バイデン副大統領は、オバマ政権が発足から約1年間に講じたクリーンエネルギー関係の施策とその成果をまとめた「進捗報告:クリーンエネルギー社会への移行」を大統領宛てに提出しました。「2009年米国再生・再投資法」や、既存のプログラムによる再生可能エネルギー利用促進策・エネルギー効率向上策のほか、国有地利用の改善などの措置を含む網羅的な内容となっています(
こちらをご覧ください)。
報告書によると、09年2月に成立した2009年法のクリーンエネルギー関連予算として、約800億ドルが充てられました。これと民間などからの投資を合わせて1,500億ドルのクリーンエネルギー事業が創設され、また、既存のプログラムによってさらに約900億ドルの事業が創設されたということです。これらの予算には、グラントなどの助成プログラムのほか、政府による貸し付けプログラムや税制の優遇措置なども含まれています。
分野別報告の概要は次のとおりです。
1 再生可能エネルギー:発電促進に向け国有地利用を改善
再生可能エネルギーについては、今後3年間で発電量を倍増するための施策を講じています。2009年法の234億ドルによって、25万3,000人の雇用創出が見込まれます。また、これに合わせて行われる民間などからの投資430億ドルによって、さらに46万9,000人の雇用が創出される見込みです。
また、国有地での再生可能エネルギー利用発電にかかる手続きを合理化するため、9つの連邦機関が覚書を締結しました〔09年10月23日に農務省、商務省、国防省、エネルギー省(DOE)、環境保護庁、環境評議会議、歴史遺産保存諮問委員会、内務省、連邦エネルギー規制委員会が締結した覚書〕。これにより、国有地利用許可にかかる時間が3分の1程度に短縮される見込みです。既に30件の国有地での再生可能エネルギー利用発電プロジェクトが、合理化された手続きの下で申請されています。
内務省は、再生可能エネルギー調整室と西部のプロジェクトを支援するためのチームを創設しました。さらに同省は太陽光発電施設のために国有地の利用を1,000平方マイル(2,590平方キロメートル)に拡大する措置や、連邦エネルギー規制委員会と協力して、沖合風力発電促進の助成措置を創設しました。
これらの施策によって、再生可能エネルギー利用発電量を09年当初の27.8ギガワット(GW)から12年には55.6GWに、国内の再生可能エネルギー利用装置の製造能力を09年当初の6GWから12GWに、ともに倍増を目指しています。
2 電気自動車:製造工場の新設に貢献
クリーン自動車については、プラグインハイブリッド車、電気自動車、充電施設などインフラ整備、新たなクリーン燃料などへの投資として160億ドルのプログラムを発表しました〔09年8月5日に発表された2009年法による先進的自動車用バッテリー製造施設に対する助成措置のほか、既存のDOEの先進技術自動車製造(ATVM)貸し付けプログラムによる支援(フォード、日産、テスラ、フィスカーなどの電気自動車やバッテリー製造施設に対する貸し付けを発表)などを含む〕。
これにより、今後6年間で3つの新たな電気自動車製造工場が立ち上がり、バッテリーなど30の自動車部品製造工場が生産を開始します。なお、2009年法施行前は、国内には年間1,000台以上の電気自動車を生産する工場は存在せず、自動車用バッテリー工場もインディアナ州とカリフォルニア州に1件ずつあるだけでした。
また、クリーン自動車関係のインフラ整備として、10数都市に1万ヵ所以上の充電施設を整備する予定です。
バイオ燃料は、現在90億ガロンの国内生産を22年までに4倍の360億ガロンにし、そのうちセルロース系などの次世代バイオ燃料の生産を210億ガロンにすることを目標としています。景気対策法は、当該分野の支援のためのグラントや貸し付けプログラムとして約6億ドルを用意しており、政府による貸し付けプログラムなどと合わせ、19のバイオ燃料精製のパイロット、実証・商用規模のプロジェクトを支援する予定です。なお、約6億ドルのうち約5億6,000万ドルはDOEのグラント、約5,000万ドルは農務省の貸し付けプログラムで、両措置とも09年12月4日に対象事業が発表されました。
3 スマートグリッド:メーターなどのインフラ整備に投資
スマートグリッドについては、2009年法による約40億ドルの助成により、4万3,000人の新たな雇用が創出されました。また民間などからの約57億ドルの投資により、さらに6万1,000人の雇用創出が見込まれます。
