漢検一級 かけだしリピーターの四方山話

漢検のリピート受検はお休みしていますが、日本語を愛し、奥深い言葉の世界をさまよっています。

古今和歌集と百人一首

2021-08-26 21:22:09 | 古今和歌集

このブログをいつもご覧くださっている and さまより、0666 の記事に質問のコメントをいただきましたので、超久しぶりに「一日一首の古今和歌集」以外の記事を書きま~す。 (笑)

 

Q. 古今和歌集とは?
A. 醍醐天皇の命により、わが国最初の勅撰和歌集(=天皇や上皇の命によって編纂された和歌集)として編纂された和歌集。成立は905年頃とされ、1,100首が収録されています。編集にあたったのは 紀友則・紀貫之・凡河内躬恒・壬生忠岑 の4名で、中心を担ったのは紀貫之。有名な「仮名序」を書いたのも貫之です。

Q. 百人一首とは?
A. 普通「百人一首」と言えば、藤原定家が選定した「小倉百人一首」を指します。その名の通り百人の歌人の歌を一首ずつ選んだ秀歌集。正確な成立時期は不明ですが、定家の没年が 1241 年なので13世紀前半の成立と推定されています。

Q.  0625 は百人一首の中の一首ですか?
A. はい。記事中にも書きましたが、0625 は百人一首の第30番に収録されています。

Q. 100(=百人一首の収録歌)は1,100(=古今和歌集の収録歌)の部分集合ではないですよね?
A. はい、違います。百人一首は古今和歌集から続後撰和歌集までの10の勅撰和歌集から歌が採られています。各和歌集からの採録数は次の通りで古今和歌集の歌がもっとも多くなってはいますが、それでも全体の四分の一ほどですね。

古今和歌集 :24
後撰和歌集 :7
拾遺和歌集 :12
後拾遺和歌集:14
金葉和歌集 :5
詩花和歌集 :5
千載和歌集 :15
新古今和歌集:14
新勅撰和歌集:4
続後撰和歌集:2

↑ これ、全部足すと実は 100 ではなく 102 になります。何故かと言えば、第20番の元良親王の歌は後撰和歌集と拾遺和歌集の両方に、第55番の藤原公任の歌は千載和歌集と拾遺和歌集の両方に採録されているからです。せっかくなのでこの二首をご紹介して、記事の締めくくりにしたいと思います。読んでいただいてありがとうございました。^^

 

わびぬれば いまはたおなじ なにはなる みをつくしても あはむとぞおもふ

わびぬれば 今はた同じ 難波なる みをつくしても 逢はむとぞ思ふ

元良親王

(後撰和歌集 巻第十三 恋歌五 第960番)

 

たきのおとは たえてひさしく なりぬれど なこそながれて なほきこえけれ

滝の音は 絶えて久しく なりぬれど 名こそ流れて なほ聞こえけれ

藤原公任

(千載和歌集 巻第十六 雑歌上 第1035番)

 

 

 

 


古今和歌集 0666

2021-08-26 19:06:38 | 古今和歌集

しらかはの しらずともいはじ そこきよみ ながれてよよに すまむとおもへば

白川の 知らずともいはじ 底清み 流れて世々に すまむと思へば

 

平貞文

 

 白川の名のようにあの人を知らないとは言うまい。白川の水が底まで清らかであるように、私も心底からいつまでもあの人に思いを寄せ続けようと思うので。

 「白川」は鴨川に合流する京都の川。音の連想から「知らず」を導いています。「世々」は長い年月の意。「すまむ」は「済まむ」と「住まむ」の掛詞ですね。平貞文の歌は 0279 以来久々の登場。古今集には九首、勅撰集全体では26首が入集している勅撰歌人です。


古今和歌集 0665

2021-08-25 19:09:19 | 古今和歌集

みつしおの ながれひるまを あひがたみ みるめのうらに よるをこそまて

満つ潮の 流れひるまを 逢ひがたみ みるめの浦に よるをこそ待て

 

清原深養父

 

 満ちた潮が流れて引いていく昼間には逢えないので、海松布(みるめ)が海岸に寄ってくる夜にはあなたに逢おうと夜が来るのを待っています。

 「ひる」は「干る」と「昼」、「みるめ」は「海松布」と「見る目」、「よる」は「寄る」と「夜」の掛詞になっています。掛詞を自由自在に用いて、潮の干満と昼夜を巧みに対応させて逢瀬への思いを詠んだ恋歌です。

 

 


古今和歌集 0664

2021-08-24 19:31:44 | 古今和歌集

やましなの おとはのやまの おとだにも ひとのしるべく わがこひめかも

山科の 音羽の山の 音だにも 人の知るべく わが恋ひめかも

 

よみ人知らず
この歌、ある人、近江の采女のとなむ申す

 

 噂で人に知られるような、そんな恋を私がするものだろうか。いや、しはしない。

 第一句・第二句は「音」を導く序詞。「音羽の山」は、その名前から「音(=噂)」との連想で詠まれることの多い歌枕ですね。左注に、この歌は近江の采女作との説があるとの記載がありますが、この「近江の采女」とは誰なのかはわかっていません。


古今和歌集 0663

2021-08-23 19:05:00 | 古今和歌集

ささのはに おくはつしもの よをさむみ しみはつくとも いろにいでめやは

笹の葉に 置く初霜の 夜を寒み しみはつくとも 色に出でめやは

 

凡河内躬恒

 

 笹の葉に置いた初霜は、夜が寒いので凍みつくけれども、笹の葉を色づかせることはない。それと同じように、私もあなたへの思いを表に出すことはしません。

 第四句の「しみ」は「凍み」と「染み」を掛けて、笹の葉が霜で凍ることと作者が愛しい人への思いに染まることを同時に表現しています。「初霜」は躬恒が好んだ語のようで、古今集の中でも 02770416 にも登場しています。

 

こころあてに をらばやをらむ はつしもの おきまどはせる しらぎくのはな

心あてに 折らばや折らむ 初霜の おきまどはせる 白菊の花

(0277)

 

よをさむみ おくはつしもを はらひつつ くさのまくらに あまたたびねぬ

夜を寒み 置く初霜を はらひつつ 草の枕に あまたたび寝ぬ

(0416)