日々の恐怖 9月2日 東京都板橋区(3)
以来、老婆の霊は出なくなった・・・・・、わけではなかった。
相変わらず、老婆の霊は出た。
しかし、佐藤さんがみかん箱に毎日お茶を置き、ご飯を炊いたら一膳のせ、を繰り返しているうち、1ヶ月ほど経ったら老婆の霊は、痩せこけた恨めしい姿から、ふくよかな微笑みをたたえた表情になっていった。
それでも、やっぱり佐藤さんにだけは見えなかったらしい。
やがて親父たち3人は就職試験を受け、それぞれが望む職に就き、引っ越す日が来た。
遠方に住む大家さんに話をすると、親父たちが引っ越したらその家は取り壊してしまう予定だから、特に大掃除などはしなくていい、という。
それでも2年間お世話になった部屋だからと、最終日それなりに掃除を済ませると、もう夜中になっていた。
3人が最終電車に間に合うようにと玄関を出て、最後に揃って振り返ると、佐藤さんが、
「 あっ!」
と声を出した。
「 お前らが言っていたおばあさんって、あの人か・・・?」
“ やっと佐藤にも見えたか!”
と、親父と鈴木さんも見たが、おばあさんはどこにも見当たらない。
「 ほら、あそこ。
俺の部屋で手を振ってるよ。
ありがとう、おばあちゃん!」
そして、続いて親父と鈴木さんが見たのは、家の屋根から、
“ スゥ~。”
と上っていく人魂だった。
人魂は、佐藤さんには見えなかったのが不思議だったそうだ。
今から30年前、東京都板橋区でのお話でした。
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