には,裁判の公開に関するものとして,第37条第1項に「すべて刑事事件においては,被告人は,公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。」,第82条第2項本文に「裁判所が,裁判官の全員一致で,公の秩序又は善良の風俗を害する虞があると決した場合には,対審は,公開しないでこれを行ふことができる。」とある。この裁判公開の原則の意義は,一般に,司法の公正確保,ひいては司法に対する国民の信頼確保にあると考えられている。
被害者特定事項を明らかにしない決定は裁判公開の原則との関係で軋轢を生ずるが,同じく憲法には,憲法上の最高の価値として「個人の尊重」(第13条)が規定されている。裁判公開の意義は上記のとおりだが,もしそれが,被害者等の犠牲の下におこなわれているとすれば,その招来するところは,「司法に対する国民の信頼」どころか,「司法に対する国民の不信」ということにもなりかねない。公開の自己目的化は,時として,憲法上の最高の価値の減殺につながる。これでは本末転倒である。
この点,被告人の防御権の保障の如何が気になるところだが,刑訴法第291条第2項には「前条第一項又は第三項の決定があつたときは,前項の起訴状の朗読は,被害者特定事項を明らかにしない方法でこれを行うものとする。この場合においては,検察官は,被告人に起訴状を示さなければならない。」との規定があらたに設けられ,相応の配慮がなされている。
そもそも,被害者特定事項を明らかにしない決定は,裁判所により,強姦罪等の極めて限定された範囲で,被告人等の意見も聴きながら行われる。決定に恣意性が入り込む余地は大きくない。
こうしてみると,具体的な裁判所の決定はともかく,この規定自体に違憲と呼べるような明白な欠陥はないように思われる。
日本国憲法の関連条文
第十三条 すべて国民は,個人として尊重される。生命,自由及び幸福追求に対する国民の権利については,公共の福祉に反しない限り,立法その他の国政の上で,最大の尊重を必要とする。
第三十七条 すべて刑事事件においては,被告人は,公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。
2 刑事被告人は,すべての証人に対して審問する機会を充分に与へられ,又,公費で自己のために強制的手続により証人を求める権利を有する。
3 刑事被告人は,いかなる場合にも,資格を有する弁護人を依頼することができる。被告人が自らこれを依頼することができないときは,国でこれを附する。
第八十二条 裁判の対審及び判決は,公開法廷でこれを行ふ。
2 裁判所が,裁判官の全員一致で,公の秩序又は善良の風俗を害する虞があると決した場合には,対審は,公開しないでこれを行ふことができる。但し,政治犯罪,出版に関する犯罪又はこの憲法第三章で保障する国民の権利が問題となつてゐる事件の対審は,常にこれを公開しなければならない。
刑事訴訟法の関連条文
第二百五十六条 公訴の提起は,起訴状を提出してこれをしなければならない。
2 起訴状には,左の事項を記載しなければならない。
一 被告人の氏名その他被告人を特定するに足りる事項
二 公訴事実
三 罪名
3 公訴事実は,訴因を明示してこれを記載しなければならない。訴因を明示するには,できる限り日時,場所及び方法を以て罪となるべき事実を特定してこれをしなければならない。
4 罪名は,適用すべき罰条を示してこれを記載しなければならない。但し,罰条の記載の誤は,被告人の防禦に実質的な不利益を生ずる虞がない限り,公訴提起の効力に影響を及ぼさない。
5 数個の訴因及び罰条は,予備的に又は択一的にこれを記載することができる。
6 起訴状には,裁判官に事件につき予断を生ぜしめる虞のある書類その他の物を添附し,又はその内容を引用してはならない。
第二百九十条の二 裁判所は,次に掲げる事件を取り扱う場合において,当該事件の被害者等(被害者又は被害者が死亡した場合若しくはその心身に重大な故障がある場合におけるその配偶者,直系の親族若しくは兄弟姉妹をいう。以下同じ。)若しくは当該被害者の法定代理人又はこれらの者から委託を受けた弁護士から申出があるときは,被告人又は弁護人の意見を聴き,相当と認めるときは,被害者特定事項(氏名及び住所その他の当該事件の被害者を特定させることとなる事項をいう。以下同じ。)を公開の法廷で明らかにしない旨の決定をすることができる。
