極東極楽 ごくとうごくらく

豊饒なセカンドライフを求め大還暦までの旅日記

ここが思案六法

2022年12月07日 | ネオコンバーテック


彦根藩二代当主である井伊直孝公をお寺の門前で手招き雷雨から救っ
たと伝えられる"招き猫"と、井伊軍団のシンボルとも言える赤備え。
(戦国時代の軍団編成の一種で、あらゆる武具を朱塗りにした部隊編
のこと)の兜(かぶと)を合体させて生まれたキャラクタ。愛称「ひ
こにゃん


【今日のひとり鍋ランチ②:自家酸辣麺和風鶏スープ鍋】
エスニックなひとりランチ鍋の開発をスタートさせ3食の試食を終え
た。麺は生饂飩、中華乾麵(市販の「サッポロ一番 塩ら-めん」を
使う)。電子レンジは700Wを使用、準備から完成まで約10分。ただ
し、具材と調味料の準備不足なら15分程度。それでどうか。申し分な
し(時間があればブログ出版もある)!?


【家庭内医薬品使用顛末記:ネオスチグミンメチル硫酸塩

今回は、彼女が使用している非ステロイド系の試用することに。従っ
て炎症を抑制ではなくてピント調整筋に働きピン調節機能を改善が
効能になるが、抗炎症・抗アレルギー・血行促進・抗酸化・栄養補給・
代謝促進機能もある。

フルオロメトロン
Fluorometholone.png   
炎症は感染症から身を守るために必要な機構で、傷を負うと患部が腫
れる。これは、炎症が起こることで白血球などが集まり、血液を介し
細菌が全身を巡らないように制御するからであり、炎症は体にとって
必要な機構。炎症の作用が強すぎる場合、体にとって悪影響が表れ、
いくら感染症から身を守るためであっても、適度な炎症作用が望まし
い。目であれば、眼瞼炎、結膜炎、角膜炎、強膜炎、上強膜炎などが
ある。これらが長く続くと、目に障害が起こる。そこで、薬によって
炎症を鎮める。そのときに有用な薬がステロイド。


ネオスチグミンメチル硫酸塩

Neostigmine Ion V.1.svg

ヒトでは、ネオスチグミンは特に消化管、神経筋接合部に作用して、
AChE阻害作用を示す。神経筋接合部でのアセチルコリンを増加させて、
アセチルコリン受容体で筋弛緩薬との競合的作用により筋弛緩薬の作
用を拮抗させる。フィゾスチグミンのようには血液脳関門を通過し難
く、中枢神経にほぼ移行しないため、フィゾスチグミンとは作用や適
応が若干異なる。 非脱分極性筋弛緩剤の作用の拮抗にネオスチグミ
ンを静脈内注射するにあたっては、緊急時に十分対応できる医療施設
において、ネオスチグミンの作用及び使用法について熟知した医師の
みが使用すること、と添付文書に明記されている。 

 

【完全クローズド太陽光システム事業整備ノート ⑮】
【再エネ革命渦論 76: アフターコロナ時代 275】



クラッド鋼板の曲げ振動で風邪コロナウイルス検知
自然界に広く存在する未利用の運動エネルギー(振動、衝撃など)か
ら電気エネルギーを回収する環境発電が注目されている。『環境工学
研究所 WEEF』が提唱する、『デジタル革命渦論かぶん』に基づく、あらゆ
るモノをインターネットにつなげてデジタル技術を活用しモノのイン
ターネット(IoT)・デジタルトランスフォーメーション(DX)が全
世界に破壊的イノベーションが進行中にあり、IoT・DX用センサの数
は1兆個を超えるともいわれ、それを駆動する電源が大きな問題とな
り、電源のグリーン化(センサの電池レス化)が要望されている。反
面、新型コロナウイルス感染症COVID-19は、病院や介護施設、ライブ
ハウス、飲食店など様々な場所でクラスター感染を発生させ、社会・
経済活動の停滞を引き起こしている。このように、感染症の拡大を踏
まえたウィズコロナ・ポストコロナ社会のあり方を見据え、新たな急
性呼吸器感染症の突発的発生にも対応可能な技術を早期に創成し、安
全・安心な社会・経済活動を維持できる環境構築が喫緊の課題となっ
ている。

