GOODLUCK'S WORLD

<共感>を大切に、一人の男のスタンスをニュース・映画・本・音楽を通して綴っていきたい

「全豪オープンテニス2012」(下)

2012年01月30日 | Weblog
 男子セミファイナルは、ナダル対フェデラーの試合です。二人の試合は、何度見ても特別な試合に思います。まるでサッカーのレアル対バルサのクラシコを彷彿させますが、違うのは二人がお互いを称え合い尊敬し合う特別な関係です。ナダルのフェデラーへ尊敬心は、口では言い表せないほど高貴なものを感じます。そんなフェデラーに勝つためにナダルは必死にハードな練習を積み重ね、2008年、ナダルは初めて世界ランキング1位の座につき、フェデラーが保持してきた世界ランキング1位連続保持の世界最長記録を「237週」で止めたのです。

 この2年、なかなかファイナルに勝ち残れないフェデラーはナダル対策を十分に練ってきたように感じました。第1セットは7-6(5)で競り勝ちます。しかし、両サイドを攻めるフェデラーの攻撃的テニスは、ナダルの奇跡のようなランニングショットの前に徐々にファーストサーブの成功率を弱めていきました。連続2本もダブルフォルトを犯すフェデラーを見たことがありません。素晴らしい試合でしたが、驚異的なナダルのディフェンス力の前にフェデラーの攻撃的戦略は屈したのです。その後は2-6、6-7(5)、4-6。今大会で最高の試合になるだろうと思いました。

 

 この試合を超える壮絶とも云えるとんでもないロングラリーの試合が待っていました。もう一つの男子セミファイナル、ジョコビッチ対マレーの試合です。

 この試合こそ、死闘と呼べる壮絶な試合でした。世界1位ノバク・ジョコビッチと4位アンディ・マレーの24歳同士の対決は、まさしく4時間50分の大激闘となりました。昨年の決勝戦の雪辱を果たすために対ジョコビッチ戦の為のハードな練習と戦略を携えて、マレーは自信に溢れているように感じました。マレーはセンターからほとんど動かず、ストローク戦から王者ジョコビッチを左右に振ってウイナーを決める戦略、この効果は十分あると思えました。頻繁に主導権を握るマレーですが、ジョコビッチのミスは少なく、返ってくるボールは常に厳しいコースをついてきました。体勢がどんなに崩れても、返すショットは深く、スピードがあり、マレーに流れを与えないのです。王者の風格を感じました。
  
 第1セット、マレーは3-6で失いましたが、徐々に盛り返し自分の戦略に自信を得て第2セットは 6-3で勝ち、続く第3セットはタイブレイクにもつれ込んだが7-6で制しました。すでに3時間20分を過ぎていました。マレーに流れが傾いたかに見えました。しかし、昨年あれほどの強さを見せつけたジョコビッチの強さは、ここからが真骨頂でした。第4セットすぐにブレイクされたマレーはこのセットを捨て、ファイナルセット体力を温存したように見えました。ジョコビッチはわずか28分でこのセットを勝ち、勝負は第5セットにもつれ込みました。
 マレーの戦いぶりは、まだ自らの戦略に絶対の自信を持っているかに見えました。第6ゲームをブレークしたジョコビッチが5-2とリードを広げる。今度はマレーが執念の3ゲーム連取で追い付きます。勝負を分けたのは次のゲームでした。ジョコビッチのサービスゲームで3度握ったブレークポイントを生かせなかったです。特に印象に残ったのは0-30で迎えたジョコビッチのサーブ。ファーストをミスしながらも、セカンドで178km/hのサーブで攻めたジョコビッチの驚異的な気迫でした。大きなピンチを乗り越えたあとにはビックチャンスがあることを、ジョコビッチは信じていました。次のゲームをあっさりブレークしてマレーの追撃を押し切りました。

アンディ・マレー    3 6 7 1 5
ノバク・ジョコビッチ  6 3 6 6 7

 

 マレーはジョコビッチの首根っこを掴んだときっと確信したように思います。2012年は始まったばかり。ジョコビッチ・ナダルの2強時代からマレーを加えた3強時代の幕開けになる、そんな試合内容でした。


