爺さんが叫んだ。
「 うお~っ、調子が出て来たぞォ~!
そうじゃ!
婆さん、マイク、マイク!
グローブボックスの中じゃ!」
「 あいよ、爺さん!」
“ ガチャッ、ゴソゴソ・・・。”
「 あった、あった。」
「 じゃ、プラグをそこに差し込んで・・・。」
「 差し込んだよ。」
「 ほら、そこのボリュームを最大にして・・・・。」
「 分かった。
最大っと・・・・。」
“ キュ、ボボボボボ、ボコッ、ボコ、ボコッ!!!”
俺は、あまりの音の大きさにビックリして振り返った。
「 うわっ、何だ、これは!」
俺は、今、気が付いた。
運転席の屋根の上にスピーカーが取り付けてある。
そのスピーカーから、大音量でマイクを叩く音が流れているのだ。
“ そうか・・・・・・。
この軽トラック、ゴミの回収車だったものを、中古で買ったんだ。
屋根にスピーカーが付いている。
・・・・・・・・。
とすると、荷台の俺はゴミか・・・・。”
俺は複雑な気分になった。
続いて爺さんの声が響く。
「 ピキィ~~ン、マイクテスト、マイクテスト。
本日は晴天なり、本日は晴天なり。」
「 爺さんの渋い声、痺れるわァ~~。」
「 そうじゃろ、そうじゃろ。
よ~し、準備は出来た。
歌うぞォ~~!」
「 あいよ、爺さん!」
婆さんがマイクを持ち、爺さんと婆さんが頬を寄せ合って歌い始める。
爺さんが婆さんの後ろに左腕をまわした。
だから、爺さんは右手一本の片手ハンドルだ。
それにも関わらず、軽トラックのスピードはさらに上がる。
“ キュッ、キュッ、キュッ、ズズズズッ!”
軽トラックは横滑りしながら走っている。
“ うう、運転、怖い・・・・・。
・・・・・・・・・。
それにしても、俺は、一体、何処に連れて行かれようとしているのだろう
か・・・?
この軽トラック、山を登り始めたぞ・・・・・。”
俺の不安を他所に、軽トラックは川に沿った曲がりくねった真っ暗な山道をドンドン登って行く。
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