12月2日、東北大学らの研究グループは東北特殊鋼株式会社と共同で
逆磁歪効果を示す厚さ0.2mmのFe-Co/Niクラッド鋼板の表面に HCoV-
229E捕捉タンパク質CD13を固相化させる技術の開発に世界に先駆けて
成功したことを公表。また、このFe-Co/Niクラッド鋼板に整流蓄電
回路と無線機を組み合わせ、曲げ振動で情報をワイヤレス送信できる
システムに改良し、クラッド鋼板による風邪コロナウイルス捕捉によ

る共振周波数変化を確認され、これによりクラッド鋼板に風邪コロ
ナウイルスが吸着すると、振動発電量が減少し、情報送信間隔が変化
してウイルスの捕捉感知させることに成功する。


図1 Fe-Co/Niクラッド鋼板の曲げ振動による蓄電とワイヤレス送信


図4.図 4 (a) Fe–Co/Ni クラッド プレートを使用した HCoV-229E
センシング テストのセットアップ。 (b) テスト前の CD13 修正クラ
ッド プレート カンチレバーの写真。 (c) CD13-HCoV-229E 疑似競合
結合アッセイ。 (d) CD13-HCoV-229E 疑似競合結合アッセイ。

【要点】
1.薄くて軽い鉄コバルト/ニッケル(Fe-Co/Ni)クラッド鋼板注1
 開発し、曲げ振動で発生するエネルギーを10 mW/cm3以上の電力に
 変換。
2.曲げ振動で得られた電力で情報を5分に1回送信。永久磁石で
 イアス磁場
注2を印加すると、10秒に1回の情報送信が可能。
3.クラッド鋼板表面へのタンパク質CD13(アミノペプチダーゼN)
 固相化に成功し、曲げ振動を利用して風邪コロナウイルス(HCoV-
 229E)注3の捕捉を確認。
4.荷重の微量な変化を電源フリーでワイヤレス送信するセンシング
 システムに期待。
展望】
1.精度・感度向上のためのさらなる軽量化
2.HCoV-229E捕捉による周波数変化を情報受信時間で評価
3.HCoV-229E気中センシングの原理確立
4.他のウイルス(HCoV-NL63、HCoV-HKU1、HCoV-OC43 やMERS-CoV、
 SARS-CoVなど)に応用
【関連論文】
原 題:Batteryless Wireless Magnetostrictive Fe30Co70/Ni Clad Plate for
  Human Coronavirus 229E Detection
著  者: Daiki Neyama,et al.
掲載誌: Sensors and Actuators A: Physical
DOI: 10.1016/j.sna.2022.114052



カフェ酸が半導体デバイスの性能を向上
電極表面に並ぶことで有機半導体に流す電流を最大で100倍UP

有機発光ダイオード(OLED)や有機太陽電池(OPV)などの有機半導体デ
バイスは、柔軟性に優れ、軽量でしかも低コストで生産できることか
ら、フレキシブルなディスプレイや各種センサー、ICタグなどのIoT
デバイスに使われ、またそれらのデバイスに内蔵される交換不要な電
源への応用が見込まれている反面、有機半導体デバイスが普及するに
伴って、その廃棄量も増えることが予想されいる。使用済み有機半導
体デバイスの廃棄後の環境負荷を下げることを目指し、最近では温和
な条件で分解できる有機半導体の開発や、バイオマス由来の材料を利
用したデバイス基板の研究が報告されている。 でも、コーヒーの成
分を有機半導体に入れることで何でそんなことができるととても不思
議思える。今夜はこの研究成果からそれを読み解いていく。

こうした取り組みと併せて、有機半導体デバイスの性能の向上に重要
である異なる材料が接する界面の制御、特に有機半導体と電極の接合
界面(以下、有機半導体/電極界面)での電荷の注入(移動)の効率
を高める技術の開発が求められています。現在、電荷を流しやすくす
る電極修飾層として、導電性ポリマーや遷移金属酸化物の薄膜層が知
られているが、これらの材料は有機半導体デバイスを埋め立てなどで
廃棄した際に、水生生物へ悪影響を及ぼす可能性がある。また、埋蔵
量に限りがある金属元素を含んでいることから、使用が懸念されてい
る(図1)。そこで、有機半導体/電極界面の電荷の出入りを効率化
し、電極修飾層に応用可能かつ環境負荷の低い材料の探索が望まれて
いる。