 男子シングルスファイナルは王者となったジョコビッチ対逆襲を誓うナダル。昨年6回もジョコビッチに負けたナダル、雪辱を決意しての今年最初のグランドスラム。フェデラーに完勝して、自信をつけてのファイナルは、グランドスラム史上最長の5時間53分、予想を遥かに越える今大会最高の試合になりました。そして私が記憶する試合の中で、NO.1の試合、体力と技術とメンタルの死闘と呼ぶにふさわしい試合となりました。

ジョコビッチ  5   6   6   6   7
ナダル     7   4   2   7   5
          (80) (66) (45) (88) (74)  (計:353分)

 これまでのグランドスラム決勝での最長記録は、M・ビランデル(スウェーデン)がI・レンドル(アメリカ)を破った1988年のUSオープンでの4時間54分でしたが、その記録を約1時間も超える壮絶な試合となりました。

 昨年のウィンブルドンからグランドスラム3大会連続で同じ顔合わせとなった決勝、第1セット第5ゲームでブレークに成功したナダルが4-2とリードを奪うが、ジョコビッチが第8ゲームでブレークバックに成功する。しかし、第11ゲームで再びナダルがブレークに成功すると、そのまま第1セットを先取する。

 これまでのグランドスラム134試合で第1セットを先取した試合では1度しか敗戦した経験がないナダルであるが、この日は鍛えてきたファーストサーブが次第に入らなくなっていきました。

 第2セットはディンフェンディング・チャンピオンのジョコビッチが第4ゲームでブレークに成功すると、5-3でサービスゲームのチャンスとなる。続く第9ゲームでナダルがブレークバックに成功したが、第10ゲームでジョコビッチが再びブレークに成功し第2セットを奪取する。

 セットカウント1-1で迎えた第2セット、序盤から3-1とリードを奪ったジョコビッチがサービスキープを続け、第8ゲームをラブゲームでブレーク、そのままナダルを押し切り2セット目を奪う。
 このままジョコビッチのペースで試合が進むと思われた第4セットだが、第8ゲームで0-40からサービスキープに成功したナダルが再び勢いを取り戻すと、タイブレークでも3-5から4ポイントを連取。2セットオールに追いつく。

 このままファイナルセットをナダルが押し切ると私には見えた。第6ゲームでブレークしたナダルが先手を取ったものの、ジョコビッチは、昨年の全米オープンで見せた不敵な笑顔を見せる。続く第7ゲームでジョコビッチがブレークバックし試合は再び拮抗する。しかし、フェデラー戦でみせたナダルのダンウン・ザ・ラインへのショットミス、深く入れようとショットするが、次第に浅くなっていきました。ライン際に構えるジョコビッチに比べ、ナダルのレシーブもだんだんとラインから離れ、最後は1m以上離れてレシーブするようになって行きました。当然返すボールは浅くなり、ジョコビッチの激しい反撃を受けることになりました。これらが明暗を分けたのです。

 

 ゲームカウント5-5で迎えた第11ゲーム、ジョコビッチがこの日7度目のブレークに成功すると、6-5として迎えた第12ゲーム、次にブレークしたのはジョコビッチ。ナダルが一度はブレークポイントを握り、最後まで逆転の望みをつないだが、ナダルの攻撃的テニスもそこまでだった。最後はジョコビッチがフォアハンドでこの日57本目のウィナーを決めてゲームセットとなった。そして、コートの上に大の字になって目を見開き、信じられないような死闘を制した自らの勝利を確信した。

 ナダルは最後まで攻撃を緩めなかった。前日のマレーが見せた第5セット1-6のような攻撃を緩めるセットは一度もなかった。マレーのような無念さもきっとないだろう。あのダウン・ザ・ラインショットが入っていればというショットは何本かあった。入るかは入らないかが勝敗を決めていったのは間違いない。あえて勝敗の分かれ目を云うならば、ジョコビッチのレシーブ力とリターン力がナダルよりわずかに上回っていたように見えた。クレーコートで強いナダル、全仏での逆襲を心から願っている。

 2年連続3回目の優勝を果たしたジョコビッチは、試合後、「われわれは今夜、歴史をつくった。1人しか勝者になれないのが残念」とコメントを残した。今後もこの死闘は間違いなく語り継がれるだろう。私はその歴史をしっかりと脳裏に刻んだ。