日刊イオ

月刊イオがおくる日刊編集後記

「風吹く良き日」

2011-06-29 09:00:27 | (K)のブログ

 先日、「風吹く良き日」という1980年に作られた韓国映画を観てきました。主演は韓国の「国民的俳優」と呼ばれるアン・ソンギさん。

  実はこの映画、30年ほど前に観ています。池袋の西武百貨店の上にスタジオ200というホールがあり、定期的に韓国映画の上映会をやっていました。記憶があいまいですが、「風吹く良き日」もたぶんそこで上演されていて、「すごくいい映画だ」という評判を聞いたので観にいったのだと思います。
 当時は、韓国の映画はほとんど日本に入ってきていませんでした。韓国映画が上映されるということが珍しかった頃です。

  当時は、「風吹く良き日」が韓国映画のなかでどういう位置づけの作品かも知らず、アン・ソンギという俳優も知りませんでした。

 30年も前に観たから、内容もほとんど忘れていたのですが、改めて観ると、当時、韓国の社会矛盾をこれだけストレートに描いていたのかと驚かされました。

 これはちょっと自慢ですが、何年か前、俳優のアン・ソンギさんが日本に来た際に、会って話をする機会がありました。 非常に温和な方で、韓国映画についていろいろと話をお聞きしたのですが、「風吹く良き日」についても語ってました。

 私が「風吹く良き日」についてあれこれ書くよりも、そのときアン・ソンギさんが語ってくれた内容を紹介したほうが良いと思います。アン・ソンギさんはだいたい次のようなことを語ってくれました。

 ※  ※  ※
 私が俳優業を再開させた70年代後半は、軍事政権の時代で韓国映画界にとっても非常に厳しい時期でした。映画に対する検閲が厳しく、作品を通して言いたいことは言えないし、問題提起をすることも難しい状況でした。ある映画は、全体の3分の2が削除・修正を強いられ、内容がまったく変わってしまうということもありました。復帰したときに、俳優を一生の仕事としてやろうと志をもっていましたが、内容がまったく変えられてしまう、作りたいものが作れないならやっても仕方がないという気持ちにもなったものです。

  朴正煕大統領が射殺された後、変化が起こりました。まだまだ厳しい状況下で、風刺や迂回的な表現方法ではありましたが、少しずつ言いたいことが言えるようになってきました。

 韓国映画に大きな転換点をもたらしたのが「風吹く良き日」という80年の作品です。私にとってもすごく重要な作品になりました。この作品は、田舎からソウルに出てきた3人の青年の話です。私はそのうちの一人で中華料理店の出前持ちの役でした。3人を通して社会の現実を赤裸々にリアルに描いた画期的な作品でした。

 「風吹く良き日」を製作中に朴大統領が射殺されたんです。絶妙なタイミングでした。その後、次の政権になってまた検閲が強化されました。だから、この映画は、少し早くてもまた遅くても、作ることができなかったし公開もされなかったことでしょう。当時、知識人や映画人に勇気を与え、韓国映画の新しいスタートを知らせる作品だったと言えます。

  私自身にとっても、「映画はこうあらなければいけない」と、以後の方向性を見つけることができた作品でした。現実に参与できる映画、歴史性がある映画に出演したいと思うようになりました。役も、満ち足りた人間よりもそうでない人間、持てる人間よりも持たざる人間、苦悩の多い人間の役をたくさんやるようにしました。歳をとってからは、大統領や王様の役もやるようになりましたけれど…。
※  ※  ※

  「風吹く良き日」、素晴らしい作品なので、ぜひご覧ください。
 現在、東京の新宿で7月3日まで上映されています。
 公式HPはこちら(http://www.kazetokujira.com/
 上映予定(http://info.movies.yahoo.co.jp/detail/tyst/id4526/

 (k)


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2 コメント

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Unknown (ぱっちん)
2011-06-30 01:19:22
先日「風吹く良き日」観てきました。
この作品を境にして韓国映画が変化したとばかり思い込んでいました。
アン・ソンギさんの言葉を読みながら、いま一度、時代のうねりを感じました。

やっぱりアン・ソンギさん、私の永遠のスターです^^
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Unknown (k)
2011-07-01 08:27:00
ぱっちんさん、コメントありがとうございます。
この作品が、後の韓国映画に大きな影響を与えたのは確かなようですね。
わたしも、久しぶりに観て、いろんなことを考えました。
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