一 刑法第百七十六条 から第百七十八条の二 まで若しくは第百八十一条 の罪,同法第二百二十五条 若しくは第二百二十六条の二第三項 の罪(わいせつ又は結婚の目的に係る部分に限る。以下この号において同じ。),同法第二百二十七条第一項 (第二百二十五条又は第二百二十六条の二第三項の罪を犯した者を幇助する目的に係る部分に限る。)若しくは第三項 (わいせつの目的に係る部分に限る。)若しくは第二百四十一条 の罪又はこれらの罪の未遂罪に係る事件
二 児童福祉法第六十条第一項 の罪若しくは同法第三十四条第一項第九号 に係る同法第六十条第二項 の罪又は児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律第四条 から第八条 までの罪に係る事件
三 前二号に掲げる事件のほか,犯行の態様,被害の状況その他の事情により,被害者特定事項が公開の法廷で明らかにされることにより被害者等の名誉又は社会生活の平穏が著しく害されるおそれがあると認められる事件
2 前項の申出は,あらかじめ,検察官にしなければならない。この場合において,検察官は,意見を付して,これを裁判所に通知するものとする。
3 裁判所は,第一項に定めるもののほか,犯行の態様,被害の状況その他の事情により,被害者特定事項が公開の法廷で明らかにされることにより被害者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏怖させ若しくは困惑させる行為がなされるおそれがあると認められる事件を取り扱う場合において,検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き,相当と認めるときは,被害者特定事項を公開の法廷で明らかにしない旨の決定をすることができる。
4 裁判所は,第一項又は前項の決定をした事件について,被害者特定事項を公開の法廷で明らかにしないことが相当でないと認めるに至つたとき,第三百十二条の規定により罰条が撤回若しくは変更されたため第一項第一号若しくは第二号に掲げる事件に該当しなくなつたとき又は同項第三号に掲げる事件若しくは前項に規定する事件に該当しないと認めるに至つたときは,決定で,第一項又は前項の決定を取り消さなければならない。
第二百九十一条 検察官は,まず,起訴状を朗読しなければならない。
2 前条第一項又は第三項の決定があつたときは,前項の起訴状の朗読は,被害者特定事項を明らかにしない方法でこれを行うものとする。この場合においては,検察官は,被告人に起訴状を示さなければならない。
3 裁判長は,起訴状の朗読が終つた後,被告人に対し,終始沈黙し,又は個々の質問に対し陳述を拒むことができる旨その他裁判所の規則で定める被告人の権利を保護するため必要な事項を告げた上,被告人及び弁護人に対し,被告事件について陳述する機会を与えなければならない。
第二百九十五条 裁判長は,訴訟関係人のする尋問又は陳述が既にした尋問若しくは陳述と重複するとき,又は事件に関係のない事項にわたるときその他相当でないときは,訴訟関係人の本質的な権利を害しない限り,これを制限することができる。訴訟関係人の被告人に対する供述を求める行為についても同様である。
2 裁判長は,証人,鑑定人,通訳人又は翻訳人を尋問する場合において,証人,鑑定人,通訳人若しくは翻訳人若しくはこれらの親族の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏怖させ若しくは困惑させる行為がなされるおそれがあり,これらの者の住居,勤務先その他その通常所在する場所が特定される事項が明らかにされたならば証人,鑑定人,通訳人又は翻訳人が十分な供述をすることができないと認めるときは,当該事項についての尋問を制限することができる。ただし,検察官のする尋問を制限することにより犯罪の証明に重大な支障を生ずるおそれがあるとき,又は被告人若しくは弁護人のする尋問を制限することにより被告人の防御に実質的な不利益を生ずるおそれがあるときは,この限りでない。
3 裁判長は,第二百九十条の二第一項又は第三項の決定があつた場合において,訴訟関係人のする尋問又は陳述が被害者特定事項にわたるときは,これを制限することにより,犯罪の証明に重大な支障を生ずるおそれがある場合又は被告人の防御に実質的な不利益を生ずるおそれがある場合を除き,当該尋問又は陳述を制限することができる。訴訟関係人の被告人に対する供述を求める行為についても,同様とする。
