「高知ファンクラブ」 の連載記事集1

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三郎さんの昔話・・・地獄の門(一)

2010-12-31 | 三郎さんの昔話
地獄の門(一)
 
 見た事のない物を見たい、さわった事のない物にさわって見たい、これは人間の本性で、幼児の頃から人の一生持ち続ける好奇心と希望であると思われる。

この世の中では、希望があれば見たいと思う書物や美術の展覧会も、知らぬ彼方此方の名所や雄大な外国や都市も、テレビや映画芝居まで、見たいと思ってなに一つ見ることの出来ないものはない。と思うが、たった一つだけ見ることの出来ない事がある。

それは人々が現世を離れて他界していくあの世とやらである。
聞くところによると極楽あり、地獄あり、天国もあると言うが、一度見てみたいと思うが誰も知らない。それもそのはず、あの世とやらへ行って帰って来た者がないから、聞くこともできない。

そこで目を閉じて心の目で見ることにした。夜寝ることにし、床に入り電灯を消す、真暗いなにも見えない、ただ闇の世界。しかし少し間をもつと、とじた瞼を通して闇のなかで窓の明るさが薄っすらと見えてくる。

真っ暗いタイムトラベルの空洞を何時とも無しに進む。どのくらいたったか時間が無いので計り知れない。

やっと空洞を出たのであろう、闇の明るさがはてしなく広がった。

よく見ると幼児から小学生、青少年に働き盛りや老人に至るあらゆる男女が、色々な出で立ちで空中に点在しているが、此処には色が無いから昔の黒白映画のごとく無声で声もなく静かで、欲も得もないので無表情にただ平然として、皆んな先を競うことも無く、あの世に来た順に、宇宙の中央に偉大に聳える地獄門「天安門か羅生門」に向かって、扇のごとく空中に点のごとくに散らばった老若幼男女の霊が、扇の要め地獄門へいつとも無しのタイムで吸い込まれるように消えてゆくが、後が切れることなくあの世を求めて次から次へと、老いも若きも続いて来る、不思議なこと無の世界。

 





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