われわれ人類の祖先がいつから火を使い始めたか、長年の論争対象となっているが、南アフリカ共和国の洞窟内で約100万年前に既に火を使っていたことを示唆する確かな証拠が見つかったとの新しい研究結果が発表された。
論文を発表した研究者によれば、南アのワンダーワーク洞窟で灰と焼いた骨が見つかり、洞窟内でしばしば火を使っていたことがうかがわれるという。
これまで長年の論争の過程では、約150万年前にさかのぼる証拠があると主張する研究者もいるし、もっと早期に火を使っていたかもしれず、それが脳を大きくする進化の一歩だったと論じる研究者もいる。しかし、これはトリッキーな問題だ。たとえ古い時代に火が使われた証拠があっても、これが単なる野火ではないとどうやって結論できるのか、という疑問が残るからだ。ボストン大学のフランセスコ・ベルナ氏は米科学アカデミー紀要に掲載する共同論文で、ワンダーワーク洞窟内で人間の祖先が火を使ったことを示す「かなり有力な証拠」があると述べている。
ある専門家は、この新発見について、近くでこれまで発見されていたほぼ同じ時代の遺物と併せて検討すべきだと述べた。焼かれた骨はワンダーワーク洞窟から遠くないスワートクランズ洞窟でも発見されており、2つの場所での発見は、どちらか一つの場所での発見よりも有力な根拠になるとウィリアムズ・カレッジのアン・スキナー氏は指摘する。同氏は今回の新研究に参加していない。
別の専門家で同じく研究に参加していないオランダ・ライデン大学のウィル・レーブレークス氏は電子メールで、新研究は「確固たる」証拠を提供していないが、われわれの祖先が当時、そこで火を使っていたことを示唆していると語った。
研究論文の執筆者であるトロント大学のマイケル・チェイザン氏は、われわれの祖先は恐らく、火を利用するため、自然に発生した炎から引火したモノを持ち込んだのだろうと述べ、現場にあった石器の道具からみて、この祖先は約200万年前から存在していたホモ・エレクトス(原人)とみられると語った。
科学者たちは火を準備するもの、例えばいろりなど深い溝の跡を発見していない。しかしベルマ氏は、この火が稲妻などの自然の火だった公算はほとんどないと述べた。
同氏によれば、これは、洞窟の内部深くで繰り返し火が使われた証拠があるためだ。そこは洞窟の入口とほぼ100フィート(約30メートル)離れていた。過去数百万年の間に洞窟は変化していたから、火が燃やされた時には入口はもっと離れていたはずだという。これとは対照的に、スワートクランズ洞窟の骨は、自然の火で燃焼したものかもしれず、その後この洞窟に入り込んだ可能性があるという。
また科学者たちは、今回発見されたワンダーワーク洞窟の火は、洞窟内のバットグアノ(コウモリの糞)の自然発火による燃焼だった徴候は全くないと述べた。バットグアノの燃焼は稀にだが自然発生することが記録されている。
ベルナ氏とその同僚たちは、動物の骨が退色しており、加熱された化学反応を示していると述べた。また、洞窟から採取された土の中に微量の灰が発見されており、葉や草、枝などのモノを燃やしたことがうかがえるとしている。さらに石の断片のサンプルには加熱した証拠が発見されたという。
こうした一連の証拠からみて、こうした葉や草、枝などは燃焼したあと、洞窟外部から風や雨水に運ばれて洞窟に流入したのではなく、洞窟内で加熱されたことがわかるという。
火が何に使われたのかは明らかではない。ベルナ氏は、燃えた骨は料理していたことを示唆するが、祖先は肉を生のまま食べ、それを火の中に捨てたかもしれないと指摘した。可能性のある他の利用方法としては、暖房、照明、そして野生動物から身を守ることが挙げられる。
レーブレークス氏とウイットウォーターストランド大学(ヨハネスブルク)のパオラ・ビラ氏はAP通信に対し、今回の新研究は恐らく火の利用を実証するが、確証を得るため、いろりなど火のための準備品の徴候を発見したいと述べた。
両氏は、いずれにせよ今回の研究で、人間の祖先がこれほど昔に火を定期的に使っていたことは示されていないと述べた。両氏は昨年発表の論文で、火のこうした習慣的な利用は40万年前までさかのぼれると論じていた。
(AP通信)