
『ロイドの要心無用』
(Safety Last! フレッド・ニューメイヤー/サム・テイラー監督 1923 アメリカ)
福山雅治さんが出演しているマヨネーズのCMで、現在放送されているのが「燕尾服とおにぎり」編。
山高帽に燕尾服といういでたちの男が一軒の家の前にたたずんでいる。
無表情の彼の上に、家の壁がたおれてくる。
でも男の立っている場所がちょうど小窓の位置で、壁は奇跡的に彼の体をすりぬけてゆく。
これは、長編映画『蒸気船』でバスター・キートンが披露した世界一有名なスタント・ギャグを引用しています。
映像もサイレント映画っぽいモノクロだし、忠実にキートンのギャグを再現してくれているのが、キートンファンとしてはとってもうれしい。
ただね、福山さんの衣装が、なぜかキートンというよりチャップリンっぽいんですよ。
「このギャグってチャップリンのだったんだ~」って誤解される怖れがあるやんか!
と思うと、キートンファンとしてはありがた迷惑だったりもします(笑)
と、このようにチャップリンやキートンは日本でも引用されることがある一方、紹介されることがほぼ皆無なのが、ハロルド・ロイドです。チャップリン、キートンとならんで三大喜劇王のひとりであるにもかかわらず!
みんな、もっとロイドを観ようよ!!
・・・とは言うものの、わたし自身ちゃんとロイドを観るようになったのは、ほんのここ2年ほどなのですけどね(汗)
熱狂的なキートン信者となって以来、キートンと同時代のサイレント・コメディにハマって、いろいろと手を出すようになりました。
最初に観たロイド作品は『ロイドの人気者』。
しかしその時期は、キートンの派手なアクションやシニカルな笑いに夢中になりすぎていたため、「近所の気のいい兄ちゃん」的なロイドのキャラがどーにも物足りませんでした。
ところが、その後ふとしたきっかけで観たロイドの短篇『何番何番』に、大爆笑。
それを境に、ロイドを見る目が180度変わりました。つまり、大ファンになった!
『ロイドの要心無用』は、ハロルド・ロイドの代表作。
ほとんどロイドの代名詞となっている「ビルよじ登り」シーンで有名な映画です。
田舎に婚約者を残して都会に出た"The Boy"(ハロルド・ロイド)は、ひと旗あげようとがんばるが、ありついた仕事はしがないデパートの売り子。わずかな給料をつぎこんで婚約者には高価なプレゼントを買い、自分はいつも腹をすかせている。
ある時、センセーショナルな宣伝をした者に多額の報酬をあたえるという支配人の言葉を聞きつけたロイドは、身軽な相棒にたのんで、12階建てのデパートのビルを素手でよじ登らせるという宣伝を思いつく。
ところが当日相棒はしつこいお巡りさんに追い回されてどうしても登れない。万事休す、とうとうロイド自身がビルをよじ登ることに・・・
スーツに革靴、メガネにカンカン帽という「ごく普通の人」のいでたちで、ロイドが冷や汗たらたら流しながらビルの壁を登ってゆく姿は、何度観てもスリル満点です。
結末がわかっているのに「キャーあぶない」とか「うわーやめてー」とつい叫んでしまう。
20年代に劇場で観ていたお客さんの中には、あまりの恐怖に卒倒してしまう人までいたそうです。
そうなるはずではなかったのに、てっぺんの大時計まで登ってきてしまうロイド。
時計の長針にぶらさがる彼の姿は、観る人に強烈な印象を残します。
これを読んで『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のクライマックスを思い出す方は多いはず。
『要心無用』は、後年のたくさんの映画に影響をおよぼしました。
コーエン兄弟の『未来は今』、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズ、ホイ兄弟の『Mr.BOO!』シリーズ・・・そして『プロジェクトA』で、ジャッキー・チェンは時計台からの落下という決死のスタントをロイドにささげています。
・・・と、ここまで盛り上げといてナンなのだけど、実はロイドのビルよじ登りは「決死」ではなかったらしい。
ロイドが登っているのは実は低いビルの屋上にたてたセットで、カメラの絶妙な位置によってものすごい高層ビルを登っているかのようなイリュージョンを作り出していたんだそうです。
ちょっとガッカリ?(笑)
とはいえ、実際高い所で危険なアクションをしていたのは事実だし、セットから落ちれば大ケガをするリスクはもちろん負っていました。
それに、カメラワークと編集によってこれほどのスリルを作り出したことは、決死のスタントをすることと同様、きわめて映画的なすぐれた功績だったと思います。
さらに驚くべきことに、ロイドは1920年に撮影中の事故で右手の指を3本失っています。
事故後、義指と特殊な手袋をつけて彼は映画を作り続けました。
なんと事故で制作が中断した作品もボツにせず、最後まで完成させたという事を知ったときは本当に驚きました。まさに鋼の精神力としかいいようがない!