2009年法によって、現在の倍以上に当たる1,800万台のスマートメーターの普及が見込まれます。さらに、15年までに公的資金と民間投資によって設置台数は4,000万台に達する見込みです。同法によって、送配電網の信頼性向上とセキュリティー確保のためのセンサーを、現在の5.5倍に当たる877台設置する予定です〔10月27日に対象事業が発表されたDOEの「スマートグリッド投資グラント」(34億ドル)を指します〕。
4 省エネ:家電省エネ基準の策定作業を加速
エネルギー効率の向上では、10年末までに50万世帯の低所得者住宅について断熱材や二重窓の設置といった耐候性の向上を行います。また、2009年法は住宅のエネルギー効率向上資金について、30%(限度額は1件当たり1,500ドル)の税制優遇措置を用意しています〔建物外面のエネルギー効率向上(断熱材の導入、ドアや窓の改善、熱を防ぐための屋根の改善など)を図った場合の購入費用、エネルギー効率のよい暖房機、冷房機や温水器の購入費用や設置のための人件費の30%の税額控除を認める制度。「08年エネルギー向上および拡張法」に基づく措置だが、2009年法によって適用期間の延長や限度額の拡大が図られました〕。
さらに、DOEが新設した「改善強化(Retrofit Rump Up)プログラム」〔09年9月に発表された地域単位の省エネ促進事業に対する新たな助成プログラムです。2009年対策法により4億5,000万ドルが手当てされています〕は、地域や町単位の省エネのための修繕経費の負担軽減に貢献すると見込まれています。
家電などの省エネ基準策定について、前政権は年間平均1機種のペースで基準設定を行っていましたが、オバマ政権は、12年にかけて年間平均6機種の基準設定を行うことにしました〔「1975年エネルギー政策・省エネ法」などに基づき、DOEは家電などの省エネ基準を策定することになっていますが、前政権では策定作業が進んでいませんでした。09年2月にオバマ大統領がDOEに対して、法令などが要請する20種あまりの機器の基準策定を急ぐよう指示し、8月から9月にかけて、a.食器洗い機と白熱灯、b.電子レンジと電気・ガスキッチンレンジ、c.蛍光灯と白熱反射灯、d.商用ボイラーと空調装置、e.冷蔵飲料自動販売機、の5種の機器の省エネ基準が発表されました〕。
5 CCS、原子力など:新設原子炉に対する債務保証プロジェクトを用意
炭素回収・貯留(CCS)に対しては、2009年法による助成と既存の貸付保証制度によって約100億ドル〔2009年法によりクリーンコール予算としてDOE化石エネルギー部に対し約34億ドルが用意されたほか、9月には同法に基づき、CCS技術開発に60億ドル、先進的石炭ガス化発電プロジェクトに20億ドルの債務保証が発表されています〕、民間からの40億ドルの投資がクリーンコール技術に向けられています。これにより、現在は商用の大規模なCCS施設はありませんが、15年までには5施設で年間1,200万トン以上のCCSが実施される見込みです。
原子力発電については、11年までに2つの発電事業者による3~4基の原子炉建設に対して債務保証を行う予定です〔現在、原子力規制委員会に18ヵ所の原子力発電所の原子炉増設、または新設の許可申請が提出されています。一方でDOEは原子炉建設のため185億ドルの債務保証プログラムを発表しており、その対象プロジェクトの選定作業を行ってますが、サザン・コーポレーションの子会社であるジョージア・パワーのボグトル発電所の3、4号機(いずれも改良型加圧水式原子炉)の増設などが対象となる可能性が高いとみられています〕。
科学と技術革新分野では、10年度に126億ドルを主要な国立研究所や大学などでの先進的研究開発に充てます。
また、2009年法の4億ドルの資金によって、再生可能エネルギー利用発電、エネルギー貯蔵やバイオ燃料などの先進的エネルギー技術の研究開発ペースを加速するプロジェクトを助成する「先進的研究プロジェクト庁-エネルギー(ARPA-E)」を創設しました〔09年4月にDOEの新しい機関として創設されたARPA-Eは、10月に企業や大学の37の研究プロジェクトに対する助成を発表し(助成総額1億5,000万ドル)、12月には2回目の助成プロジェクトの募集(助成総額1億ドル)を発表しました〕。