図1 有機半導体デバイスの電極修飾層に用いられる従来の材料の課
 題と本研究で着目したカフェ酸。カフェ酸の分子構造と電荷密度分
 布も示した。矢印の方向に永久双極子モーメントを持つ。電荷密度
 分布は、分子上の電荷の偏りを表しており、マイナスに大きければ
 赤、プラスに大きければ青で示す。

【要点】
1.電極表面にカフェ酸の薄膜層を形成することで、有機半導体に流
 れる電流が最大100倍に増加。
2.カフェ酸分子が自発的に向きをそろえて並び、有機半導体への電
 荷の注入を促進。
3.バイオマス由来の有機半導体デバイスの実現に向けた一歩。


【概要】
多くの有機半導体デバイスは、電極基板の上に有機分子の層や電極を
積層して作られる(図1)。デバイスに流れる電流を大きくするには、
電極から有機半導体への電荷の注入を効率化することが重要。電荷の
注入に関する効率化の指標が仕事関数である。大きな永久双極子モー
メントを持った分子で電極表面を修飾すると(電極修飾層)、電極
表面の電位が変わり、仕事関数が変化する。電極の仕事関数を大きく
することで、電極のフェルミ準位(電荷を送り出すエネルギーレベル
)が有機半導体のHOMO(電荷を受け取るエネルギーレベル)に近づ
き、電極から有機半導体への電荷の注入が促進される(図2)。その
結果、有機半導体/電極界面において電流が流れやすくなる。そこ
で研究者たちは、電荷の注入の効率化のため、大きな永久双極子モー
メントを持った分子として、植物が作り出すフェニルプロパノイド
呼ばれる物質群に着目する。


図2.電極修飾層の挿入による有機半導体/電極界面におけるエネル
 ギーダイアグラムの変化(左:電極修飾層なし、右:電極修飾層あ
 り)。HOMOは、正電荷を受け取る有機半導体のエネルギーレベルの
 こと。

ここで、フェニルプロパノイドは、活性酸素を除去する機能(抗酸化
作用)を持ち、植物に普遍的に存在する物質です。フェニルプロパノ
イドの中には4デバイを超える大きな永久双極子モーメントを持つ分
子がある。上図1にその一例であるカフェ酸の分子構造と電荷密度分
布を示します。カフェ酸はビニレン基(-CH=CH-)にカルボキシ基(-
COOH)とカテコール基が結合した構造を持ち、図1中の青の矢印の方向
に沿った永久双極子モーメントを持っている。
このカフェ酸に着目し、真空蒸着法で金の電極にカフェ酸の薄膜層を
形成しました。ケルビンプローブ法で仕事関数を測定した結果 カフ
ェ酸を被覆する前に比べて電極の仕事関数が0.5 eV程度増加すること
を発見(図3(a))。電極の種類が銀、銅、鉄、インジウムスズ酸化物
(ITO)、自然酸化膜付きのシリコン(SiOx)であっても、カフェ酸の効
果により仕事関数は増加。また、スピンコートで薄膜層を形成しても
同様の効果を確認し、カフェ酸の薄膜層が汎用性のある電極修飾層と
して機能することが分かった。赤外反射吸収分光を用いて分子の配向
を調べると、カフェ酸分子が図3(b)のように長軸を傾けて配向する。


図3 (a)カフェ酸を様々な電極に真空蒸着した際の膜厚に対する仕
事関数変化。(b) 赤外反射吸収分光から予測される分子の配向状況。
図中青矢印は、永久双極子モーメントの向き

傾いた分子が永久双極子モーメントをそろえて薄膜を形成した結果、
電極表面の電位が変化し、仕事関数が大きくなったと考えられる。
これは固体表面と結合しやすいカテコール基が、電極表面に優先的に
吸着するためだということも分かり、 さらには、カフェ酸の薄膜層
は、塗布型の有機半導体の薄膜を作製する際に用いられるクロロホル
ムやクロロベンゼンといった有機溶媒には溶けない
ことも発見する。
以上の結果を踏まえ、クロロベンゼンに溶かしたポリ(3―ヘキシル
チオフェン)(P3HT)という有機半導体をカフェ酸で被覆されたITO
基板にスピンコートし、上部電極にアルミニウムを用いた有機半導体
デバイスを作製した(図4(a))。その結果、カフェ酸層を挿入するこ
とで、有機半導体デバイスに流れる電流は、カフェ酸を挟んでいない
場合に比べて最大100倍に増加し、有機半導体デバイスの性能が大き
く向上することを理解できたという(図4(b))。


