「高知ファンクラブ」 の連載記事集1

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鈴木朝夫の「ぷらっとウオーク」 ・・・人間社会もメタボでなければ

2012-12-17 | 鈴木朝夫の「ぷらっとウオーク」

人間社会もメタボでなければ

情報プラットフォーム、No.302、11月号2012、掲載


  今や「メタボ」は誰でも、どこでも使う単語になった。「メタボリック・シンドローム」の短縮形であるが、「メタボリック」や「メタボリズム(metabolism)」の短縮形ではない。メタボリズムは、循環や代謝を意味する生物学の用語である。代謝は、同化作用(アナボリズム、 anabolism) と異化作用(カタボリズム、catabolism) からなる。略称の「メタボ」は、代謝バランスの崩れからくる症候群(シンドローム)であり、高血圧、高脂血症、糖尿病、内臓脂肪型肥満などの生活習慣病を 指している。


  生命は生存・成長に必須の元素を含む食料を栄養源とし、水分、空気、それに太陽光などの外部エネルギーを利用して、体を構成する細胞に必 要な高分子や、生体機能に関わる物質に作り替えている。これが同化作用である。そして、
不要となった老廃物や熱は、呼気、汗、排便などとして 廃棄される。これが異化作用である。同化ではエネルギーが消費され、異化ではエネルギーの放出(拡散)が生ずる。両者がバランスしているのが 理想的な新陳代謝である。生命体は
このバランスの中で、今を生きているのである。同化作用で体内に貯め込む一方の状態が「メタボ」と俗称され ている現象である。


  我々が生活している人類社会も生命体と同じである。現代社会は「メタボ」である。エネルギーと資源を「同化」で大量に消費し、不必要に大 量に貯め込み、「異化」により必要以上に廃棄物として放出している。20世紀はガン細胞のように増殖・成長を続けるアナボリズム文明の時代と 定義できる。「右肩下りの下山の先は」(本誌、No.298、7(2012))で指摘したように、地球上には未開拓の新大陸はもう残されて おらず、石油ピークも過ぎている。これからの21世紀は「死と再生を繰り返すメタボリズム社会」として活力を維持しなければならない。20世 紀的発想の縛りから抜け出す必要がある。生命が細胞の死と機能の再生を繰り返すように、既得権の解消や規制の見直しが常に行われることにな る。


  新宮秀夫は「幸福ということ-エネルギー社会学の視点から」((1998/8)、NHKブックス838)で、佐和隆光の言葉を引用する形 で、「豊かな生活を維持しつつ、資源の大量採取、生産過程での資源の無駄遣い、使用ずみ製品の大量廃棄を回避する循環代謝型(メタボリズム) 文明を築くことが、21世紀を生きる人々に課せられた義務」と述べている。


  鎌田浩毅は「資源が分かればエネルギー問題が見える」((2012/6)、PHP新書808)で、「一万年前に始まったスットク型文明から首尾よく脱 出し、フロー型文明へ軟着陸することを目標とすべき」と述べている。ストック型とは、物質・資本の蓄積を意味し、それが始まった農業革命から 産業革命へと続く文明である。狩猟・採取の時代がフロー型である。


 メタボリズム社会に移行する転機は訪れるのだろうか。「省エネ・省資源」程度で片付く問題ではなく、持続可能な発展やゼロエミッションの標語はナンセンスである。下山の先をどのように思い描くのだろうか。参考になる答を出したのがキューバである。アメリカとは貿易封鎖の中で、ソビエト連邦が 崩壊し、大規模機械化農業に必須の石油と化学肥料が枯渇し、自給自足に、そして深刻な食料不足の状況に陥った。カストロは都市農業革命ともい える形でこの苦境を国民と共に乗り切っている({キューバを見たい}、本誌、No.211、4(2005))。どの国の政治家も経営者も経済 成長戦略を掲げ、民衆も緊縮財政は好まない。困ったことに「メタボ」願望なのである。フロー型社会は無理としても、本当の意味の、本来のメタ ボ社会を創り始めるにはどうすれば良いのだろうか?
 

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鈴木朝夫 s-tomoo@diary.ocn.ne.jp

高知県香美郡土佐山田町植718   Tel 0887-52-5154

 

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