4 裁判所は,前三項の規定による命令を受けた検察官又は弁護士である弁護人がこれに従わなかつた場合には,検察官については当該検察官を指揮監督する権限を有する者に,弁護士である弁護人については当該弁護士の所属する弁護士会又は日本弁護士連合会に通知し,適当な処置をとるべきことを請求することができる。
5 前項の規定による請求を受けた者は,そのとつた処置を裁判所に通知しなければならない。
第三百五条 検察官,被告人又は弁護人の請求により,証拠書類の取調をするについては,裁判長は,その取調を請求した者にこれを朗読させなければならない。但し,裁判長は,自らこれを朗読し,又は陪席の裁判官若しくは裁判所書記にこれを朗読させることができる。
2 裁判所が職権で証拠書類の取調をするについては,裁判長は,自らその書類を朗読し,又は陪席の裁判官若しくは裁判所書記にこれを朗読させなければならない。
3 第二百九十条の二第一項又は第三項の決定があつたときは,前二項の規定による証拠書類の朗読は,被害者特定事項を明らかにしない方法でこれを行うものとする。
4 第百五十七条の四第三項の規定により記録媒体がその一部とされた調書の取調べについては,第一項又は第二項の規定による朗読に代えて,当該記録媒体を再生するものとする。ただし,裁判長は,検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き,相当と認めるときは,当該記録媒体の再生に代えて,当該調書の取調べを請求した者,陪席の裁判官若しくは裁判所書記官に当該調書に記録された供述の内容を告げさせ,又は自らこれを告げることができる。
5 裁判所は,前項の規定により第百五十七条の四第三項に規定する記録媒体を再生する場合において,必要と認めるときは,検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き,第百五十七条の三に規定する措置を採ることができる。
第三百七十七条 左の事由があることを理由として控訴の申立をした場合には,控訴趣意書に,その事由があることの充分な証明をすることができる旨の検察官又は弁護人の保証書を添附しなければならない。
一 法律に従つて判決裁判所を構成しなかつたこと。
二 法令により判決に関与することができない裁判官が判決に関与したこと。
三 審判の公開に関する規定に違反したこと。
第四百五条 高等裁判所がした第一審又は第二審の判決に対しては,左の事由があることを理由として上告の申立をすることができる。
一 憲法の違反があること又は憲法の解釈に誤があること。
二 最高裁判所の判例と相反する判断をしたこと。
三 最高裁判所の判例がない場合に,大審院若しくは上告裁判所たる高等裁判所の判例又はこの法律施行後の控訴裁判所たる高等裁判所の判例と相反する判断をしたこと。
「犯罪被害者等の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律」の関連条文
(被害者等による公判記録の閲覧及び謄写)
第三条 刑事被告事件の係属する裁判所は,第一回の公判期日後当該被告事件の終結までの間において,当該被告事件の被害者等若しくは当該被害者の法定代理人又はこれらの者から委託を受けた弁護士から,当該被告事件の訴訟記録の閲覧又は謄写の申出があるときは,検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き,閲覧又は謄写を求める理由が正当でないと認める場合及び犯罪の性質,審理の状況その他の事情を考慮して閲覧又は謄写をさせることが相当でないと認める場合を除き,申出をした者にその閲覧又は謄写をさせるものとする。
2 裁判所は,前項の規定により謄写をさせる場合において,謄写した訴訟記録の使用目的を制限し,その他適当と認める条件を付することができる。
3 第一項の規定により訴訟記録を閲覧し又は謄写した者は,閲覧又は謄写により知り得た事項を用いるに当たり,不当に関係人の名誉若しくは生活の平穏を害し,又は捜査若しくは公判に支障を生じさせることのないよう注意しなければならない。
刑訴法第290条の2第1項には「裁判所は,次に掲げる事件を取り扱う場合において,当該事件の被害者等(被害者又は被害者が死亡した場合若しくはその心身に重大な故障がある場合におけるその配偶者,直系の親族若しくは兄弟姉妹をいう。以下同じ。)若しくは当該被害者の法定代理人又はこれらの者から委託を受けた弁護士から申出があるときは,被告人又は弁護人の意見を聴き,相当と認めるときは,被害者特定事項(氏名及び住所その他の当該事件の被害者を特定させることとなる事項をいう。以下同じ。)を公開の法廷で明らかにしない旨の決定をすることができる。」とある。