図4 (a)本研究で作製したP3HTデバイスの構造。(b)カフェ酸層の挿入
による電流密度―電圧特性の変化。

✔有機半導体、太陽電池、燃料電池、蓄電池などの高品位・高付加価
値化には『ネオコンバーテック創業論』の全面展開が具現化する時代
に入ったことを再確認することとなった。今夜はさらにその事例研究
例を掲載していこう。

【展望】

仕事関数(物質表面において、表面から1個の電子を無限遠まで取り
出すのに必要な最小エネルギー)を制御するための材料探索やプロセ
ス開発を実施し、IoT社会を
支える有機半導体デバイスに本研究で提案
した電極修飾技術を応用する
ことを目指す。使用済みデバイスの廃棄
後の環境負荷を極限まで下げるこ
とを目標とし、循環型社会に適合し
たオールバイオマス由来のデバイス作
りに取り組んでいく。

【関連論文】
掲載誌:Advanced Materials Interfaces

論 第:Increasing Electrode Work Function Using a Natural Molecule
著 者:Kouki Akaike, Takuya Hosokai, Yutaro Ono, Ryohei Tsuruta,
      and Yoichi Yamada

【今夜の光熱電変換技術ニューズマラソン】
 高開放電圧の薄膜硫化スズ太陽電池 硫化スズ太陽電池



東北大学の研究グループは、大きなバンドベンディングを伴う硫化ス
ズ界面の追加で、「フェルミ準位
ピンニング」の発生を防ぐことによ
り、より高い開回路電圧を達成した。
※「不純物ドーピングによる硫化スズ薄膜のn型化に成功 ~有害元素
を含まない実用的な薄膜太陽電池の実現に期待~」(2021年12月13日)
https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2021/12/press20211213-03-SnS.htm

 熱力学的限界につながる熱光起電力への新しいアプローチ
 


 【要約】
従来の太陽光発電 (STPV) は、太陽光を調整して効率を高める中間
層に依
存するが、黒体限界 (85.4%) であると長い間理解されてきた
STPV
の熱力学的効率限界は、太陽エネルギー収集の究極の効率限界
であるランツベルク限界 (93.3%) よりもはるかに低い。 この研究で
は、システムの相互関係から生じる中間層の太陽への必然的なバック
エミッションによって効率の赤字が引き起こされることを示す。 こ
こでは、非相反放射特性を持つ中間層を利用する非相反太陽熱光起電
力 (NSTPV) を提案。 このような非相反中間層は、太陽への後方放
射を実質的に抑制し、より多くの光子フラックスをセルに向けて注ぎ
込める。 この改善により、NSTPV システムはランツベルクの限界に
到達でき、単接合太陽電池を備えた実用的なNSTPVシステムも大幅
な効率向上が経験できることを示す。

【関連論文】
原 題:Thermodynamic limits for simultaneous energy harvesting from
      the hot sun and cold outer space
掲載誌: Light: Science & Applications volume 9, Article number: 68 (2020)
DOI  : https://doi.org/10.1038/s41377-020-0296-x

図2 同時エネルギー ハーベスティングの多色限界


a.正の照明条件下で動作する多接合セルの回路図。 太陽からのエネ
ルギー収集の多色限界は、無限の数の細胞で達成される。 b.負の照
明条件下で動作する多接合セルの概略図。 宇宙からのエネルギー収
集の多色限界は、無数の細胞で達成される。 c.放射冷却と組み合わ
せた正の照明条件下で動作する多接合セルの概略図。 セルは周囲環
境から断熱されており、温度は放射熱交換によって純粋に決定され、
平衡温度は 220 K. d 太陽熱と組み合わせた負の照明条件下で動作す
る多接合セルの概略図. セルは周囲環境から断熱されており、温度は
放射熱交換によって純粋に決定される。平衡温度は 2513 K 。e 正の
照明と負の照明の両方を利用する複合多接合システムの概略図. シス
テムは300 Kに維持される。
f正の照明と負の照明の両方を利用する複
合多接合システムの概略図。 システムは周囲環境から断熱されており、
温度は放射熱交換によって純粋に決定され、平衡温度は 307°K 。 

  
 
