日々の恐怖 10月22日 古い電車
小学校低学年の頃だった。
家の近所に市電、つまりちんちん電車が一両捨てられていた。
原っぱの一角に、錆びだらけで放置された車両だ。
今考えてみればちょっと薄気味悪いが、当時の子供たちにはかっこうの遊び場だった。
子供のよく作る秘密基地、この車両も当然ながら秘密基地化していた。
その日、私はひとりで秘密基地で遊んでいた。
いつものメンバーがほかで遊んでいることは知っていたが、なぜか猛烈にここに来たくなった。
ひとりということで妄想全開で遊んでいると、急にひとりの女の子がはいってきた。
同じくらいの歳の子だが、見たことのない子だった。
そして入ってくるなり、こう言った。
「 あっ、ほんとにいた!」
普通、この手の話だとこの女の子が実は・・、ってなことになるのだが、昨日引っ越してきたばかりの生身の女の子だった。
彼女は続けてこんなことを言った。
「 昨日夢を見たの。
きれいな女のひとが、古い電車を見つけることができたら友達ができる、って言う夢。」
夢を信じ、来たばかりで右も左もわからない街で、電車を探してまわったそうだ、そんなものがあるかどうかもわからないのに。
でも、原っぱでほんとうに電車を見つけ、ほんとうに同い年の私を見つけたのだという。
「 友達になってくれるよね。」
不思議な出会いであるが、断る理由はなかった。
彼女とは現在も付き合いがある。
と言うか、今、私の嫁になってます。
童話・恐怖小説・写真絵画MAINページに戻る。
大峰正楓の童話・恐怖小説・写真絵画MAINページ