一方,最高法規である憲法には,裁判の公開に関するものとして,第37条第1項に「すべて刑事事件においては,被告人は,公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。」,第82条第2項本文に「裁判所が,裁判官の全員一致で,公の秩序又は善良の風俗を害する虞があると決した場合には,対審は,公開しないでこれを行ふことができる。」とある。この裁判公開の原則の意義は,一般に,司法の公正確保,ひいては司法に対する国民の信頼確保にあると考えられている。
被害者特定事項を明らかにしない決定は裁判公開の原則との関係で軋轢を生ずるが,同じく憲法には,憲法上の最高の価値として「個人の尊重」(第13条)が規定されている。裁判公開の意義は上記のとおりだが,もしそれが,被害者等の犠牲の下におこなわれているとすれば,その招来するところは,「司法に対する国民の信頼」どころか,「司法に対する国民の不信」ということにもなりかねない。公開の自己目的化は,時として,憲法上の最高の価値の減殺につながる。これでは本末転倒である。
この点,被告人の防御権の保障の如何が気になるところだが,刑訴法第291条第2項には「前条第一項又は第三項の決定があつたときは,前項の起訴状の朗読は,被害者特定事項を明らかにしない方法でこれを行うものとする。この場合においては,検察官は,被告人に起訴状を示さなければならない。」との規定があらたに設けられ,相応の配慮がなされている。
そもそも,被害者特定事項を明らかにしない決定は,裁判所により,強姦罪等の極めて限定された範囲で,被告人等の意見も聴きながら行われる。決定に恣意性が入り込む余地は大きくない。
こうしてみると,具体的な裁判所の決定はともかく,この規定自体に違憲と呼べるような明白な欠陥はないように思われる。
日本国憲法の関連条文
第十三条 すべて国民は,個人として尊重される。生命,自由及び幸福追求に対する国民の権利については,公共の福祉に反しない限り,立法その他の国政の上で,最大の尊重を必要とする。
第三十七条 すべて刑事事件においては,被告人は,公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。
2 刑事被告人は,すべての証人に対して審問する機会を充分に与へられ,又,公費で自己のために強制的手続により証人を求める権利を有する。
3 刑事被告人は,いかなる場合にも,資格を有する弁護人を依頼することができる。被告人が自らこれを依頼することができないときは,国でこれを附する。
第八十二条 裁判の対審及び判決は,公開法廷でこれを行ふ。
2 裁判所が,裁判官の全員一致で,公の秩序又は善良の風俗を害する虞があると決した場合には,対審は,公開しないでこれを行ふことができる。但し,政治犯罪,出版に関する犯罪又はこの憲法第三章で保障する国民の権利が問題となつてゐる事件の対審は,常にこれを公開しなければならない。
刑事訴訟法の関連条文
第二百五十六条 公訴の提起は,起訴状を提出してこれをしなければならない。
2 起訴状には,左の事項を記載しなければならない。
一 被告人の氏名その他被告人を特定するに足りる事項
二 公訴事実
三 罪名
3 公訴事実は,訴因を明示してこれを記載しなければならない。訴因を明示するには,できる限り日時,場所及び方法を以て罪となるべき事実を特定してこれをしなければならない。
4 罪名は,適用すべき罰条を示してこれを記載しなければならない。但し,罰条の記載の誤は,被告人の防禦に実質的な不利益を生ずる虞がない限り,公訴提起の効力に影響を及ぼさない。
5 数個の訴因及び罰条は,予備的に又は択一的にこれを記載することができる。
6 起訴状には,裁判官に事件につき予断を生ぜしめる虞のある書類その他の物を添附し,又はその内容を引用してはならない。
第二百九十条の二 裁判所は,次に掲げる事件を取り扱う場合において,当該事件の被害者等(被害者又は被害者が死亡した場合若しくはその心身に重大な故障がある場合におけるその配偶者,直系の親族若しくは兄弟姉妹をいう。以下同じ。)若しくは当該被害者の法定代理人又はこれらの者から委託を受けた弁護士から申出があるときは,被告人又は弁護人の意見を聴き,相当と認めるときは,被害者特定事項(氏名及び住所その他の当該事件の被害者を特定させることとなる事項をいう。以下同じ。)を公開の法廷で明らかにしない旨の決定をすることができる。