中世期最大の詩人のひとりであり、学問と識見とで当代に数すくない
実朝 の心を訪れているのは まるで支えのない奈落のうえに、一枚の
布をおいて坐っているような境涯への覚醒であった。本書は、中世初
の特異な武家社会の統領の位置にすえられて、少年のうちからいやお
うなくじぶんの<死の瞬間>をおもい描かねばならなかった実朝の詩的
思想をあきらかにした傑作批評。

【目次】
1 実朝的なもの
2 制度としての実朝
3 頼家という鏡
4 祭祀の長者
5 実朝の不可解さ
6 実朝伝説
7 実朝における古歌
8 〈古今的〉なもの
9 『古今集』以後
10.〈新古今的〉なもの
11 〈事実〉の思想
実朝における古歌 補遣
実朝年譜
【著者略歴】 吉本隆明(1924-2012年)は、東京生まれ。東京工業大
学電気化学科卒業。詩人・評論家。戦後日本の言論界を長きにわたり
リードし、「戦後最大の思想家」「思想界の巨人」などと称される。
おもな著書に『言語にとって美とはなにか』『共同幻想論』『心的現
象論』『マス・イメージ論』『ハイ・イメージ論』『宮沢賢治』『夏
目漱石を読む』『最後の親鸞』『アフリカ的段階について』『背景の
記憶』などがある。
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 Ⅶ 実朝における古歌


  この畝火山の歌のように完全な〈叙景〉であること、そうでな
 ければ完全な〈叙心〉であることである。たとえば大言の仁徳が、
 髪長ヒメを得て詠んだとされる物語の歌

   道の後 古波陀娘子を
   雷のごと 聞えしかども 相枕まく

  また、仁徳が妻に会いたくて口子の臣を使いにやったとき、妻
 が会うのを避けて日子の臣をはぐらかしたとき、仁徳の妻につか
 えていた口子の臣の妹ロヒメが詠んだ物語の歌

   山城の 筒本の宮に もの申す
   吾が兄のきみは 涙ぐましも

  また、置目の考姐が年老いたので故郷へ隠退したいと顕でだの
 に、顕宗が詠んだ物語の歌

   置目もや 淡海の置目 明日よりは
   み山隠りて 見えずかもあらむ

  これが発祥のあたりで、〈和歌〉形式によって〈叙心〉をうた
 ったときの精いっぱいの表現であった。精いっぱいというのは、
 この詩形式では、実質的には〈涙ぐましい〉とかくおまえのすが
 たは見えなくなってしまうだろう〉としか、〈叙心〉としては云
 えていないということである。
  このことは逆にいえば、〈和歌〉形式の詩的表現が、完全な叙
 景であるばあいにも、ある事柄の〈暗号〉でありうること、また、
  〈叙心〉(思想をのべること)であるときには、きわめて単純な
  ことしか述べえないことに、本質的な特徴をおいた詩形式である
  ことに帰する。この〈和歌〉形式の詩的表現が、発生の初旅でも
  った本質的な特徴は、この詩形式に独特な迷路と独特な展開の仕
  方をあたえたといってよい。
   まず、〈和歌〉形式の展開の仕方のひとつの特徴は、〈万葉東
  歌〉の古俗的な表現にすぐとらえることができる。ここで古俗的
  という意味は、時代的に古いかどうかということではなく、詩的
  表現として古俗的ということである。
   
そのもっとも鮮やかな特徴のひとつは、上旬または下旬の〈叙
  景〉を、まったく無意味化することによって、下旬または上旬と
  の〈俯き合い〉にしてしまうことである。

      伊豆の海に立つ白波のありつつも
      つぎなむものを乱れしめめや

    この上旬の叙景には〈意味〉がない。ただこの叙景によってお
  びき出される〈白波がうちつづくようにつづくべき自分たちの恋
  を乱されるようなことがあってはならぬ〉ということにだけ、こ
  の詩の意味がある。

      足柄の箱根の山に粟播きて
      実とはなれるをあはなくもあやし

      筑波嶺のをてもこてもに守部すゑ
      母い守れども魂ぞあひにける

    これらでも一首の前半には〈意味〉はない。
    はじめのものでは〈二人の恋が実っているのに逢わないのは悲
    しい〉というだけであり、二首目では〈母親が二人の仲を監視
  していても二人の心はいつも通いあっている〉というだけで、
  〈足柄の箱根の山に粟を播いて〉や〈筑波嶺のあちらこちらに
  砦をまもるための兵士たちが配置されている〉という上旬の景
  物描写は、一首の詩的意味には関係のないものである。

