法律の周辺

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名目的役員の責任について

2006-01-30 22:48:15 | Weblog
 現行商法では,株式会社は3人以上の取締役を必ず置き(商法第255条),なおかつ,取締役会を設置しなければならないとされている。
しかし,中小株式会社では,この人員を確保することが困難なため,名目的な取締役が少なくないといわれる。
この点,会社法では,株式会社と有限会社の一体化にあたり,取締役会を設置せず,取締役会の員数を1人とすることも認められており(会社法第327条),監査役も必置ではなくなった(同第328条)。人員確保の問題から開放された中小株式会社には,コスト面だけを考えれば,敢えて割高な機関設計をしようというインセンティブは働かないといえる。
しかし,取締役会の有無は,総会に対する株主提案権の内容(会社法第303条)と,また,業務監査権限を有する監査役の有無は,取締役会議事録の閲覧権ほか(会社法第371条第2項,同泰367条第1項・第3項,同泰367条第4項,同426条第1項,同357条,同360条)といったこととも関係する。その意味で,中小株式会社が,一気に身の丈にあった機関設計へと進むかについては,なお,不透明感が残る。

 ところで,判例は,名目的取締役の対第三者責任について,これまで比較的寛容な態度をとってきたといわれる。さて,機関設計の自由化に伴い,判例の態度に変化はあるだろうか。
この問題については,相澤哲氏(法務省大臣官房参事官)が,『旬刊金融法務事情』No1756の「<座談会>新会社法が与える金融実務への影響(下)」の中で,次のように発言されている。これは,出席者の,概略,会社法の下では名目的取締役だったという言い訳が通用する範囲は狭くなるのではないか?,という質問に答えたもの。以下,青字で引用。

相澤  実務において名目的な役員というものを減らしていくかどうか次第だと思いますが,少なくとも減らしていく方向での環境は整えられたと思います。それにもかかわらず名目的な役員が置かれているとなると,少なくとも相応の時期が来れば,名目的な役員にとって不利益な方向で働く可能性があるのではないかと思います。

 相澤氏の発言は一般論を述べたものだが,微視的には,a 名目的取締役の責任については,会社の設立が会社法施行の前か後かで扱いが異なる,b 就任期間は同じでも,10年の任期途中にある名目的取締役と,何期か再任を繰り返している名目的取締役とでは事情は異なる,といった見方も可能のように思われる。どうだろうか。


会社法の関連条文

(株主総会以外の機関の設置)
第三百二十六条 株式会社には,一人又は二人以上の取締役を置かなければならない。
2 株式会社は,定款の定めによって,取締役会,会計参与,監査役,監査役会,会計監査人又は委員会を置くことができる。

(取締役会等の設置義務等)
第三百二十七条 次に掲げる株式会社は,取締役会を置かなければならない。
一 公開会社
二 監査役会設置会社
三 委員会設置会社
2 取締役会設置会社(委員会設置会社を除く。)は,監査役を置かなければならない。ただし,公開会社でない会計参与設置会社については,この限りでない。
3 会計監査人設置会社(委員会設置会社を除く。)は,監査役を置かなければならない。
4 委員会設置会社は,監査役を置いてはならない。
5 委員会設置会社は,会計監査人を置かなければならない。

(大会社における監査役会等の設置義務)
第三百二十八条 大会社(公開会社でないもの及び委員会設置会社を除く。)は,監査役会及び会計監査人を置かなければならない。
2 公開会社でない大会社は,会計監査人を置かなければならない。

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