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大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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日々の恐怖 4月3日 ベビーカー

2013-04-03 19:27:00 | B,日々の恐怖






   日々の恐怖 4月3日 ベビーカー






 Sさんはベビーカーが苦手だった。
特に電車だ。
うっかり乗り合わせてしまおうものなら、大体が嫌な思いをする。

「 平気で足にぶつけてくるし、いくらスペースをとろうと遠慮がない。
それが当然だという顔をするんです。
一言で言えば厚かましいんです。」

 Sさんは以前、うっかりベビーカーを蹴ってしまい母親から三駅の間睨まれたことがある。

「 子供は乗っていないどころか、ギャーギャー座席で騒いでいるっていうのに。
あれは何ですかね、本人はマナーを守らなくてもいい権利を手に入れたって思うんですかね。」

 その日、新宿行きの小田急線に乗り合わせた若い母親もそう見えた。
電車から降りる人よりも先に乗ろうとする。
後ろで乗り込むのを待っている人間がいるのに、ちんたら時間をかける。

「 その車両だと新宿駅の階段がすぐなんで、変えたくなかったんです。
それに、そんなに混んでなかったからまぁいいやって思って・・。」

 女は当然のように端の席を譲ってもらい、座るやいなや携帯をいじり始めた。
ベビーカーは脇の出入り口付近に放置したままだ。
気配りも感謝の言葉もなかった。
席を譲った高齢の女性は気分を害したのか、隣の車両に足早に移動していった。
 Sさんは非難めいた視線を送ったが若い母親は俯いていて気付かない。
胸の中でため息をついて文庫本を取り出した。

「 赤ちゃんが視界に入ったんです。
別にいちいち他人の子なんて見ませんが、何かが間違っていたんです。」

 再度見返し、Sさんは息を呑んだ。
赤ちゃんはすやすや眠っていた。
なかなか可愛らしい寝顔だった。
洋服に貼り付けてあるA4紙ほどの殴り書きが問題だった。

「 この子の父親探しています。
名前は判らんけど鼻の脇にホクロのある日に焼けた男です。
年齢は二十歳ぐらいです。
その男はお金も払わず精子だけを置いて逃げ去った。
一生許すことはできませんが償いはさせたいです。
みなさん見かけたら絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に連絡ください。
電話番号→090-×××~。」

子供が描いたような汚いイラストも貼り付けてあった。
席を譲った女性は、これを目にしたので逃げたのだと気づいた。
 新宿駅につくまで、なるだけそちらを見ないようにしていたが無理だった。

「 どうしても見ちゃうんです。
母親は、どんな顔しているんだろうって・・。」

 新宿駅に着く前に母親の顔は見れた。
どこにでいる、きっと電車を降りて数秒後には忘れている容姿だった。
 母親はSさんの視線に気づき、穴があくほど見つめ返してきた。
慌てて視線を外し、蛇に睨まれた蛙のようにじっとしていると新宿のホームについた。
降りようとするSさんを言葉が追いかけてきた。

「 見かけたら連絡してくださいね。
絶対ですよ、あなたの顔、覚えましたから。
絶対ですよ、絶対ですよ。」

振り向くことはできなかった。
代わりにその時間の、その車両に乗ることは二度としないことを決意した。
Sさんはそれ以来、ゴキブリやクモと同じレベルでベビーカーそのものが嫌いになった。


















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日々の恐怖 4月2日 骨董屋

2013-04-02 19:32:13 | B,日々の恐怖





   日々の恐怖 4月2日 骨董屋





 私の母の知人Aさんが体験した話です。
Aさんは友人のJさんと、ある街へと観光へ行った。
坂の多いその街で二人で散策中、こじんまりとした骨董屋を見つけたので立ち寄ってみた。
店内は古めかしい品物が所狭しと陳列されていて埃っぽい。
 一通り物品を眺めて、骨董屋を後にした。
その後、しばらくして、AさんはJさんの様子のおかしなことに気がついた。
心配となり、訳をたずねると、

「 骨董屋から子供のような者がついて来ている。
しかし、そのうちいなくなると思うから大丈夫。」

そう、Jさんは答えた。
普段通りの口調だった。
 Aさんは、Jさんに霊感のあることを昔から知っていた。
また、このような話題には深く立ち入らぬほうが賢明なことも、感覚的に分かっていた。
そこで、

「 そうなんだ・・。」

と、話を流したという。
 その後、Jさんからも、骨董屋やそこからついて来た者の話題が上がる事もなく、直後の不安気な空気も徐々に薄まり二人は通常通りの観光にいそしんだ。


 夜は、街の旅館のお世話となった。
夕食と風呂の後、二人はすぐに寝床についた。
疲れていたのか、双方ともすぐに寝入ったという。
 Aさんが目を覚ましたのは、午前2時を過ぎた頃だった。
原因は、Jさんの唸り声。
隣を見ると、苦悶の表情を浮かべるJさんの姿があった。
その様子があまりにも苦しそうだったので、Aさんは微睡みから一気に目が覚め、Jさんの肩に触れた。
 Aさんは、寝汗を掻き熱っぽい。
それで、起こそうとして肩を揺すった。
しかし、いくら起こそうとしても、Jさんは辛そうに顔をしかめたまま、うなされ続けている。
それでも、AさんはJさんの身体を必死に揺すった。
 そうこうしている最中、Aさんは自室から妙な音が響いていることに気付いた。
Jさんを揺するのをやめ、音のする方向を見る。
すると、窓に据え付けてあるカーテンが揺れていた。
 大きくなびいて、ストンと落ちる。
再び、大きくなびいて、ストンと落ちる。
カーテンは、それを幾度と無く繰り返していた。
そして、その揺れに合わせるかのように音が部屋中に響いてくる。

ひゅーーーーーっ、ぱんっ!
ひゅーーーーーっ、ぱんっ!
ひゅーーーーーっ、ぱんっ!