あくまで明るくハードなアクションをやってのけるロイドは、超かっこいいのです。
三大喜劇王のなかで、ぶっちゃけいちばんハンサムなのはロイド。
いちばんたくさん作品を作ったのもロイド。
興行収入がいちばん多かったのもロイドです。
そして、バスター・キートンとともにスラップスティック・コメディのすばらしき歴史を支えたのは、確実にチャップリンではなく、ハロルド・ロイドでした。
(Safety Last! フレッド・ニューメイヤー/サム・テイラー監督 1923 アメリカ)
福山雅治さんが出演しているマヨネーズのCMで、現在放送されているのが「燕尾服とおにぎり」編。
山高帽に燕尾服といういでたちの男が一軒の家の前にたたずんでいる。
無表情の彼の上に、家の壁がたおれてくる。
でも男の立っている場所がちょうど小窓の位置で、壁は奇跡的に彼の体をすりぬけてゆく。
これは、長編映画『蒸気船』でバスター・キートンが披露した世界一有名なスタント・ギャグを引用しています。
映像もサイレント映画っぽいモノクロだし、忠実にキートンのギャグを再現してくれているのが、キートンファンとしてはとってもうれしい。
ただね、福山さんの衣装が、なぜかキートンというよりチャップリンっぽいんですよ。
「このギャグってチャップリンのだったんだ~」って誤解される怖れがあるやんか!
と思うと、キートンファンとしてはありがた迷惑だったりもします(笑)
と、このようにチャップリンやキートンは日本でも引用されることがある一方、紹介されることがほぼ皆無なのが、ハロルド・ロイドです。チャップリン、キートンとならんで三大喜劇王のひとりであるにもかかわらず!
みんな、もっとロイドを観ようよ!!
・・・とは言うものの、わたし自身ちゃんとロイドを観るようになったのは、ほんのここ2年ほどなのですけどね(汗)
熱狂的なキートン信者となって以来、キートンと同時代のサイレント・コメディにハマって、いろいろと手を出すようになりました。
最初に観たロイド作品は『ロイドの人気者』。
しかしその時期は、キートンの派手なアクションやシニカルな笑いに夢中になりすぎていたため、「近所の気のいい兄ちゃん」的なロイドのキャラがどーにも物足りませんでした。
ところが、その後ふとしたきっかけで観たロイドの短篇『何番何番』に、大爆笑。
それを境に、ロイドを見る目が180度変わりました。つまり、大ファンになった!
『ロイドの要心無用』は、ハロルド・ロイドの代表作。
ほとんどロイドの代名詞となっている「ビルよじ登り」シーンで有名な映画です。
田舎に婚約者を残して都会に出た"The Boy"(ハロルド・ロイド)は、ひと旗あげようとがんばるが、ありついた仕事はしがないデパートの売り子。わずかな給料をつぎこんで婚約者には高価なプレゼントを買い、自分はいつも腹をすかせている。
ある時、センセーショナルな宣伝をした者に多額の報酬をあたえるという支配人の言葉を聞きつけたロイドは、身軽な相棒にたのんで、12階建てのデパートのビルを素手でよじ登らせるという宣伝を思いつく。
ところが当日相棒はしつこいお巡りさんに追い回されてどうしても登れない。万事休す、とうとうロイド自身がビルをよじ登ることに・・・
スーツに革靴、メガネにカンカン帽という「ごく普通の人」のいでたちで、ロイドが冷や汗たらたら流しながらビルの壁を登ってゆく姿は、何度観てもスリル満点です。
結末がわかっているのに「キャーあぶない」とか「うわーやめてー」とつい叫んでしまう。
20年代に劇場で観ていたお客さんの中には、あまりの恐怖に卒倒してしまう人までいたそうです。
そうなるはずではなかったのに、てっぺんの大時計まで登ってきてしまうロイド。
時計の長針にぶらさがる彼の姿は、観る人に強烈な印象を残します。
これを読んで『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のクライマックスを思い出す方は多いはず。
『要心無用』は、後年のたくさんの映画に影響をおよぼしました。
コーエン兄弟の『未来は今』、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズ、ホイ兄弟の『Mr.BOO!』シリーズ・・・そして『プロジェクトA』で、ジャッキー・チェンは時計台からの落下という決死のスタントをロイドにささげています。
・・・と、ここまで盛り上げといてナンなのだけど、実はロイドのビルよじ登りは「決死」ではなかったらしい。
ロイドが登っているのは実は低いビルの屋上にたてたセットで、カメラの絶妙な位置によってものすごい高層ビルを登っているかのようなイリュージョンを作り出していたんだそうです。
ちょっとガッカリ?(笑)
とはいえ、実際高い所で危険なアクションをしていたのは事実だし、セットから落ちれば大ケガをするリスクはもちろん負っていました。
それに、カメラワークと編集によってこれほどのスリルを作り出したことは、決死のスタントをすることと同様、きわめて映画的なすぐれた功績だったと思います。
さらに驚くべきことに、ロイドは1920年に撮影中の事故で右手の指を3本失っています。
事故後、義指と特殊な手袋をつけて彼は映画を作り続けました。
なんと事故で制作が中断した作品もボツにせず、最後まで完成させたという事を知ったときは本当に驚きました。まさに鋼の精神力としかいいようがない!
あくまで明るくハードなアクションをやってのけるロイドは、超かっこいいのです。
三大喜劇王のなかで、ぶっちゃけいちばんハンサムなのはロイド。
いちばんたくさん作品を作ったのもロイド。
興行収入がいちばん多かったのもロイドです。
そして、バスター・キートンとともにスラップスティック・コメディのすばらしき歴史を支えたのは、確実にチャップリンではなく、ハロルド・ロイドでした。
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