一 刑法第百七十六条 から第百七十八条の二 まで若しくは第百八十一条 の罪,同法第二百二十五条 若しくは第二百二十六条の二第三項 の罪(わいせつ又は結婚の目的に係る部分に限る。以下この号において同じ。),同法第二百二十七条第一項 (第二百二十五条又は第二百二十六条の二第三項の罪を犯した者を幇助する目的に係る部分に限る。)若しくは第三項 (わいせつの目的に係る部分に限る。)若しくは第二百四十一条 の罪又はこれらの罪の未遂罪に係る事件
二 児童福祉法第六十条第一項 の罪若しくは同法第三十四条第一項第九号 に係る同法第六十条第二項 の罪又は児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律第四条 から第八条 までの罪に係る事件
三 前二号に掲げる事件のほか,犯行の態様,被害の状況その他の事情により,被害者特定事項が公開の法廷で明らかにされることにより被害者等の名誉又は社会生活の平穏が著しく害されるおそれがあると認められる事件
2 前項の申出は,あらかじめ,検察官にしなければならない。この場合において,検察官は,意見を付して,これを裁判所に通知するものとする。
3 裁判所は,第一項に定めるもののほか,犯行の態様,被害の状況その他の事情により,被害者特定事項が公開の法廷で明らかにされることにより被害者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏怖させ若しくは困惑させる行為がなされるおそれがあると認められる事件を取り扱う場合において,検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き,相当と認めるときは,被害者特定事項を公開の法廷で明らかにしない旨の決定をすることができる。
4 裁判所は,第一項又は前項の決定をした事件について,被害者特定事項を公開の法廷で明らかにしないことが相当でないと認めるに至つたとき,第三百十二条の規定により罰条が撤回若しくは変更されたため第一項第一号若しくは第二号に掲げる事件に該当しなくなつたとき又は同項第三号に掲げる事件若しくは前項に規定する事件に該当しないと認めるに至つたときは,決定で,第一項又は前項の決定を取り消さなければならない。
第二百九十一条 検察官は,まず,起訴状を朗読しなければならない。
2 前条第一項又は第三項の決定があつたときは,前項の起訴状の朗読は,被害者特定事項を明らかにしない方法でこれを行うものとする。この場合においては,検察官は,被告人に起訴状を示さなければならない。
3 裁判長は,起訴状の朗読が終つた後,被告人に対し,終始沈黙し,又は個々の質問に対し陳述を拒むことができる旨その他裁判所の規則で定める被告人の権利を保護するため必要な事項を告げた上,被告人及び弁護人に対し,被告事件について陳述する機会を与えなければならない。
第二百九十五条 裁判長は,訴訟関係人のする尋問又は陳述が既にした尋問若しくは陳述と重複するとき,又は事件に関係のない事項にわたるときその他相当でないときは,訴訟関係人の本質的な権利を害しない限り,これを制限することができる。訴訟関係人の被告人に対する供述を求める行為についても同様である。
2 裁判長は,証人,鑑定人,通訳人又は翻訳人を尋問する場合において,証人,鑑定人,通訳人若しくは翻訳人若しくはこれらの親族の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏怖させ若しくは困惑させる行為がなされるおそれがあり,これらの者の住居,勤務先その他その通常所在する場所が特定される事項が明らかにされたならば証人,鑑定人,通訳人又は翻訳人が十分な供述をすることができないと認めるときは,当該事項についての尋問を制限することができる。ただし,検察官のする尋問を制限することにより犯罪の証明に重大な支障を生ずるおそれがあるとき,又は被告人若しくは弁護人のする尋問を制限することにより被告人の防御に実質的な不利益を生ずるおそれがあるときは,この限りでない。
