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日々の恐怖 6月18日 キャスター付きベッド

2014-06-18 18:16:51 | B,日々の恐怖


 日々の恐怖 6月18日 キャスター付きベッド


 友人の介護士が、同僚の女性介護士Mさんから聞いた話しだそうだ。
この話の舞台となるMさんが以前勤めていたという施設だが、群馬県に実在する営業中の老人ホームであるため名前を伏せさせていただく事をご容赦願いたい。
 Mさんがその施設に勤め始めて2年程の事だった。
その頃入居していた、夜間徘徊のある重度の認知症の女性Sさんが亡くなったという。
夜間徘徊と一口に言っても、個人個人で違いはあるが、Sさんの場合、必ず深夜には廊下へ出て、どこへ行くでもなく彷徨っていたようだ。
 Sさんが亡くなった晩、ちょうどMさんは夜勤として老人ホームで勤務を行っていたのだが、その晩に限ってなぜかSさんの姿は廊下にはなかった。
ほとんど習慣化したSさんの深夜散歩が見えず、Mさんは妙な不安を感じ、Sさんの居室へと様子を見に行く事にした。
 MさんがSさんの居室へ近づいた時だった。
するりと、音もなく居室の引き戸が開いたのだ。

“ あ、もしかしてSさんかな・・・?”

そう思い、Mさんが声を掛けようとした時だった。
居室から顔を覗かせたものに、Mさんは腰を抜かしそうになった。
 それはキャスター付きのベッドだった。
Mさんをさらに驚かせたのは、そろりそろりとその姿を廊下へと出て来るベッドの上には、Sさんが就寝時のままの姿で横たわっていたからだった。
 まず、ベッドのキャスターは常日頃ストッパーがかけてある為、動き出すような事は絶対にない。
それ以前に、居室自体が傾いてでもいなければ、スットパーが外れていたにしてもベッドが勝手に動くはずなどなかった。
それなのに、Mさんが唖然と見つめるその目の前で、まるで誰かがベッドを押しているかのように廊下へ出て、どんどんと廊下を進んで行ってしまうのだ。
 さすがのMさんも、たまらずにもう一名の夜勤職員に泣きついたそうだ。
二人でSさんのベッドの行方を探すと、居室前の廊下から一つ曲がった何も無い廊下にSさんのベッドはぽつねんと止められていた。
 気味が悪いのは当然二人共だが、大切な利用者を寒い廊下に放り出しておくわけにもいかず、えっちらおっちらSさんのベッドを居室へと戻したのだが、居室でSさんの状態を確認した夜勤職員は、Sさんが既に冷たくなっている事に気付いたのだそうだ。
 その後わかった事だが、Sさんはどうやら就寝直後には亡くなっていたらしい。
何故ベッドが勝手に動き出したのか、それはさすがに謎のままだ。












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