    吾が背子を大和へ遣りて待つしたす
    足柄山の杉の本の開か
  
   わが夫を大和へ旅立たせて待つこと久しい〉という上旬が、
  一首の意味で〈足柄山の杉の木の間にちょぼちょぼ生えている
  松のように心細く間遠なことだ〉というのは、もちろん推量に
  よってつながるだけである。これは〈和歌〉形式の宿命的な展
  開の仕方であり、また、そこにこの形式の独自注があるといっ
  てよい。
   時間的前後を手易くいうことはできないが、この東歌がもつ
  空間的意義は、〈和歌〉形式の展開の経路からみれば、きわめ
  て発生のあたりに近いとみてよいとおもわれる。『万葉集』の
  なかに、おお手をふってあらわれている類似の手法は、これよ
  りもやや高度なものとみかされる。

    鎌倉のみこしの崎の岩崩の
    君が悔ゆべき心は持たじ(『万葉集』巻14・3365 東歌)

    足かりの刀比の峡地に出づる湯の
    よにも絶よらに子らが言はなくに(『万葉集』巻14.3368 東歌)

      余同車の、大作宿祢家持に与ふる歌二首(のうち)
    あしひきの山に生ひたる菅の根の
    ねもころ見まく欲りし君かも (『万葉集』巻4・580)
  
      弓削の皇子の、吉野に遊しし時の御歌一首
    滝の上の三船の山に居る雲の
    常にあらむとわが念はなくに  (『万葉集』巻3・242)
 
      十市の皇女の、伊勢の神宮に参赴きたまひし時、波
      多の損山の臓を見て吹哭の刀自の作れる歌              
    河上のゆつ磐群に草生さず         
    常にもがもな常処女にて        (『万葉集』巻1・13)

    辛人の衣染むとふ紫の
    情に染みて念はゆるかも(『万葉集』巻4・569 
                                            大典麻田連陽春)
     山部宿祢赤人の歌六首(のうち)
    阿倍の局部の住む石に寄する浪
    間なくこのごろ大和し念ほゆ       (『万葉集』巻359)

           鏡の王女の、御歌に和へ奉れる一首
        秋山の樹の下がくり逝く水の
     吾こそ益さめ念ほすよりは       (『万葉集』巻2・92)

    これらの表現では、上旬は、下旬にある一首の〈心〉を誘導す
  るための〈暗喩〉としてつかわれている。そのかぎりでは、すで
  に無意味な叙景とはいえない。ただ詩の心棒である下旬に〈含み〉
  をそえるものとして不可欠のものとなっている。たぶん、ここま
  できて〈和歌〉の形式は詩的表現として完成されたとみてよい。
  ここまでくれば、もうよみ代えはそれなりにできないような、強
  固な〈意味〉をもつにいたっている。もちろん、これらの表現で
  も上旬の叙景には詩の言葉として生きた意味はない。だがすでに、
  下旬にある詩の〈心〉へ接続しようとする意識が働いている。と
  いうことは、一個人の作者を想定しなければならないし、すでに
  音声として発する言葉の意識の遺制はなくなって、書き言葉の意
  識が前面にでてきていることを語っている。一個人が書き言葉の
  意識で詠んだとすれば、その段階では、べつの読み方に理解をか
  えることはできない。そこで上旬の叙景は、いねば〈喩〉として
  の役割をもってぴたりとはめこまれている。〈喩〉が巧みである
  か、そうでないかは作品の出来栄えということにかかわるが、現
  実の恋愛が成就するかどうかとはかかわることはない。しかし、
  さきの東歌では、上旬または下旬に適切な〈響き合い〉をつけら
  れるかどうかは、じかに掛け合いの相手が、どれだけ恋愛の〈心〉
 を理解しているかの尺度となりえたので、かりにこういう歌垣の
 場面を想像すれば、よき〈響き合い〉をつけられたものは、相手
 の〈心〉を深くしったよき恋人であるとみなされたのである。

                                   Ⅶ 実朝における古歌
                           筑摩書房刊
                         この項つづく
  風蕭々と碧い時代
 


Jhon Lennon   Imagine

 

 

 

 

 

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