3 裁判長は,第二百九十条の二第一項又は第三項の決定があつた場合において,訴訟関係人のする尋問又は陳述が被害者特定事項にわたるときは,これを制限することにより,犯罪の証明に重大な支障を生ずるおそれがある場合又は被告人の防御に実質的な不利益を生ずるおそれがある場合を除き,当該尋問又は陳述を制限することができる。訴訟関係人の被告人に対する供述を求める行為についても,同様とする。
4 裁判所は,前三項の規定による命令を受けた検察官又は弁護士である弁護人がこれに従わなかつた場合には,検察官については当該検察官を指揮監督する権限を有する者に,弁護士である弁護人については当該弁護士の所属する弁護士会又は日本弁護士連合会に通知し,適当な処置をとるべきことを請求することができる。
5 前項の規定による請求を受けた者は,そのとつた処置を裁判所に通知しなければならない。
第三百五条 検察官,被告人又は弁護人の請求により,証拠書類の取調をするについては,裁判長は,その取調を請求した者にこれを朗読させなければならない。但し,裁判長は,自らこれを朗読し,又は陪席の裁判官若しくは裁判所書記にこれを朗読させることができる。
2 裁判所が職権で証拠書類の取調をするについては,裁判長は,自らその書類を朗読し,又は陪席の裁判官若しくは裁判所書記にこれを朗読させなければならない。
3 第二百九十条の二第一項又は第三項の決定があつたときは,前二項の規定による証拠書類の朗読は,被害者特定事項を明らかにしない方法でこれを行うものとする。
4 第百五十七条の四第三項の規定により記録媒体がその一部とされた調書の取調べについては,第一項又は第二項の規定による朗読に代えて,当該記録媒体を再生するものとする。ただし,裁判長は,検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き,相当と認めるときは,当該記録媒体の再生に代えて,当該調書の取調べを請求した者,陪席の裁判官若しくは裁判所書記官に当該調書に記録された供述の内容を告げさせ,又は自らこれを告げることができる。
5 裁判所は,前項の規定により第百五十七条の四第三項に規定する記録媒体を再生する場合において,必要と認めるときは,検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き,第百五十七条の三に規定する措置を採ることができる。
第三百七十七条 左の事由があることを理由として控訴の申立をした場合には,控訴趣意書に,その事由があることの充分な証明をすることができる旨の検察官又は弁護人の保証書を添附しなければならない。
一 法律に従つて判決裁判所を構成しなかつたこと。
二 法令により判決に関与することができない裁判官が判決に関与したこと。
三 審判の公開に関する規定に違反したこと。
第四百五条 高等裁判所がした第一審又は第二審の判決に対しては,左の事由があることを理由として上告の申立をすることができる。
一 憲法の違反があること又は憲法の解釈に誤があること。
二 最高裁判所の判例と相反する判断をしたこと。
三 最高裁判所の判例がない場合に,大審院若しくは上告裁判所たる高等裁判所の判例又はこの法律施行後の控訴裁判所たる高等裁判所の判例と相反する判断をしたこと。
「犯罪被害者等の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律」の関連条文
(被害者等による公判記録の閲覧及び謄写)
第三条 刑事被告事件の係属する裁判所は,第一回の公判期日後当該被告事件の終結までの間において,当該被告事件の被害者等若しくは当該被害者の法定代理人又はこれらの者から委託を受けた弁護士から,当該被告事件の訴訟記録の閲覧又は謄写の申出があるときは,検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き,閲覧又は謄写を求める理由が正当でないと認める場合及び犯罪の性質,審理の状況その他の事情を考慮して閲覧又は謄写をさせることが相当でないと認める場合を除き,申出をした者にその閲覧又は謄写をさせるものとする。
2 裁判所は,前項の規定により謄写をさせる場合において,謄写した訴訟記録の使用目的を制限し,その他適当と認める条件を付することができる。
3 第一項の規定により訴訟記録を閲覧し又は謄写した者は,閲覧又は謄写により知り得た事項を用いるに当たり,不当に関係人の名誉若しくは生活の平穏を害し,又は捜査若しくは公判に支障を生じさせることのないよう注意しなければならない。