それは、花火を打ち上げる際の音にそっくりだったという。
音に気を取られながら、何がカーテンを動かしているのか確認しようとした。

“ もしかすると、風が吹き込んで来ているだけかもしれない。”

そんなことを考えていたAさんは、揺れ動くカーテンの裏に何かがいるのを認めた。
 子供だった。
カーテンが大きくたわむと、その間から子供の姿が見えるのだ。
直感的に男の子だと分かった。
 その男の子を確認しようとAさんは目を凝らした。
カーテンの隙間から男の子の顔が覗く。
Aさんの認めた男の子の相貌は、酷く崩れていた。
焼けただれているのか、腐敗しているのかは分からない。
しかし、それが原型を留めぬほどに朽ち果てていることは確かだった。
 しかし、不思議と怖い感じはしなかったという。
それとは逆に、強烈な悲哀がAさんに流入してきた。
Aさんは気付いたら、わんわんと泣いていた。
何故、こんなにも悲しいのかわからなかった。


 どのくらい時間が経ったのだろうか、ふと我に返ると例の音もカーテンの揺れも男の子もいなくなっていた。
いつの間に起きたのかJさんが、窓を遠い目で見ながら言った。

「 帰って行ったよ。」

Aさんは、あの男の子が何だったのか未だに分からないそうだ。
Jさんにも、結局聞けず仕舞いだったという。













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日々の恐怖 4月1日 迷子

2013-04-01 19:29:05 | B,日々の恐怖





     日々の恐怖 4月1日 迷子





 何年か前、母親が緊急入院して手術を受けた。
手術は成功したのだが、術後の経過が悪く、家族が交代で一日に何度も病院を往復しなければならなかった。
わたしも、一日に一度は病院に通う事になり、これはその時に体験した気味の悪い話だ。

 母の入院していたのは地方の大きな総合病院で、建て替えたばかりとうこともあり、まだ新しく、採光のいい近代的な造りだった。
母の病室は4階にあり、わたしはいつも病院の中央にあるエレベーターを使っていた。
 他の人間と滅多に乗り合わせることのないそのエレベーターに乗ると、壁には院内の見取り図が書いてある。
暇を持て余すと、わたしはいつもその見取り図を眺めていた。
2階に売店、検査室、人工透析室、3階は婦人科、小児科の入院病棟、といった具合に、その病院のどこに何かあるのかすっかり覚えてしまったある日のこと。
 母の病室に行こうと一階でエレベーターを待っていると、地下一階からエレベーターが昇ってきた。
この病院の地下はスタッフや医師の研究室、図書館、霊安室があるので、地下からあがってくるエレベーターに乗っているのは医師か事務員の人と決まっていて、わたしはてっきりそういう人たちが乗っているとばかり思っていた。
 予想に反し、エレベーターにひとりで立っていたのは、中年太りでメガネをかけた60代くらいの普通の女性だった。
お見舞客にしか見えないその人は、わたしをまっすぐ見つめたままエレベーターに乗っている。
不思議に思いながらも、わたしはエレベーターに乗った。

 エレベーターが4階に到着する直前のことだった。
背後の女性が急に話しかけてきた。
彼女はわたしに地下1階まで一緒に行って欲しいと頼むのだ。

「 知り合いが地下の霊安室で迷ってしまったらしく、探しに行きたいのですが不安なので一緒に来てもらえませんか?」

そんなことを言う。

 4階に着いてエレベーターのドアが開いたので、わたしはもちろん断わった。
病院の関係者か看護婦さんにでも頼んで下さいと断ったのに、女性は「どうしてもお願いします。」としつこく頭を下げる。
なんだか断わりずらくなって、わたしは一緒に地下へ降りて行く事になった。

 地下に着くと、研究室や図書室のドアが並んでいて、それらの部屋の奥に霊安室へ続く廊下があった。
曲がり角の多いその廊下には、他にも倉庫や立ち入り禁止のプレートが掲げられたドアがいくつもあり、確かに迷子になりそうなほど入り組んでいた。
 5つほど角を曲がると、霊安室に突き当たった。
その廊下には男の人が一人立っていて、わたしの顔をきょとんとした目つきで見ていた。
わたしはてっきり、その男性が迷子になった知り合いかと思い、お知り合いが見つかって良かったですね、そう言いながら後ろをついて来たハズの女性を振り向くと、中年太りの女性がどこにもいない。 
変だなと思いながら廊下を少し戻ってみたが、人っこひとり見当たらなかった。
 しかたなく霊安室の廊下まで行くと、さっきの男の人が話しかけてきた。

「 あなたが霊安室で迷子になった方ですか?」

思いがけずそんなことを訊かれ、わたしはびっくりした。
 迷子になったのはそっちの方でしょうと言いたかったが、ここに来た事情を説明すると、その男性も同じようにメガネの女性から「霊安室で迷ってしまった知り合いを探して欲しいと頼まれた。」と答えた。
 薄気味悪くなって、その男性と一緒にエレベーターまで戻ったときだ。
エレベーターがスッと降りてきて、ドアが開き、メガネの女性が別の人を連れて乗っている。
 わたしたちがエレベーターに乗ると、彼女は連れと一緒にそこで降り霊安室へ続く廊下の角に消えた。
まるでわたしたちが見えていないように、メガネの女性はこちらには見向きもしなかった。

「 なんなんでしょうね、あの人は・・・。」

霊安室の廊下で会った男性がそんな風につぶやいたが、それ以上言葉は続かなかった。
わたしは遭遇した出来事を深く考えるのが怖かった。
















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